【第02話】◆【物語神龍鬼】
物語―――
それは主に人や事件などの一部始終について散文あるいは韻文で書かれたものを指すのが一般的でしょう。
この物語もその形式で描かれていく筈でしたが、一般的な物語と呼ばれるものと少しだけ形式が異なってしまいました。
というのも、この物語のすべての事象は物語神龍鬼アーカディア・ソテイラ・パンドーラーという女神様によって操作されているからです。
その女神様は困った事に自身の思うがままに物語を描いていきました。
物語の展開を勝手に決めて、そこに暮らす民衆の自然な営みを邪魔する。
登場人物である方々の感情や欲望を操作して色々な関係を結ばせる。
設定という異能を用いて人々の寿命を勝手に定めて命を理不尽に奪うなど、無邪気に命を弄ぶその姿に人々は嘆いていました。
絶望とは自ら欲してしまうモノなのでしょうか?
好奇心という甘美な蜜によって真実の果実を口にした人類は絶望のどん底へと突き落とされた。
その果実を口にした者たちは自分という存在が、異空間の人類に娯楽として提供されているというものです。
その時代を生き抜いた方々の心情を理解できるものは、どの世界にも存在しないでしょう。
それを描いている女神様が理解しようとしないのだから――――
すべての行動を強制される絶望が満ちた残酷な世界。
登場人物の心の奥底には、身内を、家族を、恋人を殺害された恨みが熾火のように燻っており、残酷で変化無き絶望的な日常に、死んでいるような毎日に苛立ちが募っていきました。
その恐怖、恨み、憎しみは彼らの頭上で聞こえる声の主に向けられたのですが、無力な登場人物たちはただいたずらに頭上を見上げ、宇宙の向こうに霞んで見えぬ空間に怒りの感情を向ける以外に為す術はありませんでした。
絶望に包まれた彼らが縋ったのは英雄というつくりあげた銅像であった。
「英雄様、我ら、力なき人類に救済を、希望の光を、残酷な世界の破壊を」
それがその時代の人々の心を救う合言葉(希望の言葉)でした。
実際、その言葉とともに人は英雄という奇跡を望むようになります。
自分たちに明日を、希望を与えてくれる存在が現れることを真に願っていました。
傍から見れば、創作物でしかないこの人類は明らかに狂っていました。
目に見えぬ恐怖が人の思想や行動を意図せず支配していったのでしょう。
人々は目に見える救世主を自分たちの欲であり、その存在の罪に対抗する言葉へと求めていきました。
封印・破壊・強欲・混沌・暴食・色欲・怠惰・嫉妬・憤怒・虚飾・傲慢・憂鬱・覚醒という十三個の十字架を崇めるようになります。
欲深いその存在に対抗する十字架は、人々の狂気的とも思える信仰心によって強化された肉体を手に入れました。
その十三体は大罪堕神龍・始祖様と呼ばれ、それぞれが天文殲魁という名称の権能を使用できたのです。
そのことが救いを求める弱い人間の心にピッタリと収まったのか、人々は彼らに絶対的な信頼と信仰を寄せ。
「進め、進め、自由への道を」
という言葉と共に文明を築き始めます。
その時の人類の精神状態は未知なる者への希望、信仰が支配していて昂揚感以外の感情を感じられなくなっていました。
人々は不屈の闘志と冷める事を知らない情熱を有して全てに取り組んでいきます。
困難に直面しても、彼らは英雄たちと共に越えるべき試練と言い、自分たちの死も自由への犠牲という英雄の言葉で活力へと変えていった。
当時の人々は破滅と虚無、楽観が入り混じった救い難い狂人集団であったのかもしれませんね。
「信仰とは時に破滅へ導くものになる」
この言葉は当時の存在した一人の学者が言っていた言葉です。
その言葉に耳を少しでも傾ける余裕があれば人々は大罪などを犯さなかったのかもしれない。
答えもいらないと思うが、この男性は背教者として同胞に殺された。目の前で妻子を惨く犯されながら。
この時代は後の世でこう語り継がれる。
英雄と共に自由と栄華を極めた黄金の時代
しかし、この時代に全く傷がなかった訳ではない。
自分たちの教えを否定した者は拷問にかけて殺したりと小さな犠牲は確かにあった。
この世界の全員を救うなどという綺麗事をほざく大罪堕神龍なんて一人もいなかった。
人類の思想が皆一緒のわけがないので、当時の思想に反抗的な集団も当然、存在した。
その組織は宇宙暴力団と言われ、これは文明を築き出した種族『吸血鬼神龍』が魔力を有する人類の創造時に偶然産み落とした異端者であった。
その中には英雄たちを無視し自由に生きる事こそこの世に生まれた者の権利であると主張する者もいた。
彼らと彼らを追う十三救世軍との戦いは当時の人々の娯楽でもあった。
しかし、この時代は腐敗だらけの混沌とした黄金時代。
異端者も所詮は当時の支配者から賄賂を受け取ったりして小さな犠牲側に立つ人類を炙り出し売りとばす犯罪者集団でしかなかった。
特に文明を築いている吸血鬼神龍にとっては開拓の邪魔をする害虫であり、大罪を裁くを合言葉に粛清をしている大罪堕神龍(十三救世軍)にとっては格好の的となった。
時間的には四年後。
不死不老の権能を有する吸血鬼神龍は本腰を入れて宇宙暴力団の一掃に乗り出し、圧倒的な火力によって僅か二分で討滅した。
この討滅戦に驚いたのは物語を描く存在。
物語神龍鬼である、彼は自分の気分次第ではこの物語の生命体を変な展開に持っていって殺せるという風に高を括っていた。
しかし、吸血鬼神龍や物語を破壊し尽くす大罪堕神龍たちには手出しが出来なかったのだ。
彼は一か八かでこの物語の人物たちに呪いを付与する。
条件は自身が介入できなくなるかわりに対象者をこの物語にしばりつけるといったもの。
結果としては成功してしまった。
そのせいでこの物語に歪みが生じる。
大罪堕神龍(十三救世軍)と吸血鬼神龍が無秩序に命を奪うその存在の殺害という大義を掲げて組織されたキルゴット銀河帝国は何億年も栄華を極める事になる。
しかし、時が経つにつれ不死不老の命を持つ彼らは歪みにより物語記録の書を奪取し宇宙を平和にするという大義を忘れてそれどころか他の物語を汚す存在に堕ちた。
英雄と呼ばれた大罪堕神龍も欲深く醜い神龍へと堕ち、自分たちの気分や利益で殺戮を繰り返す悪魔へと変貌を遂げた。
世界は混沌に飲み込まれる。
大罪堕神龍による苛烈な粛清及び虐殺、吸血鬼神龍の腐敗、人間や神々の戦争やテロリズム。酔っていた人々は絶望の味をもう一度知る事になる、これは誰が与えた罰なのだろうか。
そんな秩序無き世界に外界の人類が転生した。
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