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19 龍の襲来


「く、崩れちゃいそう!」

「ここにいると不味い! 行くぞ!」


 結晶塗れの天井に亀裂が走り、崩落の未来が脳裏を過ぎる。

 俺たちは直ぐさま地下からの脱出を計り、通路を駆けた。

 途中、ドレイクと出くわしたけれど向こうもこちらに構っている暇はない。

 俺たちのことなど眼中にないとばかりに出口を目指している。

 右へ左へ。

 通路が崩れて塞がっていないことを祈りつつ駆け抜けて出口まで辿り着く。

 先を行くドレイクたちが巣の先へと飛び出す。

 そして巨大な顎に咬み殺された。


「なっ」


 目に飛び込んできた驚異に足を止め、息を潜める。

 血で染まった顎が獲物を咥えたまま視界から消えると、ようやく息を吐く。


「い、今のって」

「ドラゴン」


 古城に棲みついた龍。


「なんでドラゴンがここに。こんなこと一度も」


 このダンジョンのドラゴンは強い。

 まだ発展途上とは言え伊鳴でも苦戦するような強敵だ。

 出来れば戦いは避けたい。


「これがあの人たちが言っていた異変なのかも」

「やっぱりあの時、引き返すべきだったか……言ってもしようがないけど」

「うん。これからどうするかのほうが重要」


 過去はどうしようもない。

 これからの教訓にするとして現状をどうにかしないと。


「見付からずに逃げられればいいんだけど」

「出入り口を見張られてる。ドラゴンが飽きて帰るまでは無理。それに」


 またドレイクの巣全体が激しく揺れる。


「いつかここも崩れる」

「飽きるのが先か、崩れるのが先か。悠長にはしてられないな」


 ドレイクを炙り出すためならもっと激しく巣を攻撃するだろう。

 巣が完全に崩れてしまったら俺たちは否応なしに外へと出なければならない。


「どの道、戦いは避けられないか……いや、伊鳴の雷で俺たちを運べないか?」

「一人ずつなら。でも、伊鳴の雷は目立つし長距離移動は無理」

「だよな……俺たちが全速力で逃げても空から追われたら振り切れない。どうするか……」


 頭を悩ませていると伊鳴が真導のほうをちらりと見る。


「小杖ちゃん?」

「え、あ、なに?」


 真導はすこし取り乱している様子だ。

 先ほどから会話にも入ってこない。

 でも、それはしようがない。

 ドレイクのブレスで焼かれかけ、今度はドラゴンとご対面。

 この状況では冷静さを欠いてしまうのも道理。

 ただでさえ真導には慣れない土地だ。


「……大丈夫。伊鳴と尊人でなんとかするから」


 響く咆哮。揺れる巣。

 天井に亀裂が走り、もうここにはいられない。


「行くぞ。戦うしかない」


 天井が崩れる直前に俺たちは外へと飛び出した。

 踏みつぶされる巣、龍と目と目が合い、巨大な顎がこちらに迫る。


「させない」


 先手を打ったのは伊鳴。

 稲妻を身に纏い、龍の頭上を取ると落雷の如く落ちる。

 振るわれた剣の一閃は、顎を地面に叩き付けたが、刃は龍鱗に沮まれた。

 浅く傷がついただけで負傷にも至らない。


「かたい」


 ドラゴンは頭部に乗った伊鳴を弾くように首をしならせる。

 天高く伊鳴が舞い、それを目掛けて大口を開く。

 口の端から火炎が漏れ、放たれようとしているのは火炎ブレス。


「させるかッ!」


 召喚魔法を発動し、左手に我が子を呼ぶ。


「チェーン!」


 左手に現れる蛇腹剣。

 それをドラゴン目掛けて振るい、分割されて伸びた刃が口を縛る。

 開いた口を塞がれ、火炎ブレスが暴発。爆発を起こして口腔を焼く。

 ダメージを与えられたと思ったのも束の間、チェーンが悲鳴を上げた。


「――千切れ」


 ドラゴンが閉じられた口を無理矢理開こうとしている。

 必死に縛り付けてはいるが龍の力には敵わない。


「戻れッ」


 真導と出会ってからの課題だった送り返しの魔法。

 それを発動してチェーンを自宅のジオラマへと送り返す。

 拘束が解かれて自由となったドラゴンは黒煙を吐きながらこちらを睨む。

 そこへ横やりを入れるように雷撃が降る。

 跳ね上げられた伊鳴が建物の残骸に着地した。


「伊鳴! どうにかして撃退するぞ!」

「うん」


 稲妻がほとばしり、白い龍鱗が舞う。

 なんとしてでも三人で生き残らなければ。


§


 長い尻尾の一撃が古びた建物の残骸を打ち壊す。

 それを潜り抜けた百瀬くんが伊鳴ちゃんと一緒にドラゴンと戦っている。

 真っ白で雪みたいな龍の鱗が盾となり、動物となって攪乱。

 その隙をついて伊鳴ちゃんの雷撃が確実にヒットする。

 あんなに大きなドラゴンを相手に、二人は一歩も引かずに戦っている。


「なのに、あたしは……」


 あたしはなにも出来ていない。

 なにかしたいのに、きっと今のあたしじゃ二人の邪魔になる。

 お荷物だ。

 この前、百瀬くんは自分もお荷物だと言っていたけど違う。

 ドラゴンの爪も牙もブレスすらしのぎきって伊鳴ちゃんと戦う姿は立派な戦力で、あたしは無力。

 助けられてばかりで、まだなにも返せてない。

 あたしだって、あたしだって――


「お願い、ファラちゃん」


 剣のファラちゃんを握り締めて、額で剣身に触れる。


「あたしに力を貸して」


 瞼を閉じて暗闇の中でファラちゃんを捜す。

 近いようで遠い位置で光る暖かい心。

 それに触れて、抱き締めて、心を重ねて願う。

 二人と一緒に戦いたい。

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