【第04話】◆【帝国の滅亡】
バニティー様が物語救済業務での戦闘で破壊した十字架。
それを仕方なく修理しているとヴィシュヌ副帝陛下と副帝補佐官リーシャ様が来られた。
ヴィシュヌ副帝陛下は俺の主君にあたる大罪堕神龍だ。
この御方はチート設定が盛られまくっており、侵略型生命体としては欠点がない大罪堕神龍の中でも超越者と言われる七つの大罪の三番目に君臨していて、その実力や統治の実績から皇族の中でも次期皇位継承者として噂されていた。
ヴィシュヌ領や侵略先での統治では国家の柱である大罪堕神龍の情け容赦ない様を全国民に知らしめるため、前皇帝陛下が強いた情報統制を緩和。
言論の抑圧も解放して、皇族批判の罪で牢獄にぶち込まれていた囚人をヴィシュヌ様に諫言を呈する職業に就かせ、側近として扱っているらしい。
そして現皇帝陛下の「おいしい飯が食いてぇ」という願いを叶えるために自分のポケットマネーを投じての各惑星の酪農家や農園への肩入れと物価への介入。陛下の健康のための野菜は勿論、肉や海鮮系などにも金を湯水のようにつぎ込んだ。
また、全領土の道路の建設もヴィシュヌ様の指示で目下進行中。
本人曰く「これで、国内何処でも迅速に略奪が可能ですね」 だそうだ。
また、大罪の十字架や功罪の箱に依存しないために、それらに変わる新エネルギーの開発を研究者たちに行わせている。
目下「環境にクリーンかつ安いエネルギー」という無理難題を暇をしていた学者連中に吹っ掛け、札束でひっぱたきながら馬車馬の如く開発を急がせているらしい。ヴィシュヌ様が論文を読んで腕は確かなものを集めたため、実現の未来は明るいそうだ。
他にもヴィシュヌ様が個人的に気に入った研究には後先考えず金をぶち込んでいる。
こうした、金の流れは全てヴィシュヌ領に暮らしている国民に公開済みだそうだ。
また、障害者の社会進出の為にも尽力なさっている。
これらの実績から現皇帝陛下からは
「戦闘能力と侵略後の統治に優れた大罪堕神龍」
と評されているんだ。
「えぇ、例の件はそのまま進めて下さい。第二ファイルの件はバニティー様に、それと軍隊の指揮権は皇帝直属騎士団に最近選ばれた彼を」
「あの蛮族に指揮を執らせたら、副帝陛下、貴方の身が」
「大丈夫ですよ。自分の身くらいは守れます、それに爵位という蜜をさしあげれば彼らも黙っているでしょう」
「……そうですね。わかりました、一応その方針で進めておきます」
ヴィシュヌ陛下がこちらにいらっしゃったので急いで提出予定の書類を纏める。
何やら難しい話をしていたようだ。
一応言っておくが俺はキルゴット皇族の中ではヴィシュヌ陛下に忠誠を誓っている。
何故かって?
それは奇妙な性癖を有してある皇族の中で唯一の人格者だからだ。
この御方とは本当に馬が合う、俺の前世について話しても否定も肯定もせずにそういう考えもあるのかという風に中立的立場できいてくれる。
それに性欠陥障害で差別されていた俺を側近に加えて下さったご恩がある。
何よりヴィシュヌ陛下の声をきくと脳のてっぺんあたりが痺れてくる感じがする。
心地が良くこの方を支えたいと思わせるカリスマを持っている。
またこの帝国の内政を整えてあらゆる分野の指揮を的確に執っており、破壊業務で物資や人材を大量に消費しているに関わらずキルゴット帝国は大した損害を出さずに国力が増加出来ているのは間違いなくヴィシュヌ陛下の指示のおかげだ。
その為先帝ゴッドブランデー存命時は次期皇帝候補として有力視されていたが先帝崩御の際、シヴァリキルが即位した。
その動きになんら異議を唱えず帝位を窺う様子を見せなかった。
このことは彼の後押しをしていた野心ある後援貴族たちを落胆させたが、神輿である皇位継承者自身が動かない以上どうしようもなく、先帝崩御によって相当の混乱が起こるかと思われたキルゴット帝国は短い期間で落ち着きを取り戻した。
今思えばヴィシュヌ陛下が皇帝の地位に就いたほうが良かったと思うが・・・・まぁ軍事を含めすべての指揮を執っているのはヴィシュヌ殿下なので問題ないが。
「遅れて申し訳ありません、キュエール様」
「いえ、お気になさらず。もし良ければ皇帝陛下との会議の内容を聞かせていただいても?」
このキルゴット帝国は不敬罪などという概念はない。
完全実力主義であり力と富があればどんな身分の者であろうとキルゴット帝国から独立して国を建てても良いらしい。因みにこの法律をつくったのはヴィシュヌ殿下である。
よくわからん法律だ、この行為を許せば各銀河で反乱が起きるだろうに。
「えぇ、もちろん。今回の内容は私のもとで働いてくださっている方々に伝えておいたほうがいいので、キルダリウス様も一度は耳にしたことがあるでしょう? 次の銀河破壊業務及び死神殲滅作戦の指揮を元大功魔神龍であり数多くの物語と宇宙空間を葬ってきた憂鬱堕神龍メランコリー様にとらせてみようかという」
「噂程度でなら、ですが私個人としてはメランコリー殿下よりもヴィシュヌ殿下が指揮を執った方が敵国の牽制には有効だと思います。実績として殿下は六億もの種族を滅亡させていますし」
「確かにあなたの意見も一理あるのですが」
「ならば」
「キルダリウス様は、なぜ私が帝都から動けないのか知っていますか?」
「動けない? 内政と結界維持のためでしょうか?」
「もちろん、それもありますよ。私が動けない、いや、この場合は動かない、でしょうか。その理由は帝国本土に宇宙空間最強の混沌堕神龍がいるということを他国に知らせることで帝国に攻めさせないようにするためです」
ヴィシュヌ殿下は俺が用意した椅子に腰掛け、補佐官に血液をついでくるようにテレパシーで命令を出しつつ疑問に答えてくれる。
テレパシーで直接語りかけないということは無駄なことと思っているからか、それとも敵対者にきかせる為か?
「キルダリウス様が先に言っていた通り、私は六億もの種族を滅ぼしてこの帝国の国是でもある銀河統一及び物語神龍鬼様の討伐という大罪堕神龍に課せられた使命を果たすために舞台を整えてきました。実際、キルゴット帝国に敵対する勢力をかなり減らせましたし、それに何より女神石羅龍、男神石羅龍が築いた統一神王国や女龍石羅神、男龍石羅神が治める龍神王国とは同盟を結ぶことが出来た。それに敵対している種族のうち死神は私の口車に乗って半分以上宇宙空間をもぎ取られた挙げ句に私が直接指揮を執ったメトシェラの戦いでは侵攻戦では過去前例の無い損害を出している。優秀な将軍が戦死し内部では反乱祭り、そんな状況だから警戒するのは銀覇石羅族だけで良い。後は死にかけのデスゴット王国を皇帝陛下に攻撃してもらい、巨大な宇宙空間を有する銀覇石羅族の国ギャラクシー皇国はゲルグルト率いる帝国軍、それからギャラクシー皇国の宇宙空間の割譲を条件に龍神王国と統一神王国が側面を挟撃してくれるはずです」
そこまで準備なさっていたとは……俺の上司ヤバない?
「ということは我が国悲願の銀河統一がようやく果たされるのですね」
「上手くいけば、そうですね。龍神王国と統一神王国はこの帝国に従属していますし、それにギャラクシー皇国とは同盟を結ばせてあります。例えば我が帝国が攻撃をしてきたとき龍神王国と統一神王国にギャラクシー皇国の軍隊の四割を各国に送る。流石に数はごまかすだろうが戦闘力減るのは事実」
えげつないなと改めて思う。しかしギャラクシー側は自国が不利になるような約束を守るのだろうか?
「殿下? ギャラクシー側はそんな約束を守るのですか」
「キルダリウスさん、これにはギャラクシー皇国が絶対に守らないといけないようになっているのですよ。まず龍神王国と統一神王国の宇宙空間がどこにあるか知っていますか?」
「えぇ確か、ギャラクシー皇国を囲うようなとこにあるはずです」
「そのとおりです、キルダリウスさん。龍神王国と統一神王国の有する宇宙空間はギャラクシー皇国の三倍、龍神王国と統一神王国は親愛関係の国家であるプライドや誇りが高く二国同時に相手したらギャラクシー皇国は滅亡する、それに現在は我が帝国と敵対関係にあるからキルゴット帝国が攻めればおこぼれを狙って二国が攻めてくるかもしれない。つまり龍神王国と統一神王国との同盟はギャラクシー皇国には必要不可欠な事なんだ、だからどんな理不尽な要求を突きつけられても出来るだけ応えないといけない」
ヴィシュヌ殿下は悲しそうな顔を浮かべ言う
「辛いでしょうね。直ぐに解放してあげましょう」
「で、皇帝陛下に許可は取れたのですか」
「えぇ、許可は取れましたよ。皇帝陛下が破壊する対象国も決められましたし、今日の会議は珍しくスムーズに進みました」
「それは良かったですねヴィシュヌ殿下、あの話は変わるんですけど以前から気になっていた事があって質問してもよろしいですかね」
「何ですか? その質問とは」
ヴィシュヌ殿下が分かりやすく目を細める。悪い事を考えている顔だ。
「何故、不敬罪を廃止されたのですか?」
「あぁ、簡単な話ですよ。私よりも先に生まれた現皇帝陛下のシヴァリキル様は生まれつき異常な破壊欲を持っているようで、私の為に働いてくださっているメイドの方々がずいぶんとそのことを恐れていまして。その恐怖心を少しでも取り除けたらと思い、不敬罪を廃止しました。独立勢力は帝国への反対勢力として皇帝陛下の破壊対象にすることができる。その間は避難訓練を行うことで、皇帝陛下の暴走時に安全に避難できるでしょう? その訓練の時間稼ぎの為にも愚民に独立してもらい破壊対象になってもらおうと思ったんです。独立したら、もうキルゴット神民では無いですから」
ヴィシュヌ殿下は私が提出した書類をチェックしつつ不敬罪廃止の思惑を語る、なおここまで殿下が話してくださるのは長年の信頼関係構築の結果だ。
殿下との関係は更に深めていきたい。
「そんな思惑があったのですね。やはり殿下も皇帝陛下の破壊欲については危険視されていたのですか」
「当然のことです。私は盲目ではない、統治者は時に悪にならなければならないからね。血を分けたきょうだいであろうと殺さなくてはならない時もあるでしょうから」
ヴィシュヌ殿下は悲しい表情をつくりあげる。
感情を制御するのはヴィシュヌ殿下の得意技だ。
「なるほど~」
上に立つ者の話は良くわからん。
「面白い設計図ですね。この通りに進めてください」
「あ、ありがとうございます」
「感謝をしないといけないのは私たちの方です、あなたたち技師のおかげで安心して銀河を破壊できるのだから」
そう言うとヴィシュヌ殿下は自身の執務室へと戻っていった。
数年後
「ヤバい!!これは非常にヤバいぞ!!!」
あの後しばらくしてなんとなしにが侵略しようとしていた星のことを調べてみたら、とんでもないことが分かった。
バニティーが偵察しようとしていた星が存在する星系、それは前世ではなじみ深い…というか故郷そのものだった太陽系だったのだ。
「ヴィシュヌ殿下は、どこへ…」
バニティーめ!何が楽勝だ。
…まぁバニティーがどうなろうと俺の知ったことではないのだが、そのことが別の問題を生んでいる。
「シヴァリキル…あのトチ狂った皇帝が!!」
今キルゴット帝国は崩壊の危機に直面している。
理由は簡単、最低最悪の皇帝であるシヴァリキルがなんとなしに自分の星をオナペットにしてオナニー(破壊)しようとしたためだ。
「こんなことだったらバニティーについていけばよかった…いやまだ間に合うはずだ。このタイミングならバニティーはまだ地球にいってはいないはず」
ヴィシュヌ殿下は転生術を使用し遠征に行った。俺を置いていったがバニティーは俺をスカウトしていた、バニティーに付いていきさえすればシヴァリキルのオナニー(破壊)からは逃げられる可能性がある。
そのあとのことはその時に考えればいい。
最悪この星から脱出した後適当なタイミングで離反すればいいだけなのだ。
そういうわけで俺はバニティーを探すことにした。
「バニティー…バニティーはどこだ…」
しかし現実は非情なものだった。俺はバニティーを見つけることができなかったのだ。
「もう駄目だ…お終いだ…」
見捨てられた俺は床に項垂れる。
そしてキルゴット星はシヴァリキルと共に塵となりこの物語は多少平和?となった。
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