ラーレン領1
ちょっと長いかもです。
ラーレン領
ここは二つの村から成る小さな領だ。
見渡す限り畑と田んぼだらけだ。
送ってくれた馬車はもうランス王国へと戻っていった。
今日はラーレン領の何処か泊まれるところで1日を過ごす。
その為に宿を探しているのだが、全く見つからない。
宿どころか村人すら見当たらない。
そういえばフォーリンはここに来たことがあるのではないか?
バレットスター領からランス王国へ来るんだったらここを通っていてもおかしくない。
「フォーリン、ここに来たことはあるか?」
「ありません。私は顔バレするかと思って村は避けて来ましたから。今思えば、そんなに私有名じゃないというのがわかったので無駄だったと後悔してます。」
「そうか……」
「人いませんね。」
建物はちらほら見かける。
しかし建物から生活音がしない。
たまたまかもしれないが、今までに見つけた建物には誰もいなかった。
とりあえず領主の家に向かおうと思う。
領主の家はだいたい領地の真ん中にある。
だが、その領地の真ん中がわからない。
「どこに向かってるんですか?」
「領主のところだ。」
「だったらさっき通った十字路を左です。」
「どうして領主の家を知っているんだ?」
「だって看板ありましたよ?」
フォーリンの指差す方向を見ると確かに看板があった。
看板には『この先、カイ・ラーレン様家』と、書いてあった。
こんなに堂々とあるのに見落とすとは……
十分すぎるくらい寝たのに疲れているのかもしれない。
看板の通り進むと、一際大きな家があった。
「すみません。領主様はいますか?」
しかし反応がない。
だが、ここまで人がいないことなんてあるか?
何か事件があったとか?
それともどこかに集まっているのか?
「いませんね。どこかに集まっているのでしょうか?」
「手分けして探すぞ。2時間後さっきの看板の前だ。」
「わかりました。」
それから手分けして探した。
しかし、見渡す限り田畑ばかりで人のいる様子がない。
まるで領地の全員が神隠しにでもあったかの様に。
そろそろ2時間経つので戻ることにした。
まだフォーリンはいないようだ。
2時間が経過した。
まだフォーリンが来ない。
今まで時間を破ることのなかったフォーリンが遅れるとは。
それから30分が経過した。
まだフォーリンが来ない。
流石に遅い。
これは何かがあった。
探さなければ。
フォーリンが探していたのはだいたいこの辺りだろう。
しかし、ここも見渡す限り田畑ばかり。
ん、何だこの音は?
ざーっと激しい雨が降っているかのような音が微かに聞こえる。
音の方向に向かうとそこには多くの人がいてた。
音の原因は滝だ。
なにやらおかしな雰囲気を感じたので気づかれないように少し近づいた。
どうやらなんかの儀式を行なっている最中みたいだ。
滝の前には不自然な大地があり、誰かが2人いる。
1人は派手な衣装を着た小さい子
もう1人は白い服を着た子……
遠くてよく見えないがあの、ある意味目立つ服は、もしかしてフォーリンか?
もう少し近づく。
そうすると、村人の多くが老人であることに気づいた。
そしてやはり、あの白い子はフォーリンだ。
何をしているのだろうか。
「「「ぬまとこ様!!!我らに子宝を恵み給え!!!」」」
びっくりした。
急に村人が大合唱し始めた。
その声は大地を震わせるほどの声量を誇っており、耳を塞がないと耳がいかれそうだ。
いや、声で大地が震えているのではない。
何者かが地震を起こしている。
滝の方を見ると、滝が左右に割れ、大きな人形ナマズが現れた。
まずい、フォーリンは何をしているんだ。
あのままではあのでかいナマズに食われてしまう。
大ナマズが2人の前へ近づいてくる。
そして口を開け食べようとした。
やばい、このままではフォーリンが食べられる!!
私はバース流の「瞬足」の構えを取り一気に距離を詰めた。
しかし距離がありすぎて全く届かない。
「フォーリン!!!」
駄目だ、食われる。
フォーリンを守ると誓ったのに、私は何もできないのか。
しかし大ナマズはフォーリン達を食べる直前で止まった。
フォーリンは何やら話している。
しかし遠くて音が拾えない。
何を話しているのだろうか。
大ナマズは滝の中へと戻っていった。
何があったのだろうか。
心配させやがって!
後でたっぷりと叱ろう。
「何をしてるんじゃ小娘!」
「ぬまとこ様に無礼であろうが!」
「さっさとぬまとこ様に謝罪し、身を捧げんか!!」
あの大ナマズはどうやらぬまとこ様というらしい。
そのぬまとこ様が何もせず帰る様子を見て村人達は怒りを爆発させている。
しかしフォーリンは一体どうしてあそこにいて、どうして身を捧げることになっていたのか……
フォーリン視点
宿を探しているのですが、一向に宿はおろか人すら見つかりません。
そこでレイク様は手分けして探そうと提案しました。
正直1人は心細いです。
ですが、野宿はもっと嫌なので頑張りたいと思います。
当初は魔力の濃いところへ行こうと思います。
もしかしたら誰かが魔法の訓練をしてるかもしれないと思ったからです。
何やら滝の音がします。
もしかして魔力の湖があるのかもしれません。
魔力の湖の周辺には珍しい植物が生えるので、ついでに採取していこうと思います。
近くまで来ました。
濁りのない綺麗な湖、大きな滝、とても味のある風景です。
周辺には、回復ポーションの材料にもなるタロの実が沢山生えています。
タロの実を採取していると後ろに気配を感じました。
後ろを振り向くと、多くの人々が私のことを見ていました。
「神は私たちを見離してはいなかった!」
「「「おー!!!」」」
「え……」
神? なんのことでしょうか?
どうやらタロの実を採取したことを怒っているわけではないみたいです。
「きゃっ!何するんですか!?」
村人の老人に腕を掴まれました。
そしてそのまま船の上に乗せられました。
抵抗することもできましたが、村人に危害を与えたら泊めてくれなくなると思ったので抵抗せずついて行くことにしました。
船の上には綺麗な服で着飾った10歳ぐらいの女の子がいました。
女の子は笑顔でこんにちわと挨拶してくれました。
船には私たち2人以外にいません。
女の子はオールを持つと、滝の前にある土地へと漕ぎ始めました。
「君、名前は何?」
「アイシェです。」
「そっか、いい名前だね。ところでアイシェちゃん、今から何をするの?」
薄々わかってはいました。
綺麗に着飾った女の子に魔力の濃い湖。
これは何かの生贄だと考えます。
「私はぬまとこ様への捧げ物としてあそこに奉られます。」
アイシェちゃんは、怖くないのか、それとも自らの運命を受け入れているのか、様子がおかしくない。
普通なら怖いはずなのに……
やはり考えがあっていました。
生贄なんて文化、この世の中にまだ存在していたとは驚きです。
生贄は悪き文化です。
厄災を何かのせいにして、誰かのせいにして、誰かに押し付ける。
そんな非人道的、非科学的な文化。
しかもアイシェちゃんの様なまだ幼い子供を生贄にするなんて……許せない。
「アイシェちゃん、夢とかやり残したことってある?」
「え……」
「食べてみたいもの、行ってみたいところ、何でもいいよ。」
そう問うとアイシェちゃんの動きが止まりました。
「わからない……何もわからないです。」
私は決めました。
こんな子にこんなことをさせる村に泊まってたまるか!
とても、かわいそうだ。
今まで生贄になるべく育てられたのでしょう。
外との干渉を無くして、何にも興味を持たない様にしてきたのでしょう。
「どうした!早く行け!ぬまとこさまを待たせるな!」
村人からの怒号が飛んできます。
かなり腹が立ちました。
あとであの村人に毒を盛りたいと思います。
アイシェちゃんは怒号に恐れてか漕ぐスピードを上げました。
「アイシェちゃん、この村から出よ?」
「無理です。外は危険が一杯。怖いところ。」
そう教えられてきたのでしょう。
外は確かに怖いところです。
何度も危険な目に遭いました。
ですが、それ以上のわくわくとドキドキがありました。
その景色を見せてあげたい。
滝の前の土地に着きました。
アイシェちゃんは土地に着くと、正座をして手を組み目を瞑りました。
未だ震えています。
死ぬとわかっていても死ぬのは怖いのです。
「おい、白いの!早く祈りを捧げんか!」
今言ったやつ、あとで家を燃やす!
とりあえずぬまとこ様という奴を見る為、祈りを捧げるふりをしました。
「「「ぬまとこ様!!!我らに子宝を恵み給え!!!」」」
びっくりしたー。
急に村人が大合唱した為心臓が止まりそうでした。
すると、目の前の魔力が濃くなるのを感じます。
これは、悪魔?
目の前の滝が左右に割れ、おっきなナマズみたいな怪獣が現れました。
魔力からして悪魔が乗り移っていることは明らかです。
だったらどうにでもなります。
正直、普通の魔物が来ていた場合危うかったです。
アイシェちゃんを守りながらこの狭い土地で戦うのは厳しいと感じていました。
悪魔なら祓うだけで大丈夫です。
おそらくあの大きなナマズは無害でしょう。
魔力の影響で体が大きくなっただけのナマズだと思います。
大ナマズが口を開け私たちを食べようとしてきました。
ですが、途中で止まりました。
「貴様、何のつもりだ?」
どうやらしゃべれるみたいです。
私の服のお陰で近づけなく、ご立腹の様です。
「今後村人を食べることを禁じます。それができないというのであればここで貴方を祓います。」
アイシェは何が何だかわからない様で私とナマズを交互に見ています。
「そんなこと、貴様に出来るのか?」
「試してみます?」
「カイの差し金か?」
カイとはラーレン領の領主のことだろう。
「いいえ、私は冒険者です。私の意志でここにいます。」
「そうか。まあいい、今日のところは退こう。」
「いえ、もう村人を食べないと誓ってください。」
「……よかろう。これでいいか?」
「はい。」
そうして滝の中へと戻っていった。
「何をしてるんじゃ小娘!」
「ぬまとこ様に無礼であろうが!」
「さっさとぬまとこ様に謝罪し、身を捧げんか!!」
あー!うるさい!
村人全員ぬまとこ様とやらに食わせてやろうか。
アイシェちゃんは何が起こったのか、わからないのかただ呆然としています。
それもそうです。
生贄になる運命が突如変わるのですから。
ただこれからどうしましょうか。
この子はもうこの領地には居られないでしょう。
かと言って私たちについて行かせるのは危険がいっぱいです。
とりあえずレイク様に相談しようと思います。
そのためにはまずここから出なくては……
あれ、船は?
辺りを見渡すと船は湖の上を漂っていました。
固定するのを忘れていた為流れていってしまったみたいです。
緊急事態です。
私、泳げません!
ーーー
レイク視点
何してんだあいつ?
ぬまとこ様とやらを帰らせて戻ろうとしたが、ボートが流されて帰れないみたいだ。
しょうがない、助けてやるか。
私はバース流『水面渡り』で流されてるボートに一度着地し、続けてフォーリン達のいるところへ移動した。
「レイク様!助けに来てくれたんですか!?ありがとうございます!」
「聞きたいことは山ほどあるがとりあえずここから出るぞ。」
「はい!さ、アイシェちゃんもう大丈夫だよ。」
フォーリンがそう言うがアイシェの表情は晴れない。
「私に掴まれ、飛ぶぞ。」
「はい。さあアイシェちゃん、捕まって。」
しかしアイシェは動こうとしない。
「どうした? 戻るぞ。」
「私、やっぱりぬまとこさまに謝って身を捧げます。」
アイシェはそう言うと、滝のある方へ飛び込んだ。
そして滝のある方へ泳ぎ始めた。
「レイク様、助けてください!」
「あぁ、待ってろ。」
私も続いて湖に飛び込んで、アイシェの元へ泳ぎ始めた。
そして無事滝の寸前で捕まえることができた。
「やめてくだ……」
私は有無を言わさずアイシェを気絶させた。
そしてアイシェを連れてフォーリンのところへ戻った。
「アイシェちゃんは無事ですか?」
「あぁだが、今は気絶させてる。」
「そうですか……よかったです。」
「戻るぞ。」
「はい。」
私は再びバース流の『水面渡り』でボートに行った。
しかしそこから元の場所に戻るには2人抱えては無理なので、そこからはボートを漕いだ。
住民達は止めることなく私たちに暴言をぶつけてきている。
しかしその中には絶望といった表情をしている住民がちらほらいることに気づいた。
そして住民達の前にたどり着いた。
いや、私たちが着くところへ住民達が移動してきていた。
「貴様、どこの誰だ?」
「人の名を聞く前に自分の名を名乗るのが礼儀ではないのか?」
そう言うと、周りの住民がかなり騒いでいる。
しかし目の前の小太りの白髪混じりの男は手を横に出し、うるさい住民を黙らせた。
「わしの名は、カイ・ラーレン。この領の領主をしておる。」
「私の名はレイク・アレンシュタット。貴方に聞きたいことがある。少し時間をくれないか?」
「わかった。わしの家へ案内する。」
領主に案内され先程訪れた家へと着いた。
「本題だが、ぬまとこさまとは何だ?」
「ぬまとこさまは、この領地に古くから住み着く守り神じゃ。ぬまとこさまのおかげで我らは魔物などから守られておる。」
「それで代償に子供を?」
「……そうじゃ。」
「見たところこの領地には子供が少ない様に感じるが? 子供どころか子供を作れそうな大人すらいない様にも感じる。」
先程集まっていた住民に少なくとも子供はいなかった。
しかし普通に30代ぐらいの大人はちらほらいた。
だが、子供いない。
これは何かあると思いブラフを打った。
「……」
「アイシェは誰の子だ?」
念のために聞いてみる。
おそらくアイシェの血の繋がった親はこの領地にはいない。
「…アイシェは買った子じゃ。この領地はもう子供がいない。移民してくる者もいない。じゃが、生贄は必要なんじゃ。」
やはりそうだ。
この地には子供ができない。
原因はまだ不明だが、何かがこの領地で子供をできない様にしている。
そしてぬまとこさまは子供を求めている。
つまりこれはマッチポンプだ。
確実に終わりのくる条件を出して、できなければ何か災厄を起こすといったところだろう。
「生贄を捧げてもこの領地の終わりは目に見えている。」
「待ってくださいレイク様!私も領主様に聞きたいことがあります。」
どうやらフォーリンも気づいた様だ。
「なんじゃ?」
「この領地に子供ができなくなったのはいつからですか?」
「20年前じゃ。」
「では、ぬまとこさまが生贄を要求し始めたのはいつからですか?」
「……20年前じゃ。」
「やっぱり。あのぬまとこさまとやらは悪魔に取り憑かれています。その悪魔の呪いがこの地に薄く広がっています。その為子供ができないのではないでしょうか?」
私と同じ推察だ。
もしかしたらフォーリンはもうわかっているのかもしれない。
ぬまとこさまと対峙したフォーリンならば。
「フォーリン。だがどうしてそうする必要がある? ぬまとこさまは子供が欲しいんだろ? 子供を作れない様にしたら元も子もないではないか?」
「そうですね。私もそこが気になっていました。ですが、もし、子供を出せなければ何かしら災厄を与えると脅されていたら?」
「どうなんだ領主?」
領主は黙った。
長い沈黙。
これはビンゴだろう。
「……これはわしの罪じゃ。20年前に起きた魔物の襲来の際、助けてくれたぬまとこさまに完全に魅入ってた。その為、あんな契約を結んでしまった……」
「その契約とは?」
「毎年10歳の子供を1人捧げる。できなければ領地全員の魂を貰う。というものじゃ。」
やはりそうだったか。
だが、領地全員の魂とは。
そんなことが可能なのか?
「どうしてそんな契約を!?」
「その時のわしは憔悴しきっていた。魔物に領地を荒らされ、それを助けてくださったぬまとこさまをわしは神だと思ったのじゃ。」
「お願いじゃ。アイシェをぬまとこさまに捧げてはくれないか?」
「駄目だ。今アイシェを渡しても、来年次の生贄を準備することになる。」
「そうか……アーレン領もここで終わりじゃな……」
「フォーリン、聞きたいことがある。実際にこの領地全員の魂を奪うなんてことできるのか?」
「どうでしょう……ですが、不可能とは言えません。」
領主は俯いている。
もう諦めているのだろう。
しょうがない。
私もどうせなら宿で寝たいからな。
「わかった、ぬまとこさまを駆除する。いいな?」
二つに分けようと思いましたが、途中で割ると変な感じがすると思って長くなりました。すみません。