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16 龍の古城


「じゃあ、行こ。ほかの人に見付からないように」

「あ、だから待ち合わせ場所ここなんだ」


 真導が気がついたように、待ち合わせ場所はダンジョンからすこし離れた場所にある。

 これは伊鳴が有名人だからで、人だかりに飲まれる可能性があるからだ。

 というのを数年前から決めていたけれど、習慣化した今やその理由は忘却の彼方だった。

 真導がいなかったからきっと思い出すこともなかっただろう。


「あ、あれって」

「東雲伊鳴だ、生で見るの初めて」

「テレビで見るより小っちゃい」

「連れの女の子も美人だなぁ」

「男のほうもなかなか……」


 ダンジョンの手前あたりまでくると、そんなひそひそ話が耳に届く。

 この周辺になると冒険者だらけなので、行く手を遮ってまで関わろうとする無遠慮な輩は滅多にいないけれど、遠巻きに眺めて何かを言われはする。

 伊鳴はそんなことなど気にも止めていない様子で一直線にダンジョンへ。

 俺たちもその後に続いてダンジョンへと踏み込む。


「わぁ!」


 真導が感嘆の声を上げて見つめるのは遠くに映る龍が舞う古城。

 ここは龍が棲む古城ダンジョン。

 朽ち果てて植物に侵食された城下町と、龍が棲みついて離れない古城で成り立っている。

 正規の冒険者との同伴でなければ決して見習いが踏み込めるようなダンジョンじゃない。

 無論、真導がここに来るのは初めてのはずだ。


「空に何体もドラゴンがいる……城下町にも?」

「ううん。そこにドラゴンはいないよ。いるのはもどきだけ」

「もどき?」

蜥蜴とかげとか蛇とかの類いだ。あとハイウルフ」

「ハイウルフはここにもいるんだねぇ」

「どこにでもいる。まぁ、ここのは他の個体より強いけど」


 同じ種でもダンジョンによって強さが違う。

 ハイウルフだと甘く見ていると手痛い代償を払うことになる。


「き、緊張しちゃう。あたし大丈夫かな?」

「平気。魔物が少ないところにしか行かないから」

「戦闘になっても落ち着いて対処すれば乗り越えられるさ、きっと」

「そ、そうだよね。うん、あたしが付いていきたいって言ったんだし、がんばろ」


 緊張感はありつつも体を萎縮させることもなく、真導は歩き出す。

 その様子であれば戦闘になっても問題なく動けるはず。

 なるべくフォローできるように気を配っておこう。


「行き先はいつものところでいいのか? 伊鳴」

「うん。でも、今日は三人だからいつもより慎重にならないと」

「そうだな。真導も慣れてないし」

「こうしてると思い出すね」

「なにを? あぁ、初めて頼み事した時か。あの時はおっかなびっくりだったからな」

「尊人、風の音でも驚いてた」

「それを言うか? 伊鳴だって日の影にビビってたくせに」

「……そんなことない」

「なら俺だって風の音くらい平気だ」

「ふふっ」


 軽い言い争いをしていると真導がくすりと笑う。


「疑ってたわけじゃないけど、ホントに麒麟児なんだねぇ。百瀬くんって」

「まぁな」

「それに学校にいる時の百瀬くんと違う」

「どんな風に? 伊鳴、気になる」

「うーん、なんだろう? こう打ち解けてるって言うか、リラックスしてる感じ?」

「そう。伊鳴といると、癒やされる?」

「どうだろうな。自覚ないけど、でも話しやすくはあるか。旧知の仲だし」

「なら、よかった」


 呟くように言葉を紡いで、伊鳴は薄く微笑む。

 友情の再確認ができたってところか。

 伊鳴は友情に厚いよな。

 落ちこぼれた俺を一番気に掛けてくれたのも伊鳴だし。


「伊鳴ちゃんって――あ、伊鳴ちゃんって呼んじゃった」

「伊鳴でいいよ」

「ホント!? じゃあ遠慮なく! あたしのことも小杖でいいからね。で、伊鳴ちゃんって冒険者になってどれくらい経つの?」

「四年くらい」

「四年ってことは中学生からってこと? すっごーい。あたしなんてまだ見習いなのに」

「早い遅いは関係ない。大事なのは続ける意思があるかないかだけ」


 ちらりと伊鳴が俺のほうをみる。


「そうだな。この前までの俺にその意思はなかったし、だからまだ見習いだし」

「この前まで?」

「あぁ、言ってなかったっけ? 俺、今度の冒険者試験に挑戦するんだ」


 そう告げると伊鳴はぴたりと足を止める。

 それから俺のことをじっと見て、それからちらりと真導を見てからまたゆっくりと歩き出す。


「なんだよ?」

「ううん、べつに」

「べつにってことはないだろ? 如何にもなにかありますって顔してた」

「勘違い」

「そうか?」

「そう」


 足を止めることなく返事をして伊鳴は先を行く。

 その様子に小首を傾げつつも止めていた足を動かした。

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