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25 幻獣の役目


「その足、大丈夫か? 治療は?」

「それが雑嚢鞄が裂けてしまって」


 彼女の言う通り、雑嚢鞄が爪かなにかで引き裂かれた様子だった。


「散らばった医療品が運悪く魔石化に巻き込まれてしまったんです」

「それは……災難だったな」


 そんな運の悪いことが起こるんだな、ここ一番って時に。


「なら俺のを――おっと」


 医療品を雑嚢鞄から取り出しつつ近づくと、銀色の幻獣に威嚇される。


「申し訳ありません。こら、ダメでしょ」

「くぅん」


 しょんぼりした様子で俯く姿はすこし可愛そうだった。


「まぁ、主が怪我してたら神経質にもなるよ。ほら、足を見せてくれ。自分じゃやりづらいだろうし」

「いいんですか? 私はライバルですし、時間のロスですよ?」

「冒険者は助け合いだ。いいから、ほら」

「……はい、ありがとうございます」


 銀色の幻獣に腰掛けた彼女の足を見る。

 流血は酷いが、傷口は見た目ほど酷くない。

 血を洗い流し、患部を消毒し、ガーゼを当ててしっかりと包帯を巻く。

 施された治癒魔法の効力ですこしすれば痛みも引くだろう。


「出来た。どうだ? キツくないか?」

「はい、大丈夫です。指先まで血が通ってますよ」

「なら大丈夫だな」


 立ち上がると銀色の幻獣とまた目が合う。

 睨まれて唸られはしたものの、襲いかかってくる様子はない。

 ちょっとは恩を感じてくれたかな?


「よいしょっと」


 銀色の幻獣の背から降りた彼女が地に足を付ける。

 すこしよろけたけれど、すぐに立て直した。

 この様子なら歩行に問題はなさそうだ。


「ありがとうございます。お陰で助かりました」

「いいってこと。じゃ、お互いに試験頑張ろうぜ」

「あ、待ってください。なにかお礼を」

「お礼? いいよ、そんなの」

「それでは私の気が済みません。なにかお礼をさせてください」

「そう言われてもな……」

「なにかしてほしいことだとか、困っていることはありませんか?」

「……まぁ、一緒に試験を受けてる友達と合流したい、くらいかな」

「友達と……それなら力になれそうです」

「え?」


 砂塗れの石畳みに描かれる魔法陣。

 召喚されたのは小さな子犬。


「わん!」


 可愛らしく鳴いてはいるが、その毛並みは銀色だった。

 子犬に見えたが狼なのか? 彼女に寄り添っている銀色の幻獣と似てるけど。


「なにかその友達の持ち物や匂いがわかるものはありませんか?」

「真導の持ち物か……匂い……思いつかないな」


 真導の持ち物なんて持っていないし、匂いがわかるものなって尚更だ。


「そうですか……一緒に食事などしていれば匂いを追うのに十分なのですが」

「そう言えば実技試験が始まる直前に缶ジュース飲んだな。同じの」

「おー、それです。それなら匂いを追えますよ」

「マジ?」

「わん!」


 マジだ、と子犬の幻獣は鳴き、俺も周りでくんくんと鼻を動かす。

 しばらくそうしていると再び一鳴きして通路の奥へと駆けていく。


「追い掛けてください。きっと友達のところへ導いてくれますよ」

「助かる。ありがとう」

「お礼をしているのは私のほうですよ」

「そっか。じゃ、頑張って」

「はい。お互いに合格しましょう」


 手を振って見送られ、少し先で立ち止まった子犬を追い掛ける。

 匂いははっきりと追えているようで、分かれ道の選択に迷いがない。

 ふりふりと軽快に揺れる小さな尻尾を追って何度か角を曲がっていく。


「わん!」

「お、見付けた?」


 元気よく速度を上げ通路奥の暗がりに消えて行く。

 置いて行かれないように走る速度を上げると聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あれ!? なにこの子! どこから来たの? 可愛い!」

「真導」

「あ! 百瀬くん! 合流できてよかったよ、まさか転送されちゃうなんてね」

「まったくだ。でも、無事なようでなにより」


 子犬を抱えた真導と無事に合流できた。

 感謝しないとな。

 そう言えば彼女の名前を聞きそびれてしまった。

 俺の名前も言ってない。

 けれど、まぁ、そのうち会えるだろう。

 きっと。


「なんだか百瀬くんの顔見るとほっとしちゃう。あ、そだ。この子は? この子もウェポンビーストなの? 初めましてだけど」

「いいや、その子犬は幻獣だよ。ちょっと色々あって召喚士に召喚してもらったんだ。それで真導の匂いを辿ったってわけ」

「あたしの? へー、幻獣ってそんなことも出来るんだ。えらい、えらい」

「わん!」


 真導に頭を撫でられて、子犬は嬉しそうに鳴く。

 それを合図にしたようにその銀色の体が透け始める。


「あ、もう行っちゃうの?」

「俺を案内し終わったからだな」

「そっか。じゃあね」

「わん!」


 子犬の幻獣は自らの役目を終えて、いるべき場所へと帰っていく。

 透明となって完全にいなくなると真導はゆっくりと両手を下ろした。


「また会えるかな?」

「たぶんな。でも、その前に実技試験を終わらせないと」

「そだね。百瀬くんと二人なら大丈夫。行こ行こ!」


 無事に真導と合流できたし、実技試験は順調だ。

 すでにダンジョンの半ばまで来ているはず。

 ここからは二人で踏破を目指そう。

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