第4話:戦闘は意外と楽でした
魔法少女になって数日。
あたしの街に怪人が現れました。
いよいよ初出撃です。ドキドキします。
「いい? クソバード。あたしが一緒にいるから無茶はしないで。まずは落ち着いて戦うことを心がけて」
「はい!」
もちろんライトニング・アスカさんも一緒。
心強いです!
「頑張って! 僕も応援してるよ!」
あ、グエンさんもいたんですね……。
はい。陰ながら応援してください。そのまま陰から出てこなくてもいいですから。
とりあえず羽音を鳴らさないようにお願いします。
「輝く闘志は正義の光! ライトニング・アスカ見参!」
「銀河系最速の翼竜! ミレニアム・クソバード光臨!」
不安や緊張よりずっと強い興奮を感じながら、2人して怪人の前に立ち塞がります。
デビュー戦の相手は、青い身体をした人型の怪人です。
「炭酸怪人サイダーバブルね……。最初の敵としては悪くないわ」
「はい。がんばります!」
怪人も、こちらを向いてファイティングポーズをとりました。
……なんか猫背ですね。
「シュワ!」
いや、その鳴き声はダメです!?
「シュワッチ!」
やめてください!
こんな邪悪なやつはさっさと片付けるに限ります。
あたしは事前練習通り右手を差し出して武器を召喚しました。
「マジカル・おろし金!」
空中に集まった光が板状を形作り、それが蛍の飛び立つように弾けるとおろし金が現れます。
そう。あたしの初期装備、おろし金です……。
「あの……本当にこんなので戦うんですか? というかSRで台所用品っておかしくないですか?」
「刃物は当たりなのよ? 私の初期装備は長靴だったけど?」
「武器ですらない!?」
「安心して。どんな武器でも攻撃パラメーターがマックスになるチートコードが見つかっているわ」
チートコード!?
「右手の親指をチュパチュパしながら左手でスカートを捲り上げて、ケンケンパを4回繰り返すの。さあ!」
「できるわけないでしょうが!」
「ああ、ごめんなさい。説明が足りなかったわね。下着が見えるまで上げる必要はないから」
「そこじゃないです!」
……はい。結局やりましたよ。正義のためですから。
ただ、恥ずかしい思いをした甲斐あってチートコードの効果は抜群で、おろし金で叩いてるだけなのにスマブラみたいに怪人は吹っ飛んで行きました。
……モンハンみたいな血しぶきもめちゃくちゃ出ましたけど。
「トドメです! 覚悟してください!」
「ちょっと待って!」
「?」
怪人におろし金を突きつけるあたしを、アスカさんが引き留めます。
「あなたの攻撃は2回しか当たってないわ。対して、私の攻撃は26回も当たっている。今回の勝利は、私の手柄と言っていいと思う」
「え、ええ……そりゃ、そうですね。武器も経験も違うんですから。でも、それが……?」
「ガチャポイントはトドメをさした魔法少女にしか入らないの」
「なんというギスギス仕様!?」
「だから今回は私がもらうわね。たとえ新人でもそこは譲れないわ」
「は、はい……」
異論はないので、アスカさんにポイントを譲りました。
ただ……戦闘が終わって変身解除した頃には、あたしのやる気はすっかり萎えていました。
魔法少女って思ってたのとあんまりにも違いすぎます……。
「アスカさん……あの……あたし、もういいです。魔法少女、向いてない気がします」
「そう」
「……」
「……?」
「え? やめていいんですか? なんかペナルティがあるとかないんですか?」
「ないわよ?」
「そ、そうですか」
「ただし」
あ、やっぱきました。
「利用規約により最低でも引退する3年前には申告する決まりになっているの。つまりあなたが引退できるのは3年後の今日と同じ日ね」
「そんなことだろうと思いましたよ!」
こうして、あたしの魔法少女としての戦いの日々が始まったのです。
次回『重課金ユーザーに勝てません』は2日午前に更新予定です。