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20 輝剣


 叩き付けられた尾の衝撃で石畳みの地面が割れる。

 舞い上がる砂埃に紛れて振るわれる鋭爪。

 それを龍鱗の盾で受け止め、押しつぶされそうになるのを必死に耐える。

 そこへ更に畳みかけるようにドラゴンは火炎を食む。

 この状況でブレスは不味い。

 状況を見て伊鳴が雷撃を放とうとしてくれるが、その直前に虚空を斬るように尾が振るわれる。

 伊鳴はその直撃を喰らってしまい、建物の残骸に叩き付けられた。

 壁面が崩れて伊鳴の小さな体を隠してしまう。


「伊鳴ッ! くそッ!」


 顎から漏れ出る火炎は臨界に達し、閃光を放つ。

 ブレスに呑まれたら骨すら残らず灰になる。

 現状を打破するため、左手に召喚魔法を発動しようとした刹那。


「――」


 一筋の蒼い軌跡を見た。

 それはドラゴンの硬い鱗を貫いて怯ませ、吐き出されるブレスが俺から逸れる。

 突き立てられたのは輝きを放つ蒼い刃。

 役目を終えると掻き消えたそれは間違いなく――


「心重」


 振り返ると目に映る数多の輝く蒼剣。


「百瀬くん!」


 それを携えた真導にはもう動揺や畏怖は感じられなかった。


「あたしも戦う!」

「――あぁ!」


 怯みから立ち直ったドラゴンに向き直り、アイルを構える。

 心重を発動して龍鱗を操作、振るわれる尾を受け止め、その隙に蒼剣が舞う。

 射出された蒼い刃はドラゴンの硬い龍鱗を貫いて刺さり、再び巨体を怯ませる。


「真導なら致命傷を与えられる……」


 だが、まだ真導の心重だけではドラゴンの奥深くまで突き立てられない。

 なら、俺がやるべきことは一つ。


「伊鳴! まだ動けるだろ!」

「もちろん」


 瓦礫から稲妻がほとばしり、伊鳴が飛び出す。


「すこしの間でいい、動きを止めてくれ!」

「任せて」


 砂に塗れながらも伊鳴は雷の如く駆け、ドラゴンの背後に到達。

 最大出力の雷撃を流し込み、ドラゴンの身動きを一時的に奪う。

 悲鳴を上げたドラゴンに見舞う心重は、幾つもの龍鱗をもって渦を巻く一撃。

 龍鱗の螺旋は同じくドラゴンの龍鱗を削り、突き破る。

 噴き出した鮮血が準備完了の合図。


「真導! かましてやれ!」

「オッケー!」


 宙に浮かぶ蒼剣の全てを束ね、完成する一振りの大剣。

 蒼い軌跡を描いて射出されたそれは、アイルの心重でこじ開けた道を通り、ドラゴンの体内へと深々と突き刺さる。

 轟く悲鳴、滝のように流れ出る血液、なおも強張る四肢。

 ここまでの負傷を与えても、並外れた生命力を持つドラゴンはまだ絶命にはいたらない。

 だから。


「サモン」


 アイルを龍の姿へと変え、召喚するのは壊し屋の大鎚。


「スクラッパー!」


 両手に握り締めてもなお持て余す超重量。

 鉄塊のように無骨で、岩のように荒々しい。

 渾身の力を込めて振るう先は、ドラゴンに突き刺さった蒼い大剣。

 その柄に一撃を叩き込み、剣身の根元まで一息にねじ込んだ。

 肉を斬り、骨を断ち、鱗を裂いて背中から突き抜ける剣先。

 大剣が貫通し、ドラゴンはついに息絶える。

 亡骸を見据えてうんと背筋を伸ばすと、背後から大きな声がした。


「やったー! やったよ! あたしたちちゃんと二人と戦えた!」

「きゅう!」


 真導。

 まさかこのタイミングで心重をものにするなんてな。

 すこし、いやかなり驚いた。


「やっぱり間違いじゃなかった」


 真導をファラの里親に選んでよかったと心から思う。

 俺が鍛冶師を志したのは、この一瞬のためかも知れない。


「お疲れさま」

「あぁ、お疲れ。伊鳴」


 建物の残骸に突っ込んだ伊鳴は砂だらけだ。


「随分、汚れてるな。ほら、じっとしてろ」

「ん」


 雑嚢鞄からウェットティッシュを取りだし、顔だけでも綺麗にする。


「子供の頃にも似たようなことがあったっけ」

「うん、あった。あの時も、尊人が拭いてくれた」

「やんちゃだったもんな。ほかの誰よりも」


 砂汚れを取り終えると、ドラゴンの巨体が圧縮されて魔石となる。

 それは通常の魔石とは色合いが異なり、深い赤に染まっていた。

 三人よりそって覗き込むように魔石を眺める。


「これ幾らくらいで換金できるんだ?」

「こんなに価値が高そうな魔石、伊鳴も初めて」

「一攫千金できちゃうかも?」

「とりあえず幾らだろうと三等分だ」

「そだね。それが一番、後腐れがないし……あれ? 百瀬くん、アイルちゃんは?」

「え?」


 ふと気がつけば龍の姿に変えたはずのアイルがいない。

 いつもなら肩に止まって休んでいるはずなのに。

 軽く周囲を見渡すと石畳みの上に白い龍鱗を見る。

 駆け寄るとアイルはなにかを食んでいた。


「この食いしん坊め」

「くあー!」


 口いっぱいに頬張っているのはドラゴンの鱗だ。

 真導の心重がドラゴンを貫いて背中から突き抜けた際に散ったもの。

 それらは魔石化から逃れて石畳みの上に散らばっていた。


「アイルちゃんって鱗食べるんだ」

「あぁ、アイルはグルメでさ。龍の鱗しか食べないんだ」

「そうなんだ。調達大変そう」

「だからお金が一番掛かる。ね」

「そういうこと。実際、ここで稼いだ金の大半はアイルのご飯代に消えるんだ。今日は得したけどな」

「くあー!」


 散らばった龍鱗を回収し、まだ食事中のアイルを担ぐ。

 絶体絶命の危機に陥ったけれど、俺たちはこうして打ち勝った。

 胸にたしかな自信と勝利の余韻を抱えながら俺たちは帰路につく。

 帰り道、伊鳴と真導はなにやら話し込んでいる様子だったけれど、盗み聞きするのは流石に憚られた。

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