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29 雷の剣


 以前に真導がジオラマを訪れた時、ウェポンビーストたちは通常通りだった。

 だが、今回は違う。みんな伊鳴を避けるように逃げてしまう。

 真導と伊鳴でなにが違うんだ?


「もしかして……魔力か?」

「魔力?」

「雷の魔力が俺の魔力と競合してるのかも知れない」


 真導と伊鳴の違いはそれしか思い浮かばない。


「それじゃあ、もう……」

「いや、まだ手はある。ここにいる子たちは無理でも、例えば魔導機械の武器をウェポンビーストにするとか。いや、伊鳴の魔力で回路がショートするか。なら電気に耐性があって――」


 ふと見た伊鳴の頬が緩んでいた。


「なにか可笑しかったか?」

「ううん、嬉しい」

「嬉しい?」

「伊鳴のために頑張ってくれてるから、嬉しい」

「約束だからな。数少ない友達だし」

「そっか」

「そうだよ」


 頑張らないと。


「しかし、電気に耐性があるものか。ゴムとか? それを武器にするなら鞭、ゴムの鞭? 氷もたしか絶縁体だっけ。でも雷の熱で溶けるか」

「ねぇ」

「ん?」

「心当たりがある、から」

「あぁ」

「うちに、来て?」

「伊鳴の家に?」

「うん」


 見当も付かないが、伊鳴はなにか閃いたらしい。

 ここにいても埒があかないことだし、ここは伊鳴の閃きを信じよう。

 伊鳴の手を取り、ジオラマの外へ。

 その足で部屋を後にし、久しぶりの伊鳴の家へと向かう。

 実に十年ぶりだ。


§


「ついた」

「変わらないな、ここも」


 昔懐かしい記憶通りの東雲家が目の前に建っていた。

 壁の色も、窓の数も、プランターの位置ですら合致する。

 ややスケールが小さく感じてしまうのは、俺がそれだけ大きくなったからか。


「懐かしい」


 サブロウがいた犬小屋にはもう誰もいない。

 あれから十年だ。変わったこともある。


「行こ」

「あぁ」


 伊鳴に連れられて東雲家の中へ。

 玄関で靴を脱いでいると、飾られていたサブロウの写真が目に付く。

 まだ幼い伊鳴の隣りには俺の姿もあった。


「来て」


 スリッパに履き替えて二階への階段を上る。


「今日はお父さんもお母さんもいない、から」

「そっか。十年ぶりに挨拶でもと思ってたけど。よろしく伝えてくれ」

「うん」


 階段を登り切った先が伊鳴の部屋だ。

 中に入ると伊鳴らしいシンプルな内装に出迎えられる。

 昔とは違うベッドの位置、カーテンのデザインも変わり、ぬいぐるみはなくなっていた。


「待ってて」

「あぁ」


 伊鳴の自室に残され、窓辺によって外の景色に目を向ける。

 それもまたやはりと言うべきか、十年前の記憶とは違って見えた。

 しばらく景色を見ながら耽っていると伊鳴が戻ってくる。

 その手には一振りの剣が握られていた。


「それ、伊鳴がいつも使ってる……」

「もう十年くらい、かな」


 たしか古城ダンジョンに真導と挑戦した時にも使っていたな。


「この剣を?」

「うん。あのね、この剣を使うと調子がいいの。魔力が冴えて雷が鋭くなる、気がする」

「なるほど……この剣には伊鳴の魔力が染みついてるのかもな」


 十年以上連れ添った剣だ、そういうこともあるだろう。

 この大事に扱われてきた剣なら、伊鳴に相応しいウェポンビーストになるかも知れない。


「でも、いいのか? もし懐かなかったら」

「その時は尊人が面倒を見てあげて。尊人なら任せられるから」

「……わかった」


 伊鳴の言葉は、ファラを真導に託すと決めたときの気持ちを想起させた。

 それほどの思いなら、俺もきちんと受け止めよう。


「なら」

「うん」


 鞘に収まった剣を受け取り、俺に宿った特異な魔力を流し込む。

 瞬間、瞬く間に剣は姿を変えて生物の姿へと変貌する。

 両翼を広げ、紫電を纏い、舞い上がる一羽の鳥。


「――たか


 その鷹は室内をぐるりと一周すると伊鳴の肩に爪を立てることなく降りる。

 それはあたかも俺の手から自らの主の元へと舞い戻るかのように。


「読みが当たったな」

「うん」


 伊鳴は微笑みを浮かべ、鷹の羽毛に触れる。

 どのウェポンビーストからも避けられたその指先を、鷹は当然のように受け入れた。

 決定的だ。


「名前はどうする?」

「名前……」

「家族には名前がないと」

「……なら」


 すこし悩んで、伊鳴は名付ける。


「ほとばしる紫電と風を掴む羽根、だから紫風シフ

「シフか。いい名前だ」


 これからの伊鳴はシフと共にある。


「待っててよかった。ありがとう、尊人」

「どう致しまして。合格発表が出て、それで俺が冒険者になれたら一緒にダンジョンに挑戦しよう、約束通り。ウェポンビーストについても色々と教えたいし」

「うん。楽しみにしてる」


 里親という形ではなかったにしろ、伊鳴はウェポンビーストを手にした。

 これからお互いのことを知り、絆を深めていくことだろう。

 いつかは俺や真導のように心重を発動できるようになるはず。

 その日が楽しみだ。


§


 翌日の朝、自宅のベッドで目が覚める。

 今日は登校日、冒険者試験の合否通知が学校に送られる日だ。

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