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10 お宅訪問


 ファラの映った写真は大好評を博したらしい。

 昼休み終わりの授業中、隣りの席の真導は常に満面の笑みだった。

 その様子を見れば大体の察しがつく。

 察しのつきようがないクラスメイトは、そんな真導にすこし困惑しているようだった。

 とりあえずは悪い展開にはなっていないことに安堵していると、机上に折りたたまれた紙が滑り込んでくる。

 放課後、空き教室。

 開くとそんな言葉が見え、真導からのものだとわかる。

 それをポケットしまって真導のほうを見ると、まだにやけていた。


「あ、来た来た」


 放課後、空き教室に向かうと出迎えられる。


「ねぇ、百瀬くん。あたしたちまだ連絡先交換してないよね。しよ?」

「あ、あぁ」


 携帯端末を互いに取り出す。

 このための空き教室か。


「んー? あれ? もしかして百瀬くん。アプリとか入れてない?」

「アプリ? あぁ、流行のあれか……入れてないな」

「なんで?」

「使い道がないから」


 そう応えると真導は悲しそうな顔をした。


「百瀬くん……」

「そんな目で見るな。メールで事足りるだろ?」

「そうだけど……そうだけどなぁ……うーん。まぁ、いっか! たまにはメールもいいよね。レトロな感じかして!」

「レトロ……」


 そうか。

 もうメールはレトロ扱いなのか。

 そんな衝撃的な事実を目の当たりにしつつもメールアドレスを交換する。


「これでよし。あ、そうだ。ついでに聞いとこ。あのさ、ファラちゃんのことなんだけど」

「風邪でも引いたとか?」

「風邪引くんだ、ファラちゃんって――じゃなくて。友達にファラちゃんの写真みせたら思った以上に反応よくってさ。実際に見て見たいって言ってるんだけど、いいかな?」

「いいもなにも、それは真導が決めることだろ?」

「あたしが決めていいの?」

「俺はファラを送り出したし、真導は里親になった。小姑みたいにあれこれと言ったりしないから安心してくれ」

「そっか……あたしが決めていいんだ」

「そうだ」

「うん! わかった! ありがとね、百瀬くん! あたし友達にうんと自慢するから!」


 自分が里親であることを、ここで改めて認識してくれたようだ。

 大切な子を送り出したんだ、そうでなくては困る。

 真導を里親に選んだことを後悔したくない。


「よーし、うちに友達呼んでパーティーしよっと。あ、百瀬くんも来る?」

「遠慮しとく」


 行くと思うてか。


「そう? じゃ、また明日ね。またメールで連絡するから」


 本日二度目となる空き教室から真導を見送り一息をつく。


「メール。いつ来るかな」


 ないとは知りつつも携帯端末を眺めてしまう。

 そんな自分をすこし笑っていると、音が鳴り響いてメールを受信する。


「早速?」


 疑問に思いつつ確認すると、送り主は真導じゃない。

 それは昔の友人の中で唯一今でも連絡を取り合っている相手。

 伊鳴いなからだった。


§


「あそこが真導の家か……」

「そだよ。なんの変哲もない家だけどね」


 風に靡いた毛先が指し示す庭付きの一軒家。

 駐車場に自動車はなく、恐らくは留守。

 真導の両親と会うのは気まずいけれど、相手の家で二人きりもそれはそれで気まずい。

 いや、でもまぁ、ファラがいるか。

 元々の用件はファラのことだし、俺はそのことだけを考えていよう。


「ただいま。入って入って」

「お邪魔します」


 誰かの家にお邪魔する時はいつも独特の匂いがする。

 良い悪いではなくて知らない所に来た感じがして新鮮な気分。

 用意して貰ったスリッパに履き替え、二階へと上がり真導の部屋に案内される。

 ドアノブを握り、そしてぴたりと真導の動きが止まった。


「真導?」

「あははー。部屋に男の子入れるの初めてだからちょっと緊張してる」

「この前あれだけ俺を煽っておいて?」

「反省してます」

「かーわいい」

「百瀬くんのいじわる……ええい!」


 力強く扉が開かれて、真導の部屋に足を踏み入れる。

 内装は落ち着いたもので白を基調にされたもの。

 所々に薄いピンクの小物が置かれ、照明に可愛らしい飾りがついている。


「ど、どうかな?」

「どうって、いいんじゃないか、落ち着いた雰囲気で」

「そう? ならよかった。引かれたらどうしようかと。あ、そうだ。ほら、百瀬くん見てみて。じゃーん」


 お披露目するように紹介されたのは一つの水槽。

 水は抜かれていて砂利の代わりに土と広葉樹の切り屑が布かれている。

 揺れる水草を置き換えるように遊具が並び、坂道やアスレチックが作られていた。

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