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第5話

宜しくお願いします!

 この日、町内会に集まったハンナと大人たちはとある議論をしていた。

モーリッツの、イーリスが3ヶ月目だがどうか、という問いに対する議論だ。


「おれぁ、飼い猫のためにその日一番良い魚を買ってく奴が、悪いやつとは思えねぇな。」

魚屋を営むデニス・ホフマンは、イーリスが猫のために魚を買って行ってくれるようになり、打ち解けたのだという。


 「娘は、彼が猫を愛おしそうに抱いて訪ねて来ては、飼育について熱心聞かれるって言ってたわ。うちのタマともとっても仲良しなのよ。猫好きに悪い子がいるなんて思えないわ。」

八百屋のメリッサ・フォークスは、猫派である。猫は正義と言わんばかりに熱弁する。


 その他にも大人たちはこぞって、優しくされた、笑顔が爽やか、男前、助けてもらった、などイーリスを褒めちぎった。


 そして、モーリッツは反対意見はないようだが、ハンナはどう思うか、とハンナの意見を求めた。


 「はい。私も皆さんと同じで、イーリスはとても良い人に思えます。誠実で、真っ直ぐで、人に頼りきることもなく、自分で困難を乗り越えていました。彼が来てから、町が前よりも一層明るくなったようにも思えます。彼はいつも笑顔で、誰とでも気さくに話しています。誰かを騙すなんて、絶対にしないと思います。むしろ、誰かの為に役に立ちたい、と行動をしています。私は彼を受け入れたいです。」

胸の前の手をぎゅっと握りしめ、真っ直ぐとそう答える。


 「うむ。私も概ね皆さんと同じ意見だ。では、ハンナ頼むよ。」

「はい、モーリッツさん。明朝、彼の家に行ってまいります。」

 満場一致でイーリスが町に住み続けることを認められた。


 夜が明け、ハンナはイーリスの家を訪ねた。

ガチャリ、とドアが開くと、眠気眼のイーリスが迎え入れてくれる。


 「こんなに朝早くから、ごめんなさいね。」

現在早朝5時。仕事もあるから急がないと、という口実を掲げ、その実早くイーリスに秘密を打ち明けたい!という気持ちでイーリスを訪ねたのだ。

そんなハンナに、イーリスは優しくほほえみ、もう起きる時間だったから大丈夫だよ、と答えた。


 「それで、今日は一体どうしたの?」

「えぇ、あのね、あなたに話しておきたいことがあるの。でもその前にね、いくつか聞かなくちゃいけないことがあるわ。」


 「…これは?」

聞きたいことがある、と告げると何でも聞いてよ、と言ったイーリスに手のひらに収まる小さな透明の石を手渡した。


 この石は、もつ人の心によって色を変えるのだ。

ハンナが魔力を込めて作った石で、嘘をつくと紫、邪悪な心をもつと黒、恋心はピンク、怒っていると赤、悲しいと青、といった具合に変化する。まっさらな気持ちであれば変化はない。

石について軽く説明すると、イーリスは珍しい石だねとしげしげと見つめて、質問を待つ。


 「正直に、答えてね。まず1つ目。あなたは、もし魔法を使えたとしたらどうする?」

「うーん。魔法が使えたからってなにかかわるのかい?そりゃ便利だろうし、頼っちゃうこともあると思うけど、僕は使いたいと思ったことはないなぁ。」

石の色は変わらない。

「ふふ。あなたならそういうと思ったわ。じゃあ2つ目。もしあなたがやってる家事がすごーく楽になる道具が手に入ったら、どうする?」

「そうだな。楽はいつでも出来るけど、僕は今の何でも自分でやれるこの生活が気に入ってるよ。まぁ僕にできないことをしてくれる機械だったらちょっと興味はあるかな。」

石の色は透明なまま。

「2つ目。あなたはこの町に、住み続けたい?」

「それはもちろん。ここの人たちはみんな、優しいね。あったかい。僕はこの穏やかな暮らしを守りたい、と思ってる。おこがましいけど、そのために僕に出来ることはやりたい。今まで僕は人に施しを受ける側だったんだ。それを今、返していってる気分だよ。」

「悲しげな顔をするのね。どうして?」

石は青く光っていた。


「僕はね、ここにいちゃいけない人間なんだ。今は詳しく言えないけど、でも、僕がここを去るときは、ここを、君を守るためだ。」

「そう、ありがとう。貴方のことは貴方が私に話したいと思ったときに話してくれると嬉しいわ。これで質問は終わり。真剣に答えてくれてありがとう。合格よ。」

ハンナはそう言うと、イーリスの手にある石を受け取った。そして、目を閉じるようにと指示する。

その瞬間、ふわっと温かい風が吹く。

「いいわよ。目を開けて。それでね、私についてきて欲しいの。」 


 イーリスはハンナに従って、軽く身なりを整えて家をあとにする。


 扉を開けるとそこは、異世界でした。

そう、言われても疑いようの無い世界が広がっていた。


 子どもたちは、浮いたふよふよした丸いものを持っていたり、空中を飛ぶ小さな物体を操作していたり、初めて見るものばかりが目に映る。


 「うわぁ!これはなんだい??」

「ふふ、ごめんなさい、驚かせて。これはね、全部私が作ったのよ。」

 あれは、風船。あれはラジコン。とくすくす笑って説明する。

「どういうこと?」

「私の目を見て。あなたなら分かるんじゃないかしら。」

魔法で変えている目の色を一瞬元に戻す。

「え、君、もしかして、転生したの?」

ハンナの金色に輝く瞳に、目を見張る。

「やっぱり分かったのね。その通りよ。私はこれで人生7回目。魔法も使えるのよ。」

そういうと彼女の手にぼっと炎があがった。

「これが、魔法。っていっても魔法も万能では無いのだけれど。それでね、今までは貴方に目くらましの魔法をかけてたの。騙してたみたいになってごめんなさい。」

 

 イーリスは、しゅん、とするハンナの頭を優しく撫でる。

「騙してたなんて思ってないよ。それに、そんなことこの町の外にばれたら君が危険だ。教えてくれて、信じてくれてありがとう。何かあっても僕は君を守るよ。」

優しい笑みを浮かべるイーリスを直視できずに、赤い顔を見られないように俯く。

「ありがとう。その時は信じてるわ。」

ふたりの間に和やかな空気が流れた。


 そして、その後家電や、農作業に関わる機械などを紹介した。


 農作業については、なるほど、みんな僕より作業が早いわけだ、とははっと笑った。

家電でイーリスが唯一欲しがったのは、電子レンジだった。なんでも、ハンナの作ったアップルパイを出来たてみたいにあっためて家でも食べられることに魅力を感じたのだとか。

それ聞いて、ハンナはまた赤くなる。

自分の作ったものをそんなに気に入ってくれるなんて、女の子なら嬉しくないはずないのだ。


 そんなわけで、イーリスは町の永住権を手に入れた。

ついでに、便利家電もいくつか手に入れた。



ありがとうございました☆

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