14 思い描くもの
「早く発動できるようになりたい! 心重!」
「焦りは禁物。とりあえずファラとより仲を深めるところからだ」
「そっか……うん、そうだね。あたしだけの問題じゃないもん。焦らない焦らない」
大きく深呼吸をして真導は落ち着きを取り戻す。
それでも興奮冷めやらないのか、うずうずとしていた。
「それで、具体的にはなにをすればいいの?」
「特別なことはなにも。ただいつも通り世話をして一緒に戦えばいい。強いて言うなら四六時中一緒にいることだけど」
「仲良くなればいいってこと?」
「とどのつまりは。まぁ、すでに相当仲が良さそうに見えるけど」
「もちろん。あたしが里親になってから学校以外じゃずっと一緒だし。あ、もしかしてもう発動できるとか!」
「試してみる価値はありそうだな」
完全に発動させることは難しいかも知れないが、良い線いくかも知れない。
「目を閉じて暗闇の中で互いの心を捜すんだ。見付けたら寄り添い合って重なれば心重は発動する。って言葉で言っても伝わらないだろうから、習うより慣れろだ」
「目を閉じて……ファラちゃんを捜す……」
「きゅう……」
真導に続いてファラも目を閉じる。
沈黙によって訪れる静寂に風の音が通り過ぎていく。
ここから先はファラと真導の問題だ。
俺はただ周囲に警戒の糸を張り、魔物の接近に気を配りながら解答を待つ。
それからすこしして。
「お」
真導の周囲に蒼い光が灯る。
明滅する不安定なそれは朧気な輪郭で形を作る。
引き延ばされて尖り、何かになろうとした刹那。
「はぁー! もうダメ!」
蝋燭の火が吹き消されるように掻き消えた。
「これめっちゃ集中力使うよ。それに疲れる! ファラちゃんの心を捜してたけど、スライムの中を泳いでる感じ」
「きゅう……」
「でも、出来かけてたぞ」
「うそっ、ほんとに!?」
「あぁ、途中で消えたけど。最後のほうでお互いを見付けられたんじゃないか?」
「……たしかに本当に最後の最後で温かい何かに触れたような……あれがファラちゃん?」
「きゅう!」
「そうなんだ! じゃあ、惜しいところまで行ってたんじゃん! もうちょっと頑張ればよかったぁ」
「初めてでそこまで出来たら上出来だよ。回数をこなせばそのうち慣れてくる。ただ最初は体力を使うからな。一日に数回にしたほうがいい」
「そうだね。ダンジョンは危険だし、あとは帰ってからのほうがいいかも」
「それがいい。ただまだ来たばかりだし軽く魔物狩りしていくか? 実戦を重ねればそれだけ通じ合えて互いを見付けやすくなるし」
「うん、そうする。もっともっとファラちゃんと仲良くならないと」
心重の習得にはまだすこし時間がかかる。
けれど、そう遠くない未来にファラと真導は物にするだろう。
ファラの親としてそこまで見届けないとな。
§
平日の昼休み。
以前なら考えられなかったことだけれど、今日も空き教室に真導といる。
最近では当たり前のように感じていたけれど、改めて思うととんでもないことだ。
クラスの人気者に大事な我が子を預けるなんてことになるとは。
人生なにがあるかわからないな。
「もう出てきていいよ、ファラちゃん」
「きゅう!」
学生服のポケットから飛び出したファラが華麗に着地を決める。
ズタズタになってはいないかと心配したけれど、その必要はどうやらない。
ファラの背中に生えた剣の一本一本に紙が巻き付けられていた。
「鞘代わりの魔紙か」
「そ。この前安く売ってるの見付けたから買っちゃった。普通の紙より丈夫だし、これならポケットの中も安全だし」
「名案だ」
魔紙は草原ダンジョンの肥沃な土で育った植物が材料として用いられている。
丈夫であることはもちろん、折れ目を消すことができたり、多少破れてしまっても自動で元に戻ってくれる優れもの。
今では紙媒体の重要書類はみんなこれが用いられている。
「これで学校でも一緒にいられるようになった訳か。心重の習得にまた一歩近づいたな。最近の調子は?」
「それが全然でさ、ちっとも前進した気がしないんだよねぇ。ファラちゃんの心は見付けられるんだけどさ、そこから先が難しくて」
「きゅう……」
「ねぇ、なにか良い案はない?」
「うーん。俺も心重を人に教えるのは初めてだからな……」
だから、なにか重要なことを伝え忘れているのかも知れない。
最近は完全に手癖で心重を発動していたから手順をきちんと意識しないと。
鍛冶師を目指すなら、今後似たような場面が必ずある訳だし。
「お互いの心に触れるところまでは成功してるから……その後」
「うんうん」
「心を重ねて、それから……思い描く」
「描く?」
「そう、心の中に絵を描くんだ。それをウェポンビーストと共有して実現させる。問題は真導がどんなイメージを持っているかだ」
「それじゃあそれさえはっきりしちゃえば」
「発動するはず」
これが真導が抱えている問題点だ。
「イメージ……イメージかぁ。ファラちゃんと何がしたいか、だよね。色々とあるけど纏まらないや。あたしがきちんとしないとファラちゃんも困っちゃうよね」
「きゅう」
「とりあえず今日一日考えてみるよ。答えが出なかったら明日も考える。それでダンジョンにも挑戦する。わー、やることいっぱいだ」
「楽しそうだな」
「うん! ここ最近ずっと楽しい!」
たまに見せる子供のような笑顔にも慣れてきた。
「あ、そうだ。次の予定、立てとこうよ。あたし次の休日いけるよ」
「俺もその日は空いてる……というかいつもだけど」
ポケットの携帯端末から軽快な音が鳴る。
取り出して画面を見るとメールが送られてきていた。
送り主は伊鳴だ。
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