【第07話】◆【銀覇石羅族】
禍々しい闘気を放った十字架が刺さっている。
その十字架は生命体として活動し、様々な種族の命を奪ってきたが、同族に瀕死の重傷を負わされて、弱っていた所を下位の生命体に封印されてしまい。岩に刺さっている。
その種族の少女が刺さっている十字架に触れてしまった。
なぜ触れたのか、理由は分からない。
触れられた十字架は紫色の光を放ち、その光は少女の中に入っていた。
強引に契約を結び。その少女は殺戮兵器の思考を得てしまった。
死は救済という思想を受け入れられる存在へと変貌を遂げたのだった。
◆◆◆
超銀河破壊時代。
大罪堕神龍が支配する時代は終わった。
組織を束ねる為の秩序が宇宙空間から消え去った。
そんな混沌の世で吸血鬼神龍が人間を改造して生まれた副産物と言われた生命体。
銀覇石羅族が天の川銀河といわれる空間を支配・破壊していた。
血で血を洗う争いが各宇宙空間で繰り広げられていた。
救いのない宇宙空間に秩序を築く大罪が侵入してきた。
自分のいた物語を破壊され、居場所を求めていた放浪者が…………
功罪の紋章が刻まれた十字架から出てきたアメーバ状の生命体。
その生命体はとある娘と契約を結ぶ。
生まれてくる前の胎児である娘と……
「救済完了」
銀髪碧眼の美しい白皙の肌を有する神、その美貌は見る者すべてを魅了する。
しかし、彼女のどこか憂いを帯びた哀愁は宇宙空間の救済者としては似合わない。
一人の女神としても……
悪魔との契約が彼女の生を狂わせたのだ。
左右の上腕に生えた触手で数多くの同族を屠る。
必要とあらば名目上血を分けた神族でさえ容赦無く狩る。
宇宙空間の秩序を遵守する為に……
彼女の綱紀粛正を徹底した修羅の生を知った上で、その結果として殺すことに何の感情も抱くことのできない壊れた自分に対する絶望を想像すれば、他人であろうとその仄暗い表情を浮かべる理由を解るだろうか?
理解できるわけないが……
圧倒的な力で一つの種族を滅ぼした大罪。
オーレリア・セイヴァー・キルダニア。
彼女と強引に契約を結んだ大罪。
ヴィシュヌ・ソテイラ・パンドーラー。
彼らは秩序と混沌を司る功罪で、銀覇石羅族を殲滅するために戦帝アトゥムの自慰を利用して誕生した女神。
正確に言えばヴィシュヌがその女神に寄生した。
そんな害虫の侵入にも気付かない銀覇石羅族の戦帝アトゥム。
彼は生まれてきたオーレリアを可愛がった。
オーレリアは幼き頃から神族の長として平和をつくりあげ維持するため。
常に勤勉であれと戦帝アトゥムから常々教えられてきた。
その厳しい教育か?
はたまた紋章のせいか?
ヴィシュヌに寄生されていた為か? は解らないがオーレリアは自身の能力を磨き上げ、親族の中でも発言力を強くしていった。
戦帝アトゥムの教育、否、洗脳によってオーレリアは考え方が変わっていった。
差別される弱い立場の生命体の願いや欲望を叶えること。
それが、功罪の紋章が適合した者の責務であると認識し始めた。
しかし、当然というべきか。
天才的な力と誰もが見惚れる美貌、親族の中でも抜きん出た功績の数々を見せつけられる神々。
彼らはオーレリアの存在を邪魔に思い、排除しようと画策する。
そんな、嫉妬や憎悪の感情を一気に向けられることになったオーレリア。
彼女はそろそろ粛清の頃合いであると思い吸血鬼神龍と統一神王国の神々に後ろ盾となってもらい新宇宙創造の準備も進めた。
行動を起こすためには大義が必要だ。
彼らを殲滅する為の大義を得たいオーレリアは罪能『二虎競食』を使用する。
その罪能の影響は敵対している連中を疑心暗鬼にさせ、仲間割れさせる。
という混沌の罪能の中でも一番使い物にならない能力。
しかし、罪能ゆえか効果は桁違いで神々は当時、反オーレリア派閥を率いていたジュリエットという女神を正義の名の元に悪虐非道な行いをしている異端神として扱い神々の恨みや妬み、憎悪を彼女に向けるようになった。
女神ジュリエットを封印するために反ジュリエットの思想を植え付けられた神々を糾合したオーレリア。
彼女は反ジュリエット騎士団を設立して、戦場にて見事女神ジュリエットに勝利したのだ。
功能『二虎競食』によって思想を操作された神々は女神ジュリエットを殺害したことで平和が訪れる。
オーレリアに対して盲目的な信頼を置き、信じてしまっていた。
これだから罪功は強力な能力なのだ、もちろん個体差や適合率にはよるが…………
そんな甘い蜜を味わえたのも一瞬のこと。
最大の敵ジュリエットを封印することに成功したオーレリアは神々に対して
「あなた方は自身の力を弱者排除のために使い、天の川銀河を破壊したことで罪無き神民を虐殺した。これは断じて許される行為ではない、よって紛れ込ませた我が配下とともに神々を殲滅する」
とすべての神に対して宣戦布告を行った。
その宣戦布告を受けた神々は自勢力の中にオーレリアの配下がいるに違いないと疑心暗鬼になり、得意の集団戦術にも影響が出た。
それを確認したオーレリアは翌年に単体で神々を蹂躪していった。
神々はオーレリアに対して様々な策を弄して全力で戦ったのだがその努力もむなしく惨敗した。
その理由はオーレリアが罪能及び功能をヴィシュヌに許可を得て継承していたからだ。
それに加えオーレリアには特殊権能という個体によって形成される能力もチート級に強い。
まさしく一騎当千といえる強さを誇る死神であった。
その強さで蹂躙される神々の絶望は計り知れない、オーレリアはキルダニアの首都に着いてそこを防衛していた神々を殺していく中で顔見知りを発見したので休憩がてら、その男神に話しかける。
「あら? お久しぶりです、ゼウス様。ご息災でいらっしゃいますか」
「巫山戯ないでください。気分は最悪ですよ。何で…………オーレリア様。もう、どうかお止めください。今からでも遅くないので戦帝アトゥム様に自首しましょう。忌まわしきジュリエットのような事をしないだください」
「貴方は自分の花嫁をそんな風に思っているのですか?」
「あんな者は私の嫁ではないです。あの悪魔が……」
罪能はよく効いているようですね。
彼がかかりやすい体質なのかもしれませんが……
「では、ゼウス様。質問に答えていただけませんか?」
「なん……ですか?」
「私達、神々の願いは何だと思いますか?」
「宇宙空間の平和です。貴方が破壊してしまいましたが……」
力強く答えるゼウス。
オーレリアは愚者を見る目で彼を眺めて、答えを正す。
「そういった考え方もあるでしょうね。しかし、私が破壊した? それは少し間違っていますよ。この世界は腐敗していますから。例えば、低級破壊神の飢餓や貧困、差別、上級破壊神の腐敗、戦争と犯罪。この宇宙空間に溢れる問題を無くしたいと願いつつ、私たちは絶望的なまでにわかりあえない。この宇宙空間を平和にするためには躾が必要だと思いまして、私は仕方なくやっているだけなんですよ」
「違います! 我々の目的は種族内の平和と銀河系の殲滅、それこそが宇宙空間の平和なのです」
「ほう? ずいぶんと自分勝手な考え方ですね…………本当に悲しいですよ。ゼウス様。私達は一つの課題に対する見方が少しだけ異なるようですね。しかし、異なる考えを持つ同族の意見はとても貴重です。重宝しなければ……どうですか? 降伏する意思があるのなら今のうちに伝えてください。悪いようにはしませんから、どうか信じてください」
ゼウスは死んだような表情で白旗を振って私に降伏する意思を示す。
「わ、わかりました。私は降伏しましょう」
「それはよかった。君もw」
「ただし、条件があります」
「なんですか?」
「アトゥム様の命や他の神々の降伏も受け入れて下さい…………それと先ほど設置していた超転移核爆弾を起爆前に回収していただきたい」
ゼウスはもう一度、頭を垂れて私に降伏の意思を示す。
しかし、条件が多いな。
他の神々の降伏を受け入れるかは彼らの意思次第だけど…………超転移核爆弾の回収は難しいな。
「自分が条件を提示出来る立場だと思っているのですか?」
「オーレリア様、貴方はそうやって結局はジュリエットと同じように力で他の神々を支配するのですね」
ゼウスの表情から失望感が読みとれる。
私なら別の方法で宇宙空間の秩序を築いてくれると期待していたのだろうか?
でも、彼の生きる指針は銀河系の殲滅だったはず。
今日という日を生きる活力を奪われたのもあるだろう。しかし……
「辛い思いをさせてしまいましたね。しかし、そうせざるを得ない状況に我々や宇宙空間は追い込まれています。私がたたなければ、宇宙空間は戦帝アトゥムによってもっと悲惨な状況になっていたことでしょう」
ゼウスが顔を上げて、私に弱々しく反論する。
うん、とても降伏した者の態度とは思えない。
「しかし、兄上を殺さなくても良かったではありませんか? 貴方は兄上を愛していた、兄上も貴方を愛していた、なのに……」
愛していた?
誰の話だろう?
あぁ、思い出した。
私は皇女として八柱の男神と結婚し、愛してあげたのでした。
「勘違いしないでください。私は彼らのために行動を起こした。彼らは死という形で新たな世界に名を刻むことになってしまいましたが、私は信じたい、彼らが尊き男神として新世界の者に尊敬されることを……それに悲しいが今の私には全ての神々を救う力はない。だから、私はその犠牲を最小限に止めるやり方を選択した。私が命を奪った彼が、最も望んだ宇宙空間を創ろうと努力しているのに」
名も覚えていない男神の話題になるとは…………
ほんと、誰の話だろう?
「あなたのやろうとしている事は恐怖で神を支配しようする事です。このままでは何度も悲劇を繰り返す事がなぜ、あなたは理解できないんです!? このようなやり方で兄上の望んだ宇宙になるはずが無い」
まずは君の兄の名前を教えてくれませんか?
興味の無い男神が八柱も嫁いできたから分からないよ。
「貴方の意見に否定はしませんよ。しかし、その力はあなた達が銀河を破壊し、宇宙空間に害を与えた時にのみ振りかざされるものです、私の行使する力は、言わば宇宙空間へ害を与えた者に対する罰なのですよ」
私は索敵陣を展開する。
ゼウスは完全に降伏する意思は無いらしい。
同郷のよしみで生かしておいてやろうと思ったのにな。
まぁここでいれば戦帝アトゥムが攻めてくるだろうし、気長に待たせてもらおうかな……
「オーレリア・セイヴァー・キルダニア…。今の貴方では戦帝アトゥム様には勝てない。兄上たちの愛に報いようとしない徳なき女が勝てるはずない」
「私は君の兄と結婚した覚えはない。私の夫は混沌堕神龍のヴィシュヌ様、唯一人」
「そんな!?」
そう、私は混沌堕神龍だ。
通常の神なんぞ吐息で殲滅出来るくらいの力は有している。
「それに残念だけど、根拠のない妄言に付き合っている暇はない。君の言葉はまもなく否定される。君が信じているアトゥムによってね」
索敵陣が父帝アトゥムの気配を感知した。
戦闘が始まるだろう、彼を討てば後は烏合の衆………簡単に滅ぼせる(例外を除く)。
「オーレリア! この逆賊が、我が手で粛清してくれよう」