27 試験終了
赤の彩りを添えた燕が虚空に掻き消える。
眉間を射貫かれたシルバーバックは砂に塗れる前に魔石と化して落ちる。
群れのリーダーの死。それを認識した狒々たちは瞬く間に統率を失った。
「真導!」
「うん! このまま一気に!」
動揺する狒々に斬り込み、更なる混乱を伝播させる。
そうなってしまえばあとは消化試合。
背を向けて逃げる個体、半狂乱となって襲いかかってくる個体。
どちらにせよ、先ほどまでの統率の取れていた動きに比べれば御しやすい。
一気呵成に攻め込んで次々に魔石へと変えていく。
最後の一体を斬り伏せた時、通路には魔石が敷き詰められていた。
「わお、壮観。こうしてみると綺麗だね」
浮かぶ燭台の明かりを反射して光の海のように輝いている。
「いつまでも眺めていたいけど、魔石は奪い合いだ。ほかの冒険者見習いが来るまえに回収しよう」
「そだね、あたしたちみたいな悪い子がほかにもいるだろうし」
魔法で魔石を二等分してそれぞれの雑嚢鞄にしまう。
これで安心安全。
雑嚢鞄を直接狙ってくるような豪快な人はいない、はず。
「魔石も十分集まったし、このままゴールしよっか」
「賛成。魔石の数と踏破に掛かった時間、今ならどっちも良い評価になりそうだしな」
「よーし。じゃ、最後のもう一頑張りと行きますか!」
狒々の大きな群れを乗り越えて先へと進めば直ぐそこはゴール地点。
ダンジョンの最奥にある空間には、魔法を扱うのに必要な古文書があったと言う。
それが保管されていたであろう台座が中心にあり、今では淡い緑色の灯火が宿っていた。
「これに触れればいいんだよね?」
「そのはずだ。じゃあ、せーので行くか?」
「うん。じゃあ、せーの!」
灯火に触れた瞬間、視界がぐにゃりと渦巻いたかと思うと直ぐさま元に戻る。
その瞬間にはすでに転送は終わっていて、足はダンジョンの外を踏んでいた。
「終わったー! 戻って来たー!」
「ここ……一斉に転送された場所か。なるほど、ここに戻るようになってたのか」
周囲を見渡すと俺たちより早く踏破した冒険者見習いがちらほらいた。
彼らの魔石の数はいくつだろう? 数を予想していると近くの試験官がこちらに気がつく。
「やあ、踏破おめでとう。キミ達の実技試験はこれで終了だ。お疲れ様」
「ありがとうございます」
最後に獲得した魔石を提出し、それから暫くして順次帰宅の流れとなった。
帰り道。
今朝、不安を抱きながら歩いた道を、今度はまた別の不安を抱えて歩く。
茜色に染まった夕日はどこかもの悲しく、不安を煽るかのようだった。
「合格できるかな? どうしよう、ちょっと不安になってきた」
「俺と真導の評価はたぶん同じくらいだし、片方が落ちたらもう片方も落ちるだろうな」
「二人揃って落ちてたらどうしよう!」
「今年受かるのがベストだけど、その時は来年また二人で受ければいい」
「また二人で……うん、そだね。もうあんな緊張するの嫌だけど、百瀬くんとなら頑張れる、かも、知れない、たぶん、きっと」
「どんどん元気がなくなっていく……」
合否が決まるのは数日後、一喜一憂していてもどうにもならないのは承知の上。
それでも結果がはっきりするまではこの調子だと思う。
かくいう俺も若干の不安を抱えている。
伊鳴との約束もあるし、反故にはしたくない。
受かるか落ちるかなら、当然俺も受かりたい。
「あー、もー! 気にしたってしようがない! こんなのあたしらしくない! 百瀬くん! 打ち上げ行こ! ぱーっと騒いで不安なんて吹き飛ばしちゃお! 伊鳴ちゃんも呼んでさ!」
「いいな。じゃあ伊鳴に連絡して――」
「レッツゴー!」
俺たちの冒険者試験はこうして騒がしく幕を閉じる。
その後、筆記と実技をこなした俺たちの疲労を気遣って、学校側は休みを延長してくれた。
試験当日と元々あった祝日を合わせて合計三日間の休み。
今のうちに疲れを癒やしておこう。
§
インターホンの音が響き、ジオラマから飼育部屋へと帰還する。
その足で玄関へと向かい、扉を開くとすこし視線を下げれば見知った顔が一つ。
「おはよう、伊鳴」
「おはよ、尊人」
学校が用意してくれた休みの三日目、最終日。
今日は伊鳴がウェポンビーストの里親になる日だ。
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