ガラハ王国3
蹴りは確かに凄かった。
しかし今はそれどころではない。
剣が折られたのだ。
これでは外に出ることはできない。
この剣はアレンシュタット家にあった、家紋入りの剣だ。
私が唯一アレンシュタットの存在を感じられる思い出の剣でもあった。
それをこの女は!!
「ごめんて、怒らないでよ。」
そう言って女はミルイムの背中に隠れる。
しかしミルイムは思ったより身長が高く、175センチはあるだろう。
そんな女が一回り小さい男に隠れる姿は、哀れという他にない。
「お詫びにはならないかもしれないけどさ、今の蹴り、教えてあげるから。」
「はぁ、私は剣士だ。蹴りなど使わん。」
「え〜、でも私に出来ることはこれくらいだし……」
こいつは蹴りしか知らないのか。
どんな人生を歩んできたのか不思議でたまらない。
「ミルイムが誰ともぶつからず歩ける理由はなんだ?」
「あーね。知りたい?」
どうして上から目線なんだ。
むかつくが知りたいのは事実だ。
ここは心を沈めて聞こう。
「あぁ、だが、それで許されると思ったら大間違いだぞ。」
「そんなこと言って〜ツンデレか!」
私は持てる怒りを全て顔に写した。
「本当にごめん!教えるから!教えるから許して!」
「では教えてもらおう。」
ーーー
「私に石を投げてみて。」
ガラハ王国には多くの戦闘場がある。
今私と女、ミルイムはその中の一つにいる。
私たちの他にも数人訓練に来ているようだ。
女は目隠しをして、私の目の前に立っている。
一方私は多くの石を持ち、女の前に立っている。
どうやら目を瞑って石を避けれるみたいだ。
女の言う通り、私は女に向けて石を投げた。
「いだっ!!」
私が投げた石は真っ直ぐ女に飛んでいき、女の左肩にぶつかった。
女は目隠しを外し、「痛いじゃないの!」と、怒っている。
投げろと言ったのはお前じゃないか。
「お前が投げろと言ったんじゃないか!」
「そんな小さな石じゃわからないわよ!それと、私の名前はおまえじゃなくてジーマよ!」
そう言ってジーマは拳大の石を拾って私に渡してきた。
「これなら多分いけるわ!さあ投げて!」
そう言って目隠しを再度付け直す。
私は指示通り拳大の石をジーマの顔面めがけてめいいっぱい投げた。
しかしジーマはその石を軽く首を横に倒すだけで避けた。
素直にすごいと思った。
「どうよどうよ!すごいでしょ!」
凄いのは認める。
しかし目隠しをつけ、舞い上がっている姿を見ると、なぜか足元の小さな石をぶつけたくなる。
「これがスキル、敵感知だよ!」
敵感知……
エレンが使っていたやつか。
今思えばエレンから色々なスキルを学ぶんだった。
私はスキルを一つも所持していない。
理由は学ぶ機会がなかったからと、剣技に重きを置いていたからだ。
しかし今後剣技だけでやっていけるだろうか。
それは否だ。
これを機に覚えておくのもありだ。
どうせ剣がないから外に出れないしな。
「聞くより実践!!」
そう言われ、目隠しを渡される。
とは言われても避けれるとは思えない。
目隠しを着ける。
案の定全く見えない。
「じゃっいっくよー!」
ジーマの投げた石はそのまま私の太ももにぶつかる。
くそっ、わかるわけがない。
次々と体に石がぶつかる。
こいつ楽しんでないか?
「一旦やめろ!」
普通に痛かったので止めた。
目隠しを外す。
私の周りには大小様々な石が落ちていた。
その多くは、ジーマがわかるわけがないと言っていた石と同程度の大きさのものだった。
「あ、あのね、君は私を超えなくてはならないんだよ!」
「駄目だ、私にはできない。もう一度見本を見せてくれないか?」
「その割には顔が怖い気がするんだけど…」
無言で目隠しを返す。
「すみませんでした!だってすぐ覚えられたら私の面目が立たないんだもん!!」
「そんなすぐ覚えられる訳ないだろう!さっさと教えろ!」
それからは真面目に教えてくれた。
まずは目隠しをして歩く練習。
初めは前に何があるかわからない恐怖があったが、徐々に慣れていった。
次に目隠しをして気配を感じる練習。
これが最も苦労した。
気配というのは概念のようなものという固定観念があった為、なかなか感じられなかった。
しかし実際は違う。
気配というのはそのものが発しているオーラのようなものだ。
目に見えない魔力を感じることができるように、気配も分かれば感じることができる。
それからはトントン拍子にことが進んだ。
おかげで1日足らずでスキル『敵感知』を習得することができた。
「おめでとー。」
そう言うジーマはなぜか落ち込んでいる。
私にすぐ敵感知を覚えられて面目がないのだろう。
しょうがない。
飯でも奢ってやるか。
ーーー
「おい、お前、金はどうした?」
飯に行こうとフォーリンを誘うためあの賭博ホールへ戻った。
しかしフォーリンは目を合わせようとしない。
「おかしいんです!なぜか私が賭けた人は毎回負けるんです!絶対何か裏があります!!」
私の視線に耐えきれず、フォーリンが言い訳をし始める。
「おかしいのはお前だ!いくら失ったんだ!?」
「金貨5枚です……」
嘘だ。
今目線を逸らした。
「本当は?」
「言っても怒りませんか?」
「真実を話せよ?」
「15枚です。」
「馬鹿が!もう金輪際賭博は禁止だ!お前の金は私が管理する。いいな?」
フォーリンにこんな一面があったとは。
負けず嫌いだとは思っていたが、こんなことに負けず嫌いを発揮してほしくなかった。
「はい、よろしくお願いします。と、そこの方々はどなたです?」
「覆面はミルイム、この女はジーマだ。」
「よろしくー。」 「ちっ彼女持ちかよ。」
「わわ私とレイク様はそういう関係じゃありません!」
「そうなの? なら私が貰っても大丈夫だね。」
「駄目に決まってるじゃないですか!」
「何を馬鹿なことを言ってる。行くぞ。」
ジーマは面白いおもちゃを見つけたが如く、フォーリンをいじめている。
まあ、仲が悪いというわけではなさそうなのでいいか。
「ジーマ、おすすめの食事処を頼む。」
「おっけ、任せて。」
そうしてジーマの先導のもと、とある屋台に着いた。
串焼き屋みたいだ。
美味しそうな串焼きの匂いが辺りを包んでいる。
どうやらこの店は一定の金額を払ったら食べ放題という面白いお店みたいだ。
1人あたり銀貨2枚。
つまり4人いるため銀貨8枚。
食べ放題と聞いてお得かと思ったらそこまでお得ではないようだ。
まあ、串焼きは色々な種類があり、フォーリン達も大いに喜んでいるのでいいか。
フォーリンとジーマはどちらが多く食べれるか対決している。
フォーリンの皿には既に30本以上もある。
だが、ジーマも負けていない。
フォーリンに負けじ劣らずの本数を記録している。
こいつらを見ているだけでお腹が一杯になりそうだ。
そしてやはりフォーリンが、脅威の38本でジーマをくだした。
結果 私 16本
フォーリン 38本
ジーマ 25本
ミルイム 11本
いったいこの女どもの胃袋はどうなっているのだろうか。
まあ、元は取れただろう。
これから剣を新調しに行って、宿を探す。
だが、お金大丈夫だろうか。
現在手元には金貨が28枚と銀貨銅貨が数枚。
普通の剣なら金貨10枚で買えるが、やはりいい剣を使いたい。
ちょっと、金稼ぎするか。