第6話
宜しくお願いします。
「ねぇ、聞いてるの?」
ハンナはその言葉にはっとした。
目の前の少女は、今日もあの人はかっこよくてー、などピンク色な話をしている。
その間、話を右から左に聞き流しながら、今日の晩御飯は何にしようかなぁなんて、呑気に考えていると、目の前で頬を膨らませたマリーに小突かれた。
「ごめんなさい。それで、何の話だったかしら?」
「もう!ハンナはいつもそう!恋バナが全然盛り上がらないわ!」
こぢんまりとしたオシャレなカフェだと言うのに、マリーは大きな声をだす。
そもそも、ハンナは恋愛にうつつを抜かすくらいならば、新たな薬の開発やまだ研究中のワクチンの実験に勤しみたいのだ。
興味が無いわけではない。だって年頃なのだから。
だが、ハンナはそんなことよりも前世でやれなかったことを今、やれることが楽しくて仕方がないのである。
それに、恋愛感情がどのようなものかも分かっていない。
「うーん、ごめんなさい。私にはまだ恋愛は早いわ。」
「ふーん。イーリスさんとは、どうなの?」
「え、どうしてイーリスが出てくるの?彼は私の兄みたいに思っているわ。そりゃ、笑顔が素敵だなーとかは思うけれど。」
「ハンナはお子ちゃまなのね。ま、いいわ、もう少し待っててあげる。ハンナから恋愛相談を受けるのを楽しみにしてるわ。」
マリーの意味深な笑みと言葉に、ハンナは頭を傾ける。
その後、マリーと商店街で買い物をして別れた。
帰路についていると、後ろから声がかかる。
「こんにちは、イーリス。お仕事は終わったの?」
「うん。ちょうど家に帰る所だったんだけど、ハンナが目に入ったから。ハンナも帰るところかい?」
「えぇ。今日はマリーとお茶をしていたの。」
「へぇ、それは良い休日を過ごしたね。マリーさんにはいつも猫のことでお世話になってるから、今度お茶をご馳走しようかな。ハンナも良かったら一緒に。」
「あら。邪魔じゃない?」
「もちろん。ハンナがいた方が僕は嬉しいよ。」
「ありがとう。じゃあまた3人で。」
少し照れて、またね、と声をかけて帰ろうとすると、腕を掴まれる。
びっくりして、どうしたの?と振り返るとイーリスは口をひらく。
「あのさ、よかったらこれから食事でもどう?」
「ごめんなさい、今日は私食事当番なのよ。あ、だったら貴方もうちに来ない?」
「いいのかい?じゃあ手土産に美味しいおデザートでも持ってくよ。」
ハンナとイーリスはケーキさんで人数分のケーキを買って帰路につく。
「あらぁ、イーリス来てたのね。」
「お邪魔してます、エミリアさん。」
ハンナとイーリスがほとんどできた食事をテーブルに運んでいるとエミリアとヘンリーが帰ってきた。
「こうしてみると、貴方達夫婦みたいね。」
エプロンをして料理を運ぶハンナとそれを手伝うイーリスを見て、頬に手を当てて、うふふ、と笑ってエミリアが言う。
「僕はそうなって欲しいと思うんですけどね。ハンナは僕になんて興味が無いみたいで。」
その言葉にハンナは目を見開いて顔を赤くする。
「もう!何言ってるの?からかわないで!」
「からかってなんか無いよ。僕はハンナと一緒なら幸せだろうな、と思うよ。」
そう言って、ハンナを愛おしげに見る。
その目にハンナはどきっとする。
この気持ち何かしら。よく分からないわ。
そんな事を思いながら目を伏せる。
そんな2人の姿をハンナの両親は微笑ましく見守った。
その後もイーリスは恋愛に興味のないハンナの外堀から埋めていくように、両親の前でハンナを愛でる。
可愛いだの、優しいだの言いながら時々ハンナを撫でる。ハンナはキャパオーバーになって
「ほ、ほら!冷めちゃうから!いただきましょう。」
とごまかす。
いつからイーリスは、こんな風になったの!?
爽やか好青年だったじゃない!
あんな甘い声で褒めてきて!しかも、両親の前で!
恥ずかしいわ。
心臓が飛び出そうなハンナはぐるぐると頭の中でイーリスの言葉を思い出す。
ハンナが、それが恋をしている、ということに気づくのはもう少し先のお話。
ありがとうございました☆