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忘れられないキミヘ  作者: そらふく
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第一話 清の国へタイムスリップ?

初投稿です。よろしくお願いします

「な・・・なんでこんなことになってんの!?」


呆然と立ち尽くすパジャマ姿の俺。外にいるのに足元は裸足で履物もはいてない。

それよりも、何よりも、目の前に広がる光景はいままで生きてきた中で見たこともない異質な光景。

 そもそも、地面。アスファルトではない。砂地に凸凹でいかにも歩きにくそう。チャリンコもない、車もない。行き交うのは、人と牛と馬。

「牛って…。」

右にも左にも露店があるんだけど、店先に何故か豚の丸焼きやコウモリらしき鳥がヒモで吊るされている。そして鼻を突く今までかいだことのないような香辛料の香り。

そんな俺は周囲の人々から見ても明らかに悪目立ちしていて、そのうち一人のおばちゃんが声をかけてきた。

「兄ちゃん、兄ちゃん、どげんしたとねー、そんな珍しい着物着て。あんた、どっから来たとねー?」

 店先から俺に声をかけてきたやけに人懐っこい福岡弁のおばちゃんに目をやると、

「???」

俺の頭はさらに混乱。

(いやいや、このおばちゃんこそ、そんな中国民族みたいな衣装着ておかしいでしょ!)

おばちゃん、明らかにピチピチでパツンパツンのチャイナ服。サイズあってないし。スリットからのぞく太もも、セルライトやばいし。横にいる店主のおっさんは半裸に近いし。そして、片手にはコウモリ持ってるし。

どこから突っ込んでいいのかわからないまま、とにかく俺は状況の把握をしなければと思った。


「ええっと、、、すみません!俺、いや僕、ちょっと寝ぼけてるかもしれないんですけど、とりあえずここどこですか?」

尋常じゃない汗を拭いながら聞くと、その答えでさらに俺の頭は混乱することになる。

「どこってあんた、〇〇だがねー!ここは王様のお膝元で天下の台所!〇〇市場でしょうがね!」

ん??そこだけ聞き取れない単語。ていうか、聞いたことのない単語。

俺は、さらに混乱しつつも聞いてみた。(だって、道路に牛や馬がいるし!)

「…で、すいません。さらに変なこと聞くようですけど今は西暦何年でしょうか?」

チャイナ服のおばちゃんと半裸のおっさん店主は目を見合わせながら俺に聞いてきた。

「…西暦ってなんぞね?」


(うそだろーーーー!!!そこは2020年っていってよー!令和2年っていってよー!)

あ…、もうダメ。。。

足元から崩れ落ちた俺。状況全く飲み込めないけど、少なくとも俺はパジャマだし、ここは日本でもおそらくなければ、2020年でもなく、辺りの状況からしてとんでもない昔にタイムスリップしてしまっていることは間違いなさそうだ。それとも、夢か!?夢の設定でそういう場所に行ってるだけなのか!?っていうか、そうであってほしい。そういうオチであってほしい。顔面蒼白、俺が芸人なら「空前絶後のーー!!」と叫びたいところだ。


「ちょっとちょっと!兄ちゃん大丈夫かね!?そんな汗びっしょりかいて!ほれ!これ飲みな!」

半裸のおっさんが差し出してくれた乳白色の飲み物を何がなんだかわからないまま放心状態の俺はそれを受け取り一気に飲み干してみた。

「ブーーーーッッッ!!ちょっと!こっこれ、酒じゃないですか!俺まだ16歳ですよ!?」

甘い!いや辛い!のか!?何がなんだかわからない味!でも喉にねっとりからみつくようなこの刺激は、明らかに牛乳でもなく、乳酸飲料でもなく、もちろん飲むヨーグルトなんてかわいらしい代物でもなく、まごうことなき酒だった。

ガハハ!と、おっさんが豪快に笑うと

「何言っとるとー!ここらじゃ年の頃12には元服しとるけーの!」

俺は、後ろにひっくり返りながらぼんやりと

(元服って、サムライの話じゃなかったっけ…)

と、消えゆく意識の中でうすらぼんやり考えていた。




目が覚めると、そこはいつもの見慣れたゲームPC部屋に改良しつつある俺の部屋だった。

と、いいたいところだが、煎餅布団の上だった。変な形の枕がかえって寝苦しい。

 窓の外には夕焼けが広がり、カラスが時の時刻をつげていた。

「プッ、そこはコウモリじゃないんかい。」

一人突っ込みをしながら妙に冷静に俺は事の分析を始めていた。

(そもそも、ここは現代の日本じゃない、そしてこれは夢ではない。ベタだけどつねったら痛いし。さっきの酒の味は確かに感じたし今もちょっとフワフワするし。俺の持ち物といったら着ているパジャマだけ。スマホもなければ現金もない。)

「っていうか、そもそもスマホも現金も使えないかぁ。」

ぼそっとつぶやき、またまた、一人突っ込み。そうでもしなければやってられない。一気に精神崩壊してノイローゼになりそうだった。

俺は、布団に大の字にごろんと寝ころび直してから今日一日のあった出来事を思い出してみた。何か現状に関連するきっかけ、糸口が見つけ出せないかと思ったからだ。

「えーっと、朝起きて普通に弁当作って学校行って授業受けて下校した…よなあ。何か変わったこと、あったっけかなあ。」


俺の名前は、牧下敦。都立高校に通う2年男子だ。趣味は、ゲームと料理。だから、毎日弁当もかかさず作るし、クラスメートからは時々「アツ子♡」なんて呼ばれてからかわれたりもする。運動はどちらかと言わなくても苦手。体育祭とか興味ないし、暑苦しい青春とかちょっと苦手。クーラーをこよなく愛しているし、休日はできれば一歩も家から出たくない。もちろん、バイトなんてしてないし、地味に学校と家との往復をしているだけだ。クラスの女子からもてんでモテない。時々、大量にから揚げ作った時に男女問わず俺のタッパー目がけてやってきては「サンキュー!アツ子♡」なんて女子から肩を叩かれているから、そもそも俺の事男子だと思われていないのだろう。最近、変わったことといえば、


「最近、変わったこと。…何かあったっけ?」

低すぎる天井を見つめながらまたしても独り言をつぶやいてみた。

 そもそも、俺の人生にはこれといったエピソードやイベントがない。毎日割とおんなじことの繰り返し。可もなく不可もなくだけどそれでもまあこんなもんでいいかと現状満足している。

「ま、そりゃ、充実しているとか、人生かけて何かに打ち込んでる、とかってのもないけどなぁ。」

身体の向きを横向きに変えて再度つぶやく。窓の外は夕焼けがいよいよ深い赤色に変わっていた。

「あ、でも…。」

ふと、俺はつぶやいた。そういえば、来週までに文系か理系かコースを決めるように言われてて、俺は消去法で文系コースにしたんだっけ。理由は簡単。文系の方がガツガツ受験勉強せずなんとなくゆるーく大学に行けそうだったし、理系コースは選択科目で地理を選ぶけど文系だと歴史選択でいいからそれも理由の一つだった。

「昔っから、どうも地理は苦手なんだよなあ。」

かといって、歴史がずばぬけて得意なわけでもないけど。

なんせ消去法の選択にすぎなかった。

「それで、今日歴史のオリエンテーションがあったんだよなあ。」

普段のクラスメートと違う教室の顔ぶれ。ちょっと緊張するようなワクワクするような新しい環境。

文系コース主任教師である歴史担当の先生が簡単な自己紹介と、これから勉強する歴史は俺たちが中学で習っていた内容をより掘り下げた物になるから興味を持って学ぶようにって熱弁をふるっていた。

「先生が教師になったのも、歴史の魅力にハマったからだ!特に好きなのは、清の王朝時代!清はいいぞお!昼メロドラマも真っ青のドロッドロで、ぐちょっぐちょの愛憎劇があるからなあ!いまでいうところの超人気スーパーイケメン王様が実はゲス不倫をしていたり、王様暗殺されたけど、その暗殺が実は自殺説がささやかれてたり!まあとにかく面白いんだよ!君たちも、単なる受験科目として向き合うんじゃなくて、何か一つでも興味を持って深掘りして欲しいと思う!」

先生の、やや暑苦しい熱弁を聞きながら、歴史なんて単なる年号の語呂合わせの暗記科目くらいにしか思ってなかった俺は、それが頭の片隅に残っていたのか、なんとなくだけど帰りの本屋で「誰でもわかる!イラスト図解つき中国王朝!」と書かれた本を試しに購入して帰ったんだった。

「そうそう、本買った買った、でもそんなまともに読んでないぞ。どっちかというと途中のページの雑学コーナーの中国の食文化、コウモリの料理法とかの方に目がいってたし…。」

その時、俺の中でカチッと点と点が線で結ばれる音が聞こえた。

(コ、コウモリ!!??俺今、コウモリって言った!?いや、思った!?ついさっきまで、俺の目の前に、コウモリめっちゃ吊るされてたんですけど!!!)

そうだ、確かについさっきまで店先にコウモリ吊るされてたし半裸のおっさんが手にぶら下げていたのもコウモリだった。そして、わけのわからない香辛料の匂い。

「えぇっ!!??てことは、清!?清なのか!?ってか、清って何時代!?日本でいうところの何時代!?俺、ほとんどコウモリページしか頭に残ってないんですけどぉ!」

さっきまで割と冷静に状況分析していた俺だが、点と点がいきなり線で結びついた事で、みるみる毛穴から汗が吹き出し、何だかわからないけど、手をぶるぶるさせたり、足をバタバタさせたり、再度両方の頬を力いっぱいつねったりした。

「イタタタタ!だから夢じゃないってことか!いやいや、俺歴史オタクじゃないですから!別に清の時代にタイムスリップしたいとか思ってませんから!コウモリ食べてみたいとか思ってませんからーーーー!!!」

たまらず絶叫したところで、チャイナ服のおばさんが襖をあけた。

「あら!兄ちゃん!目が覚めたとね!よかったわあ!こげんか酒で目を回されてびっくりしたがね!」

おばさんを見上げる。年齢は30代半ばといったところだろか。眼には温もりと優しさをたたえていて、一目でなんとなくだけど「この人は良い人だ。」と思わせる雰囲気がある。

「兄ちゃん、名前なんていうと?私は、チン・レイっていうとよ。」

その氏名のもつ音のリズムというか、日本にはない感じというかで俺はやっぱり(ここは、中国なんだ。)と思った。

「ぼ、僕は牧下敦といいます。16歳です。店先で倒れたりして大変ご迷惑をおかけしました。」

布団から起き上がり頭を下げた。

「マキシタアツシ?ここらじゃ聞かん変わった名前やねえ。」

「あ、いえ、はい。名前だけでいうと、アツシです。」

俺は再度頭を下げた。レイさんからしたら、俺は初めて見る日本人。初めて聞く日本の名前ってとこだろう。

(それなのに、何故か言葉は通じるんだよなあ。レイさん福岡弁はいってるし。)

俺は、どこからがリアルでどこからがリアルじゃないのかわかりかねていた。窓の外は月が昇り夜の風情となっていた。

「アツシ!なんだったら、夕飯食べていかんと?うちの人が勝手に酒飲ませて迷惑かけてしもたし!急ぎの用事がないんだったらだけど!」

レイさんが嬉しい提案をしてくれたので、俺はありがたくごちそうにあずかることとした。


その日の夕食は、ごはんと野菜炒め、売れ残りのコウモリだった。俺は、コウモリにはどうしても口をつけれず、他の料理をいただきながら自分の話をした。


「タイムスリップ?・・・・・って、タイムスリップって何?」

夕食を囲みながら、俺は、俺の事情をレイさんと、ご主人のチン・シーさんに包み隠さず話してみた。自分は、西暦2020年の日本という国の高校生であること、何が何だかわからないけど、下校時に歴史の本を買って、寝る前に数ページ読んで寝てしまったところ、目が覚めたら見たこともない世界に来てしまっていたこと。お金もないし、着ているパジャマだけが自分の持ち物であること。どうやったら現代に帰れるのかわからないし、夢の続きにいるのかもしれないし、でもタイムスリップしたとして、帰れるまでの間どうやってここで生きていけばいいのか途方に暮れていることなど話してみた。

初めは、そんなことなど話さずに、どうにかごまかした方がいいのかなとも思ったりもしたが、話していくうちに明らかにつじつまが合わなくなるだろうし、頭がおかしい奴と思われようが、一層の事全て事情を話してどうにか生きる助けになってくれる人を得たいと思ったからだ。

レイさんとシーさんは、「へー!」とか「ほー!」とか時折素っ頓狂な声をあげながら俺の話を聞いてくれた。俺は、おそるおそる二人の顔を見ながら

「俺の今の話を信じてくれますか?」

と聞いてみた。二人は顔を見合わせながら

「もちろんだがねー!」

と言ってくれた。(え、うそ、マジ?)こっちの方が拍子抜けだ。大昔の人はとにかく人がいいのか、この夫婦が特別なのか。これが現代だったら、間違いなく頭のおかしい奴と思われて警察に通報されていたことだろう。

「そ、そしたら、こんなこと、厚かましいお願いで言いにくいんですけど。」

俺は間髪入れずに続けた。

「お、俺が元の世界に戻れるまでここに置いて働かせてくれませんか?」

レイさんは、シーさんをちらりと見ながら優しく言った。

「私はかまわないよ。ちょうど店も忙しくて、家の事や店の事を手伝ってくれる人を雇わないといけないと思ってたところだし。あんたはどうだい?」

と、シーさんに投げかけた。シーさんは、ガハハと笑いながら傍にある乳白色の酒をあおりながら言った。

「レイがいいなら、いいも嫌もなかろーが。その代わりアツシ、住み込みで働いてもらうからにはこき使うからなぁ!根を上げるなよぉ!」

夢のような二人の快諾に、俺は飛び上がりたくなるような嬉しさを感じながら言った。

「あっ、ありがとうございますっ!えっと今までバイト経験もありませんが精いっぱい働かせてもらいます!」

手を差し出し、レイさんシーさんとガッチリ握手したところで、シーさんが言った。

「で、バイトって…何?」


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