12人の魔女 vol.4
前回の続きです。今回の主役は、2月の君。正義感の強い魔女のお話、ご覧ください( ^ω^ )
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その女子は人が通う学校と言うものに興味があった。生をうけて96年になる。魔法院生として通っていた学舎とは異なる場。見た目、まだ14、5歳の容姿と自負しているし、実際そう見える。女子の名は二月の君。魔女である。髪は銀色でおさげ。大きな四角い銀色フレームの眼鏡をかけ、鼻はちょっと上向きだ。小顔で身長は154センチと小さい。魔女での姿は、銀色のとんがり帽子、銀色ローブ。非常に几帳面な性格である彼女。学校を体験するにあたり、抜かりない準備をする。まずは、仮の家族作りだ。魔女たるもの、記憶操作はお手のもの。目星をつけたとある一軒家に入り、お世話になりますとひと声かけて、悪く言えば不法侵入。40代の年齢層の家庭が丁度いい対象だった。夫、妻、10歳の娘、この家族に、自分は貴女方の娘ですと仮の記憶を刷り込んでいく。ご丁寧に二月の君は、仮の思い出まで刻み込んだ。自分がお世話になるのだ。陰で多少の経済支援はする。2年間お世話になるつもりなので、少し色をつけ自分の資産40億から貯金に1000万ほど譲渡しておいた。Aランク以上の魔女ともなると、大量の寄付金が入る。因みにSSSランクは余裕で兆を超えている。40億あるのにセコいと思うかも知れないが、人の欲は人格をも変える。苦労せず大金を得るなどあってはならない。これも記憶操作で、労働対価の自己収入と思い込ませている。物怖じしない二月の君は、あっという間に家庭に馴染んだ。家族の名前は父が座間俊夫、母が江美、妹が華澄、そして自分が座間奈保だ。おっちょこちょいな両親、甘えん坊な妹から頼られる、しっかりものの長女として、信頼されている。後は通う中学校。学校の生徒を見て制服は把握している。制服取扱店を調べ、店員に精神操作の魔法をかけ、学生証なしでも制服を購入した。アニメなら魔法のステッキを使って、へんし~んってするのだろうが、そんな魔法は、ない。二月の君は、日本のアニメが特に好きだ。なので、魔法の変身シーンも把握している。こんなの無理、無理、アニメですねぇ、とパソコンで動画を見ていてぼやく。あんな一瞬で物質変換などできるわけがない。デザインにしろ、構成する衣類、装飾などそれぞれ全く異なる物を変換し、構築するなど、夢のまた夢である。二月の君は、特に物質変換に特化した魔法を使うので、余計に思うのだ。二月の君が例えば道ばたの石を変換する場合、更に硬化するか、脆くするかである。味は、濃い目、薄め、色は濃く、薄くと。まあ、こんな能力であるが、用途によっては恐ろしい。二月の君がその気なら、スカイツリーなど軟化させ、崩壊することができるのだ。同質的な成分なら、結合なども可能で、これも精神がまともでなかったら、身の毛もよだつことができるだろう。理性が強いので、そんなことはしないだろうがね。ともかくも制服も手に入れた二月の君。次は入学手続きである。中学二年生と言う設定だ。学年で5クラスある中学を選びその内の一クラスの生徒とした。必要な事務処理を記憶操作で済ませ、1年生の空白期間、小学校からの個別調書まで、全て偽装の記憶、記録を整えた。ふうっ、さすがに疲れました・・完璧に事を済ませた、二月の君。明日から、座間奈保として学校生活をスタートさせる。
人の作りし灯りが一つ、また一つ消え行く頃、魔道に身をやつし者の集いあり。その集いをサバトと言う。この世に魔女なんて・・いるんです、ひっそりと。世界中、裏社会・・これでは犯罪になるので裏世界とでもいいましょうか。そこから現世と関わりを持ち彼女達は、生活してるのです。東京にも、餅の論いますとも。世田谷区在住の魔女のサバト、世田谷の人口約94万人に対し、魔女の数は12人。魔女がいない区もあるし、一人のみで、サバトができない区もある。因みに東京都全域では、魔女人口36人。日本全国では88人。そんな中で、世田谷区は、突出していると言えよう。普段、仕事をしている魔女もいる。なのでサバトは、毎夜、22時に始まり、0時に閉会。それが、世田谷区サバトの決まりごと。過半数以上の出席でサバトは成り立つ。強制はしていないが、この世田谷サバト、ほぼ毎日全員が参加している。メンバーは、本名で呼び会うことはしない。リーダーは、一月の君と言う呼称、以降、十二月の君まで、呼称がつく。サバトでは、他愛もない話しから、人生相談、魔術論まで、なんでもありだ。同時に持ち寄りの物で楽しいお茶会も兼ねており、ご自慢の手料理を披露など賑わいを見せている。この世田谷サバト、会合は、リーダーの一月の君亭で行われ、幹事が持ち回りで開催する。幹事はカレンダーの月の君。今、月は十一月なので、十一月の君が幹事役だ。それでは、みなさん!サバトを始めましょう!黒のローブを着衣した、小顔でつり目、十一月の君の軽快な発声でサバトは始まった。
今日は、なんの話にしようかしら
と、純白のローブを身に纏う一月の君。気の優しい白髪のお婆ちゃんといった印象を受ける。巨大な屋久杉を使用したテーブル。そこに魔女達は腰かけおり、ハーブティー、スポンジケーキ、マカロンなどのスィーツも置かれ、香りだけで癒される。
それでしたら・・二月の君が挙手をする。どうぞ、と一月の君。「私、今、中学校に通っておりまして、クラスに編入、いや、学校的には一年生から在籍していることに記憶操作をしてますが、私的には編入ということです。」「あたちと同じらな!学校に行ってるのら!」眉毛が濃く、くりくりした目。身長136センチの短髪少女、十月の君が話に割り込む。十月の君は、あのサバト(12人の魔女vol.3参照)をきっかけに、今ではすっかりおしゃべりになっていた。「あらあらこころちゃん、会話に割り込んではいけませ・・あらまぁ、私ったらまた名前を。」黄色のローブを着衣した、少したれめの九月の君だ。「いいのら!あたちだってお前の名前を言ってやるのら!」顔を膨らまし、十月の君は、牧野、牧野、ま~きの!と連呼する。終わる気配のないそのやり取りに業を煮やし、「そのへんで!」二月の君が目を閉じ大きな声を出した。多少の怒気がこもっている。ご、ごめんなさ~い。ごめんなのら。九月、十月の君共にしゅんと落ち込む。「わかっていただけて幸いです。」にこりと微笑み、では、と二月の君は言葉を繋げた。九月の君は同じAランク、輝だが、十月の君は桁違いのSSランク、極である。さすが二月の君と四月の君を除き、一同感心した。「話を戻しますが、クラスに編入してほどなく、皆が何故か私を頼ってくるようになりまして。それだけならまだしも、委員長が委員長を私にと、委員長以下クラス全員が私を委員長にと推してきましてどうしたものかと。」二月の君は理解していないが、クラス全員が委員長に推すのには、それなりの理由がある。かなり陰湿なイジメクラスだった。担任は知っていながら見て見ぬふり。男子の委員長も関わりたくないからと沈黙している。不登校の生徒はクラス33人中、4人おり、皆が金銭をイジメグループから要求されていた。イジメグループは他クラスも含め、男女合わせ8人。その中心人物がいる2年で一番凶悪と言われたクラス。そこに域なり二月の君が編入したわけである。雰囲気に違和感を覚えた二月の君は、直ぐに聞き込みなどクラスを調査。と同時にイジメグループも目障りな二月の君に威圧をかけた。が、二月の君は、引かない、媚びない、省みないだ。魔法を使用せず、正論で論破。殴られても魔女である。自己治癒力は半端ない。魔力が高ければ高いほどだ。二月の君が生半可な脅しでは屈しないとみたイジメグループ。体育館倉庫に呼び出しレイプしようとした。が、二月の君はここで容赦なく魔法を行使。男子生徒の股間から子作りの機能を永遠に封印した。勃起不全であり、精子生産も不能である。勃たせろよ、バカと罵った仲間の女生徒は、ぶちきれた不能生徒に顔面を殴打され昏倒。一気に白けたイジメグループはその場を後にした。その後も活動は続き、不登校生徒に対する二月の君の献身的な対応、イジメグループの弱体化など功績多数。これが委員長に推される理由である。
「なったらいいではないか。」紫色の輝く長髪、切れ長の目、シャープに尖った鼻。男装したら世の女性は一ころという美麗な容姿、茜色のローブ、五月の君が静かに答える。「私も適任だと思うし~」褐色の肌に巨乳、青のローブ、七月の君が頷く。「そ、そそ、そうですよ。適任ですぅ!」深紅のローブで薬草マニア、八月の君が目を輝かせ、ぱんっと手を合わせる。今日のお茶担当は、八月の君だ。寒くなったので、ハーブティーはカモミールを中心に配合している。「私も、貴方が適任だと思います。ねぇ、皆さん。」一月の君が一同を見回す。皆が頷く。「適任だと思いますわ。」終始笑顔、グレーのローブ、十二月の君が代表して答えた。皆さん・・二月の君が感極まる。自分より遥かに魔力の高い魔女の多くが集うサバト。そこで認められるのは、誇りになる。「わかりました!不肖ながらこの二月の君!委員長の任を務めてみせます!」二月の君の瞳に炎を見るが如くである。「あらあら、二月の君、熱いですわねぇ。」三月の君が、マロンケーキを焼き上げて運んできた。テーブルの中心に直径100センチの大皿、その上に置かれた巨大なマロンケーキ。ふわふわスポンジケーキは栗を混ぜ焼き上げている。その上に高知でしか採れない幻の栗、金十郎をふんだんに使用した大量のマロンクリーム。さらにその上に金十郎の焼き栗を乗せ、金粉を振りかけ出来上がりだ。たちまち室内に濃厚な香りが漂い、食欲をそそる。さぁ、切り分けますよ!三月の君が、さくっ、さくっ、12等分に切れ目を入れていく。一人あたり長さ30センチ、切り分けても、かなり大きいマロンケーキ。それでも一人だけ厚さの大きいサイズが。顔に木彫りの道化仮面をつけ、桃色のローブ、四月の君の分である。三月の君が自分の分を減らしての増量だ。食いしん坊で、すぐ人の分まで食べようとする。さぁ、皆さん、ありがたくいただきましょう。一月の君が手を合わせる。出来立てが一番美味いものだ。早速、四月の君が手づかみでケーキをむさぼる。「もう、四月の君!ちゃんとフォークを使って!」二月の君がたしなめた。四月の君、至福の時間。サバトに参加をしているのは、大半がこのためである。「本当に美味しいですわ。来月のクリスマス、三月の君のお店にケーキを頼んでおりますの。」十二月の君が自慢気に話す。三月の君の表の顔は、超人気パンスィーツ店「満面笑」の店長。クリスマスケーキは2年待ちだ。つまり、普通は頼んでも、年内のクリスマスでは食べられない。「皆さんなら優先的に注文をお受けしますよ、よろしければですが。」すかさず全員が挙手をした。特に四月の君が猛アピールだ。余談だが、四月の君は、開店と同時に1斤700円、一人限定2斤、1000斤完売する食パンを毎日並んで買うほどの猛者である。
「では、二月の君、向学の意を兼ねて、浮きせの学舎の委員長を励んでください。」一月の君が柔和に微笑む。「はい、誠心誠意がんばります!」二月の君の鼻息が荒い。もうやる気満々である。これは最高の委員長が誕生するな、一同が頷いた。
では、本日のサバトは閉会いたします。
一月の君の挨拶で、サバトは閉会。「みなさん、六月の君以外で明日のサバトを欠席される方いらっしゃいますか?」海外で仕事中、クリーム色のローブ、六月の君は欠席だ。身長191センチもあり、容姿端麗、トップモデルであり、女優でもある。十一月の君が手を振る。幹事は毎日閉会後に、次のサバトの確認をするのだ。大丈夫、だ、です、言い方は違えど、皆大丈夫のようだ。では、ごきげんよう。魔女たちは、それぞれの家路に向かい、散会した。
皆を見送ると、一月の君は扉を閉めた。すると不思議なことに、今まであったレンガ造りの古めかしい家は消え、そこには五階建てのビルが立っていた。
「では、学級委員長は、座間奈保さんでよろしいですね?賛同する人は、挙手を。」現委員長が教壇に立ち、クラス中を見回す。大半が挙手をし、イジメグループはそっぽを向いていた。「では、賛成多数で、委員長は、座間奈保さんに決まりました。奈保さん、前に出て挨拶を。」「はい。」二月の君は、最前列の席から教壇に向かう。これが最後列なら、イジメグループの誰かが足をかけ、となるだろうが。二月の君、もとい座間奈保は教壇に立ち、一呼吸置いた。「みんな、私を委員長に選んでくれてありがとうございます。みんなの期待が何なのか分かりませんし、私がそれに答え、叶えるかどうかは分かりません。私は、私の考えで委員長をやりますので。」クラス中がざわめき出す。イジメグループのことを排除したり、面倒なことを対応する感じを話すだろうと思っていたからだ。「私が目指すのはクラス一丸!誰一人欠ける、欠けさせるつもりはありません。クラスメイトに酷いことをするあなた方!」二月の君が露骨に視線を送る。ちっ、と数人が舌打ちをした。「あなた方もクラスの一員です。淘汰する気はないんでこれからクラスにとことん馴染んでもらいます。覚悟して!」これにはイジメグループが驚いた。まさか自分らのことを仲間にするなどと。普通は邪魔者扱いするだろう。それに未遂とは言え、あれだけのことをしたのを忘れたなんて言わせない。「クラスのみんな、あなた方もそのつもりでいてくださいよ!私が委員長になったんですから!」二月の君、座間奈保はニコリ、爽やかに微笑んだ。
これより後、紆余曲折を経てイジメグループも改心し、不登校生徒もクラスに戻ってきた。学校で目覚ましい活躍を魅せる二月の君。その先に待つのは、生徒会長だ。