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忘れられないキミヘ  作者: そらふく
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第六話 アツシの決意

 その次の日から、俺は来週の水曜日が待ち遠しく、正直料理についても気持ちそぞろで失敗回数が増え、その分「コウモリ」の登場回数が増えた。

待ちに待った水曜日。王宮に届けるため荷台に豚の丸焼きをいっぱいに詰め込んで

「いってきまーーーす!」

と、元気よく出かけた。

「アツシはいったいどげんしたと?」

俺を見送りながら二人は訝し気に顔を見合わせた。

行きはいつものように孫さん家に寄った。

「よっ!ぴーちゃん!」

と声をかけた。ぴーちゃんも「コッコッコ」とこちらに寄ってきた。俺は今週もぴーちゃんの元気な姿を見れたことにホッとし、万事が絶好調なような気がした。

「じゃな!ぴーちゃん!また来るからな!」

と、羽毛をなでると立ち上がり、今日はいつもより早めに王宮に向かうことにした。



王宮に着くと、門番の人に用件を伝えた。既にだいぶ顔見知りにもなっていたし顔パス状態で裏庭に入れてもらえた。程無くして侍従の人が裏庭に現れた。俺はいつものように豚の丸焼きを渡し侍従から代金を受け取った。門番はたいてい同じ人だったけれど、侍従は何人もいるらしくいつも見る度に顔が違っていた。そして、男性でも女性でも高級そうな身なりをしていた。


「彼女も、ひょっとして王宮の侍女なのかなぁ。」

川べりで彼女を待ちながら、俺はそんなことを考えていた。どう考えても街の人達とは違う身なり。溢れ出るオーラ。ひょっとしたら、それこそ侍女の中でも位の高い人かもしれないと思った。

「アツシ!」

そんな時、彼女が遠くから笑顔で手を振ってこちらに駆け寄って来るのが見えた。今日は薄黄色い中国衣装を着ているようだ。

(いや、マジかわいい。マジ天使。)

彼女が俺の所に来るまでの間に、心臓の鼓動は最高潮に達していた。でも初対面の時の焦りまくりのキャラを払拭したくて、俺は無理に背伸びして髪をかきあげ余裕の笑顔を作りながら言った。

「や、やあ。久しぶり。」

そんな俺を見るなり、彼女は目が点になったかと思うとプー!と吹き出して言った。

「なにそれ!別についこの前会ったばかりだから久しぶりでもないし、そもそもなんか印象違う!」


…どうやらスベッたらしい。



そして、俺たちは川べりに並んで座った。前回緊張でほとんどマトモに喋れなかった俺は、今回は自分のことを知ってもらおうと前日から意気込んでいた。俺はチンさん一家と暮らし始めてからの事を喋った。クラスの女子ともこんなに長く話したことはなかったけれど、彼女が興味津々!といった感じで相槌を打ちながら聞いてくれるので、いよいよますます気分を良くした俺は、ふと気が付いた時には、これじゃあまるで一人ワンマンショーじゃんといった感じになってしまった。

「ご!ごめん!俺つい自分のことばかり話しちゃって!」

これがクラスの女子なら裏で「牧下アツシ! コミュ障疑惑!」とかなんとかグループラインで一斉に拡散されてたことだろう。

でも、彼女は

「ううん!全然!すごいおもしろかった!私もぴーちゃんに会ってみたいなあ!」

と言った。

(可愛い上に性格もいいなんてリアル天使かよ)

俺は内心クーーーー!と幸福をかみしめた。

「でもさぁ」

彼女の瞳から笑顔が消え、少し真剣な眼差しになり俺をまっすぐ見つめ、再度笑顔を作り直したかと思うと、

「今度は誰かの役に立てたらいいね!」

と、彼女は続けた。

正直、ドキンとした。

確かに俺は、ここに来てから誰かに助けてもらうことばかりだった。衣食住を始め生活全般をチンさん一家に頼り、ぴーちゃんのことにしたって、結局ぴーちゃんの命を救ったのは俺じゃあなかった。っていうか、現代の世界でも大して誰かの役に立つことをした覚えもない。

「そ、そういえばホントそうだよな…。」

ここ最近に至っては脳内に花が咲いたのじゃなかろうかと思われる程浮ついていたし、今朝はぴーちゃんに対しても心ここにあらずの態度で接してしまった。

「俺って、なんか情けないかも…。今まであんまり人の役に立つってこと、考えたことがなかったかも…。」

急にトーンダウンした俺を見て、

「でも、アツシは少なくとも私の役に立ったよ!実はね、初めてアツシに会った時、私ちょっと落ち込むことがあってね、川べりに散歩に行ったの。そしたらアツシの歌が聴こえてきて私の今の気持ちにぴったりだなって。感動して涙がでそうになったんだよ。」

「そ、そんなとってつけたようにフォローされてもぉ。」

「ううん。ホントだよ?」

そう言って彼女は俺の膝に手を乗せた。

「人の役に立つって、きっとそういう小さなことからなんだよ。」

と見つめた。俺はもうドギマギしていてもたってもいられなくなり、

「つっ次は、君の話を、きっ聞かせてよっ!」

と焦って言った。

彼女はクスっといたずらっぽく笑い

「いいよ!次会えた時に、ちゃんとミイヒって名前で呼べたらねー!」

と言って立ち上がった。


彼女が去って、時間にして30分位だろうか。俺は、川べりに寝そべりながら彼女との余韻にひたりつつ、今までのこと、これからのことを冷静に考えてみた。

「人の役に立つ」

俺が役に立てることといったら料理くらいしかないのに、最近では脳内花畑で失敗続きだった。そういえばレイさんの誕生日に作って大喜びされ、これからも作る約束をした餃子とプリンは結構調理時間もかかるし、誕生日以来一度も作っていなかったことに気づいた。

「小さなことから始める」

俺は、チンさん夫婦に対してもそうだけど、ぴーちゃんを引き取ってくれた孫さんに対しても、言葉で感謝を伝えだけれど特に何も恩返しのようなことはしていなかった。

 俺はムクリと起き上がり、心に決めた。


「よし!明日はウチの卵でチンさんと孫さんにプリンを作るぞ。」



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