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30 結果発表


 案の定と言うべきか、冒険者試験のことはバレていた。

 元から麒麟児の落ちこぼれとして噂が立っていたが、今回はその比じゃない。

 通学路の段階から生徒たちの視線が刺さり、校門を越えた辺りからは特に酷くなった。


「麒麟児の落ちこぼれが冒険者になったってよ」

「落ちこぼれなのになれるんだな」

「落ちこぼれだからこんなに掛かったんだろ? ほかの麒麟児、見てみろよ」

「なるほど、言えてる」


 冒険者試験の合否はこれからわかると言うのに、噂の中にいる俺はもう冒険者になったらしい。

 人の噂なんて正確性に欠けるものだとはわかっているけど、なんだかな。


「あ、おはよ。百瀬くん」

「おはよ」


 人目を避けるように校舎に入るとちょうど真導も登校したところだった。


「あはは、なんだか思った以上に噂が立ってるね」

「みたいだな。お祭り騒ぎだ」


 角に隠れてこちらを見ている生徒に目をやると、さっと隠れられる。


「もう届いてるかな?」

「時間的には。先生たちが預かってるはずだ」

「うぅー、どっちだろ。早く知りたいような、いつまでも知りたくないような」

「どっちにしろその時が来たら耳を塞いでても知らされるんだ。腹を括るなら今のうちだぞ」

「そだね。ふー……よし、どんと来い!」


 その真導の意気込みに答えるように担任の先生が現れる。


「真導さん。あぁ、百瀬くんも一緒ね。ちょうどよかったわ。二人とも職員室に来てくれる?」

「あ、はい」

「来ちゃった、来ちゃった、もう来ちゃった! どうしよう!」

「さっき腹括ったばっかりだろ? ほら、行こう」

「う、うん」


 先生の後について、決して遠くはない職員室へと向かう。


「あたしだけ落ちてたらどうしよう……」

「片方が落ちてたら俺たちを同時には呼ばないからそれはない。両方受かってるか落ちてるかのどっちかだ」

「両方受かってますよーに!」


 真導は歩きつつも両手を合わせて天に祈る。

 祈っても結果は変わらないけれど、俺も心の中で祈っておいた。

 祈って損することなんて何もない。


「もうついちゃった」


 職員室に入った途端にコーヒーの匂いがした。

 先生たちの場所とあって自然と背筋が伸びる。

 出入り口の辺りで待っていると、先生は二つの封筒を持って戻ってきた。


「隣の応接室に行きましょうか」


 職員室を出てその隣りにある応接室へ。

 新品同然の椅子やテーブル。上等な花瓶に生けられた生花。

 普段なら入る機会もあまりない場所で封筒はそれぞれに手渡された。


「それに合否が書かれているわ。貴方たちの目で確かめて」


 俺たちは顔を見合わせて封筒の封を切る。


「ね、ねぇ、せーので出さない? 一人で確かめるのはちょっと怖いし」

「あぁ、わかった。じゃあ行くぞ、せーの」


 封筒から書類を取りだし、机上に出す。

 目に飛び込む二人の合否。

 二枚の書類にははっきりと合格の文字が綴られていた。


「――やった! やった、やった、やったよ! 百瀬くん!」

「あぁ、やったな。なんだか安心して力が抜けてきた」


 ガッツポーズを取る真導と、背もたれに身を預ける俺。

 反応は対照的だけど、嬉しい気持ちは同じくらいある。

 合格できていて本当によかった。


「今日から冒険者だ」


 言葉にすると実感が湧いてくる。

 十年以上、目を逸らし続けて来たことにようやく今しっかりと向き合えた気がする。


「まさか在学中の生徒から冒険者が出るなんてね、それも二人。先生も鼻が高いわ」

「先生には色々と相談に乗ってもらったし、感謝感謝だよ」

「そうね、秘密にするのも大変だった。でも、その苦労も実を結んだみたいでほっとしてるわ。百瀬くんについて私はよく知らないけれど、でも貴方にも言わせてね。二人ともおめでとう」

「ありがとうございます」

「ありがと!」


 冒険者見習いを続けていた真導にも俺が知らないような苦労があったのだろう。

 先生に相談していたとは思わなかったな。

 でも、まぁ、相談相手となると先生くらいしかいないのか。

 担任がこの先生でよかったな。


「冒険者っ! 今日から冒険者だー!」


 合格通知を眺める真導は心の底から幸せそうに見える。

 感情が顔に出やすいタイプだよな、真導って。


「えへへ、百瀬くんも嬉しそう」

「俺も? そんな顔してた?」

「うん! にこにこ!」

「そっか、そんな顔してたか」


 自分の顔に手を当てる。

 思いの外、俺も顔に出やすいタイプなのかも知れなかった。


§


 応接室を出て先生と別れて教室へと戻る。

 扉を開くと当然と言うべきか、クラスメイトたちの視線の的になった。

 真導はすぐに女友達に保護されるように囲まれ、無防備な俺は遠巻きに視線を送られ続ける。

 クラスメイトとの交流を持たない俺は、だから保護されている真導よりも声を掛けづらいようだった。

 でも、それは俺からすれば好都合。

 数多の視線を受けて居心地の悪さを感じつつも、午前の授業を消化して迎える昼休み。

 ふと隣りに男子生徒が立ち、声を掛けられた。


「ちょっといいか? 百瀬」


 学級委員長を務める天野あまの。たしか下の名前は大地だいちだったはず。

 彼と言葉を交わしたことはほとんどなく、日常会話にいたってはしたことがない。

 それがなぜ?

 そう言えば、これは噂だけど、天野も真導に好意を寄せている一人だとか。

 俺と真導がペアで話題に上がる中、このタイミングで話しかけられては嫌でも色々と勘ぐってしまう。


「……あぁ、わかった」


 気乗りはしないけれど、席を立った。

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