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Death is salvationー混沌のヴィシュヌ  作者: 雲類鷲 蜃霧
【第一章】◆【サファイア王国編】
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【第17話】◆【混沌の契約】

 少女の意識は異空間にあった。


 全てが美しく整った塵一つ無い綺麗な図書館。


 少女は自分の手が届く範囲にある黒い本を手に取る。


 題名『救済の書』独特な雰囲気を纏うその本は少女の好奇心を刺激する。


 彼女が開いてしまうのも無理はないだろう。


「きれいだな」


 少女が本を開いた瞬間、彼女が持っていた本は消滅して代わり図書館の中央に玉座が出てきた。


 黒い蝙蝠の羽がついた黒を基調とした玉座。


 玉座から出る禍々しい黒いオーラを見て、少女は恐れてしまう。


 関わってはいけないものに関わってしまった。


 後悔という文字が彼女の心を包む。


「あっあぁ〜」


 追い打ちをかけるように玉座の前の黒い渦から少女に似た年上の女性が出てきた。


「ごっごめんなさい」


 少女は即座に謝罪の言葉を出した。


 それを聞いた女性は少女に美しい笑顔をみせた。


「すぐに謝れるのは偉いですね、ミルフィーさん」


 女性は少女につけられていた名を呼んだ。


 自分の事を奴隷番号以外で呼ぶ人に出会ったことがなかった少女は不思議に思った。


 なぜ、この人は私の名前を知っているのだろう?


「何で? 私の名前を知っているのですか?」


 少女の疑問に対して納得できるような答えを探す女性。


 しばらく考えた素振りを見せた後、納得できる答えを見つけたからか女性は答える。


「わたくしが貴方の契約者だからですよ。ミルフィーさん」


 その答えを聞いた少女は悟った。


 私はあの後捕まり、この女性に買われたのだと…………


「ご、ご主人様。今までのご無礼をお詫びいたします」


 少女は頭を下げた。


「どうか頭をお上げ下さい。わたくしは貴方の主ではないので……」


 少女は顔を上げて女性に質問をする。


「ここはどこですか? 私はどうなるのですか?」


 少女の疑問に女性は丁寧に答えていく。


「まずは落ち着いてください。ミルフィーさん」


 女性は指を鳴らす。


 すると、少女は突如出てきた安楽椅子のような揺れる座椅子。


 白い小さなテーブルを間に挟み、女性もこちらの対面に同じような椅子に座って


「さぁ、どうぞ身体が温まれば心も解かれます」


 少女にお茶を勧めた。


「いっいただきます」


 少女は出されたお茶にゆっくりと口をつける。


「おいしい」


 少女の満足そうな顔をみて、女性は嬉しそうに


「喜んでいただいて何よりです。さて」


 女性は自分のお茶を飲み干して話を切り出す。


「先程の質問にお答えしましょう。まず、ここは『契約の場』という場所です」


「けいやくのば?」


「えぇ、貴方はわたくしの左目に刻まれている文字が入った十字架に触れたでしょう?」


 そう聞かれ少女は自分の記憶を思い返す。


 確かに触れていた。


「はい」


「よかった、人違いではないようですね。では、その十字架の宝石部分から紫色のアメーバ、スライムのような塊が出てきたはずです」


「出てきました。それが商人の体に入っていってぇ」


「そのスライムのような生命体がわたくしです」


「えっ!?」


 女性から告げられた内容に少女は驚愕した。


 なんとも言えない生命体が目の前にいる美しい女性などと言われても受け入れられないのだ。


「うそ……ですか?」


「まさか、事実ですよ」


「そうですか」


 納得はしていないが受け入れることにした。


 それよりも


「私はこの後どうなるのですか?」


「そうですね。貴方はこれからわたくしと契約することになります。わたくし個人としては契約の有無は貴方に自由に選んでほしいと思っていたのですが、シィールド様が決められた規約上強制的に執行されるものなので、残念ですが貴方に選択肢はありません」


「規約上? 強制的?」


「説明が不十分でしたね。本来、私共に寄生された生命体は身体の制御権及び意識を奪われて好きなように使われて、不要になれば命を奪われて捨てられるのですが、契約者という立場であればわたくしが貴方の命を奪うという行動がとれなくなるのです。しかし、契約の締結はわたくしの意思とシィールド様の許可で決まるものなので、乗っ取られた貴方に選択肢はない…ということです」


 女性の言葉に少女は強い拒絶反応は見せなかった。


 元より敗北者である自分たち女神には選ぶ権利なんてものは無いのだ。


 もう慣れてしまった。


「別に構いませんよ。私に権利や選択肢なんてないですし……」


「ミルフィーさん……」


 女性はミルフィーの表情を見て、何かを悟った。


 が、それを口にすることはない。


「わたくしは貴方の権利や尊厳を尊重していきたい。貴方の事を復活の為の使い捨ての道具として扱うのではなく、一人の女性として意思を尊重し、付き合っていきたい」


 女性の言葉を聞いて、ミルフィー様は信じられないと言った表情を浮かべる。


「わたくしは貴方が負った心の傷を簡単に癒やす事はできません、しかし、契約者という立場で貴方に寄り添うことは出来る。毎日一緒にご飯を食べたり、お話したりと貴方と時間を共有できる、孤独感を癒やす事もできます。まぁ、出来れば会話が途切れて沈黙が流れても、その空気も心地いいと思えるような、そんな関係を築けていければいいと思っています。貴方が負った癒やし難き心の傷もたとえ時間がいくらかかったとしても治してみせましょう。今は信じられないでしょうがこれからの行動で証明します。精一杯お互いに幸せになれるような契約関係を構築できるよう努力しますので、末永くお付き合いの程、どうか、よろしくお願いします」


 ミルフィー様は大粒の涙を流した。


 彼女の人生で告白を受けたことはなかったからだ。


 それだけではなく、女性の声をきくと脳のてっぺんあたりが痺れてくる感じがしたのだ。


 心地が良く少女は目の前の女性を支えたいと思った。


 彼女の生でここまで寄り添ってくれた者が一人もいなかったからだろう。


 幼いときには奴隷としてを人間の貴族に玩具として扱われてきた。


 そんな壊れた心を包むような優しい声色で語りかけてくる女性をみて、信じてみてもいいかなと思ってしまう。


 少女はゆっくりと口を開く。


「信じてみてもいいですか?」


「……信じてもらえるのならば、わたくしは貴方、いや神々を救ってみせます。生命体としての尊厳を奪われた神々を……」


 少女は泣きながら微笑んで


「その言葉を聞いて安心しました」


「ありがとうございます。ミルフィー様。しかし、まだ、私のことを信じないでください」


「え!?」


「まだ、私は貴方との約束を果たせていません。貴方の負った心の傷を癒やし、神々を人間たちから救済するという約束を……」


 女性の真剣な表情をみて、ミルフィー様は彼女が本気である事を理解した。


「強制とは言ったものの貴方にも身体を預ける相手を選ぶ権利はあると思います。私に不満を持っているのなら他の大罪にしても構いませんよ。わたくしに選択権はあるのです、貴方の肉体から出ていくことで契約も乗っ取るという行為もなかったことになりますから……」


 身体を預ける相手を選ぶ権利。


 それなら、私はこの女の人を選ぶ。


「私を貴方の契約者にしてください」


 ミルフィー様は女性に懇願した。


 すると、女性は安心したような表情で


「ありがとうございます。我が主、ミルフィー様。この秩序なき狂った世界を一緒に治していきましょう」


 悪魔の契約は成立した。


 この契約が物語にどう影響するのだろうか?


 誰も知る由がない。


「そういえば、あなたの名前は?」


「あぁ、申し遅れましたが、わたくし、混沌・秩序を司る大罪堕神龍ヴィシュヌ・ソテイラ・パンドーラーと申します。貴方の救済者であり、人類に災いをもたらす存在」


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