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11 お世話の仕方


「へぇ、これは凄いな。一人で作ったのか?」

「うん! って言っても市販のものを並べただけだけど。百瀬くんの言う通りお家は自動修復機能付きの水槽にしたよ」

「これならファラが間違えて斬っても平気だな。普通のケージに入れるとスパスパ切れて直ぐに脱出されるんだよ、それで素材によっては食べ尽くされる」

「それはそれで見て見たいけど」

「止めとけ。部屋中がバラバラの大惨事になる」

「それはちょっと止めてほしいかなー」

「きゅう!」


 遊具で遊んでいたファラがこちらに気付く。

 触れに行くとすぐに手の平に飛び乗ってくれた。


「元気してたか? ファラ」

「きゅう! きゅう!」

「そうかそうか、俺も嬉しいよ」


 手の平に頬ずりをするファラに、真導の目がハートになる。

 もしかして一日中、こんな感じになっているのではなかろうか。


「さて、それじゃあ世話の話だけど」

「あ、うん!」


 ファラをテーブルに置き、その隣りに道具を並べていく。


「まず毎日欠かさずやらなくちゃ行けないのは朝昼晩の食事だけだ。主食はネジとかボルトとか、錆びてなくて金属製ならなんでもいい」

「鉱石は?」

「鉱石系も食べるけど、ほとんど栄養にならないんだ。でも、食べた鉱石に影響されて剣の色味が変わるから、真導の好きな色に染めてやればいい」

「へぇ! そうなんだ! 色かぁ。どうしようかな? ほかの色にしてみたくなるけど、今の蒼い剣も好きだし。うーん」


 ファラ自身は何色に染められても特に気にしない。

 赤でも青でも黄色でも、ファラは鉱石を喜んで食べる。


「それでたまにやらなきゃ行けないのが研磨とマッサージだ」

「マッサージ?」

「そう。ファラ」


 ファラの隣りに布いたシートに招く。

 シートには魔法が施されていて、背中の剣で切れることも、貫通してテーブルを傷つけることもない。市販品でお高め。

 呼ぶとファラはすぐにシートの上で仰向けに寝転がった。


「親指を当てて最初は軽く撫でるくらいで。すこしずつ力を加えて、強くなりすぎないくらいの力加減を見付けるんだ。そうすれば」

「きゅうー……」

「こんな風に気持ちよさそうな声が出るから――って」


 視線を真導に向けると、口を半開きにしてとろんとした目でファラを見つめていた。


「おーい」

「わっ!」


 顔の前で手をひらひらさせると正気に戻る。


「いけないいけない。今ホントになにも考えてなかった」

「大丈夫か? ……ちゃんと世話できるか心配になってきたんだけど」

「できるできる! やって見せるから! えーっと、そう! マッサージでしょ? やり方もちゃんと覚えてるから、あたしにもやらせて? ファラちゃんのお腹さわりたい!」

「そっちが本音だな? まぁ、習うより慣れろだ。ほら」


 席を譲り、真導が震える親指でファラの腹に触れる。


「ぷにぷにしてる-! なにこれ、肌触りもいいし最高!」

「きゅうー……」

「筋がいいな。もう物にしてる」

「でしょ? あたしパパによく褒められるんだー、肩もみ名人だって」

「真導が親孝行な娘でよかったよ」


 親孝行がこんな形で役立つことになるとはな。


「そう言えばこのマッサージにはどんな意味があるの?」

「こうすると金属疲労が取れるんだ。折れたり曲がったりしにくくなるから、定期的にやってあげてくれ」

「そうなんだ。じゃあ、丁寧に丁寧にやらないとね」

「きゅうー……」


 真導による念入りなマッサージにファラも満足げだ。


「次は研磨だな」

「研磨ってやっぱり砥石とかでやるの? 一応、ナイフを研ぐ用のは持ってるけど」

「そんなに本格的な奴じゃない。剣自体は自然と研ぎ澄まされるから、やるのはその手伝いだよ。犬とか猫とかのブラッシングと似たようなもんで……」


 テーブルに並べた道具の一つを手に取る。


「この研磨布を霧吹きで湿らせて背中の剣を一本ずつ摘まんで撫でるんだ」


 とあるダンジョンに住む魔物、サンドシャークの鮫肌から作られた研磨布。

 研磨剤入らずの便利な道具だけれど、これも値段が高め。

 なにしろ倒せば魔石になってしまう魔物から素材を生きたまま剥がなければならない。

 取得難易度が高く、値段も張る。


「ほら」

「きゅうー」


 包丁を砥石で研いだような音が鳴り、背中の剣が更に鋭く研ぎ澄まされる。


「剣一振りにつき二回か三回くらいでいい。やり過ぎると剣が痩せるから注意してくれ。さ、交代だ。指を切らないようにな」

「オッケー。シャキンシャキンにして上げるからね」


 端のほうから順番にファラの剣を研磨していく。

 最初は覚束ない様子だったけれど、回数をこなすうちに手慣れていった。

 無事に指を切ることもなくすべての剣が磨かれた。


「きゅう!」


 背中の刃は鏡面のように光り輝いている。


「ふぅー。なんかこれ達成感あるね。こういうのあたし好きかも」

「なら里親に向いてるよ。サボると錆びてくるからな」


 そう言えば、そういうことを何も考えずに里親に選んでしまったな。

 結果、それで正解だったけれど。

 今度からは里親の適正があるかないかの確認も徹底しないと。

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