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24 騎士鎧のゴーレム


 無数の龍鱗が雨のように降り注ぎ、ハイウルフの群れを打つ。

 正面の処理が終わって直ぐに振り返り、左手に召喚したチェーンを振るう。

 伸びた蛇腹の剣先が壁を浅く削りながら過ぎ、対象の頭を落とす。

 からんと音が鳴り、頭部を無くしたそいつは気にした様子もなくこちらに迫る。


「首なし、デュラ……いやゴーレムか」


 転がり落ちた兜に中身はなく、恐らく鎧の中は空っぽだ。

 中身のない騎士のゴーレム。

 動きは緩慢だが、鎧の防御力は高い。


「それなら」


 再びチェーンを振るい、蛇のようにしなった刀身がゴーレムの騎士鎧を絡め取る。

 ドラゴンが相手では流石に不覚を取ったが、今度は千切れるようなことはない。

 逆に締め上げることで刃が鎧に食い込み、引き裂いていく。


「これで終わり」


 勢いよく柄を引くと、騎士鎧が巻き付かれた通りに切断される。

 縛る対象を失ったチェーンは再びうねりながら蛇腹の刃を連結させて手元に戻ってきた。


「お疲れ,、また頼む」


 チェーンをジオラマに返し、魔法でハイウルフの魔石を回収。

 ゴーレムの残骸に近づいて中を覗くと、動力部であるコアが転がっていた。


「ゴーレムは魔石にならないんだよな」


 魔石と同等の価値があるゴーレムのコア。

 命を持たない者が魔石の代わりに落としていくもの。

 いつもならこれで採算が取れるけれど、今回は試験。

 魔石以外は数に入らない。


「こうなると完全にお邪魔虫だな。それ込みの試験だろうけど」


 一応、コアを拾いあげて雑嚢鞄に押し込む。

 長年の研究の結果、ゴーレムのコアから模造品が作れるようになった。

 魔導機械の動力部としての価値もある。


「しかし、広いな」


 壁に矢印を描き、通路の先を見据える。


「こりゃ合流は無理かもな」


 その場合は各々で合格を目指さないと。


「しようがない」


 ゴーレムの残骸が残るこの場から離れ、更に通路の奥へ。

 足を下ろすたびに砂埃が舞い、地面には何重にもなった足跡が続く。

 初めてくるダンジョンだけれど、何度も経験してきた環境ではある。

 けれど、何故だかすこし違和感を覚えてしまう。

 これの正体は何かと走りながら考えていると、爪先がなにか硬いものを蹴る。

 思わず足を止め、蹴飛ばしたそれを目で追うと、それは騎士の手甲だった。


「ここで誰か戦ったのか」


 砂の散りようからして他にも魔物がいたみたいだ。

 魔石は当然、回収されているけど。


「ん? この手甲」


 蹴飛ばした手甲を持ち上げると、切断面が歪んでいることに気付く。


「噛み千切られて?」


 ゴーレムと魔物が争った可能性は低い。そんな事例は聞いたことがないし、それなら周囲に魔石が散らばっているはず。

 周囲にもっとよく目をこらすと、砂塗れの通路に染みを見付ける。

 いや、染みではなく血を吸った砂の塊だ。

 それが点々と続いている。


「怪我したのか」


 血の跡を追って視線を再び通路の奥へと向けると、銀色に淡く輝く何かを見る。

 暗闇で光る二つの視線がこちらを射貫いた。

 瞬間、互いに臨戦態勢に入り、こちらはアイルに手をかける。

 まだ見たことのない魔物だ。

 強さのほどは推し量れない。

 慎重になりつつも、低く唸り続ける銀色の魔物を見据え、柄を握り締めた刹那。

 互いに地面を蹴って跳び出し、瞬く間に距離が詰まる。

 魔物の牙とアイルの刃。

 それが交わろうとしたその時だった。


「待って!」


 振るおうとした剣撃を止め、その場に踏み止まる。

 声に反応したからじゃない。

 銀色の魔物が誰かの声に反応して動きを止めたからだ。


「グルルルルルル」


 低く唸り睨み付けてくる銀色の魔物は、それでもこちらに背を向けて歩き出す。

 向かった先の暗がりへ、声の主を迎えに行くように。


「誰かいるのか?」

「はい、今そちらに向かいますから」


 壁伝いに現れたその人物が宙に浮かぶ燭台の明かりに照らされる。

 緩いウェーブの掛かった髪、優しげな瞳、柔らかい雰囲気。

 彼女に銀色の魔物は寄り添っている。

 主従関係にあるかのように。


「幻獣……か」

「はい。私は召喚士ですので」


 銀色の毛並みを撫でる彼女。

 その片足は血で赤く染まっていて、引きずっているようだった。

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