水たまりの向こうには何が見える?
★前回のおもハレ!★
なんとおもらしなしの第4話!ただただお着替えしただけの第4話!とりあえず旅立ち感出しといた第4話!
家を発った俺たちは、学校へ向かう。
桜のトンネル内にある急な坂を降りて行く。
降りてみて改めて思うが、この坂急過ぎない?なんでおもらし荘は都合よく小高い丘の上にあるんだよ。誰の仕業だ。
「そういえばお前、学校行ったことあんの?」
これからの道を共にするものとしてやはりこの質問は欠かせない。
「当たり前じゃない、受験の時に行ったわよ。アンタも行ったでしょ?」
「いやまあそれはそうなんだけど、ここから言ったことは?」
受験の時に行ったなら俺も同じだ。まったく覚えてないけど。
「そんなのないわよ。だってあたしもこの前来たんだから。」
うん、それも俺と同じだ。
...ん?
「道は、わかる?」
一応聞いておく。念には念をだ。
「わからないわよ。あんたは知ってるんでしょ?」
俺はおもらし荘まで50m7秒台で走った。
「そういうことはもっと先に言いなさいよ。」
杏奈の一言を聞いた俺は、おもらし荘まで戻ってゆかりさんに地図を描いてもらった。
運動会でスターに輝けるほどの好タイムで戻ってきた俺を見た杏奈はあきれたような表情をしていた。
「いや...はぁっ...っあ゛ぁっ感謝くらいは...ぁ゛っしてくれ...よぉ゛っ...はぁ...」
キツすぎて会話が困難なのは見てわかって頂きたい。
「あっ、そうね、ありがと。」
「もっどぉっ...感謝゛ぉぉ...っじっ...て...」
バタッ。
俺の脳との通信はここで途絶えていた。
「んっ...」
ここは...あれっ?
俺は何を...
全力疾走の果てに金メダルを取って記者会見をしていたような...
頭に柔らかい感触を感じているがこれは一体なんなのか。
何か分からないが俺の頭には何かを考える余裕もない。
時折頭がグラグラ揺れているような。これは...なんでもいいか...
なんだかポカポカ暖かい気がする。春の陽気なのかなぁ。オリンピックは夏なんだけどなぁ。春の大会に出てタイム2秒台だっけ...夜飯より昼飯だなぁ...
なんだか視界が明るくなってきた。んっ?俺は陸上選手だったっけ?そんなはずはない。あれっ?俺いま学校に行ってる途中じゃなかったっけ?あれっ?あれあれあれ???
「はっ!!」
俺はやっと目を覚ました。目の前に広がるのは小さな公園だった。ずっと感じていたこの柔らかい感触は、肌色だ。人肌。しかもどこかいい匂いがする。人肌...誰の???
「ぐずっ...うぅ...」
泣いている声の方向に顔を向けると、杏奈の顔があった。その人肌が杏奈の太ももだったことがようやく明らかになったのだ。
ただ、このまま柔らかな感触のお世話になり続けるわけにもいかないし、泣いている理由も聞いてあげなきゃいけない流れなので、極上のクッションにサヨナラを告げて俺は起き上がることに成功したんだ。
「杏奈、あのー...なんで泣いてるの?」
当たり障りのない感じでとりあえず聞いてみた。
「うぁぁ...夕梨のバカっ...ぐすっ...」
俺は苦笑いしてベンチに手を着いた。この瞬間、俺の中のホームズが目を覚ました。そう、俺が手を着いたこの木製のベンチは、少し湿っているような気がした。なぜ?だって今日は晴れだし、昨日だって桜の舞い散る最高の春の日だったじゃないか。つまり、この湿りは単なる自然現象ではない。そうか、これは...
俺は視線を落とし、ベンチの木の間から地面を目撃した。
そこには、とても小さくて、でも、大きな大きな海があったんだ。
杏奈は"おもらし"をした。
とりあえず俺は、杏奈の背中をさすった。
「だって、夕梨が全然起きないから...」
落ち着いてきた杏奈は事の経緯を説明してくれた。
俺が杏奈の太ももにお世話されている間、杏奈は不覚にも尿意を感じた。しかし気を失った俺をどかす訳にもいかず、ひたすら耐えていたがそれも限界に達したという。
「家出る前にトイレ行かなかったの?」
冷静すぎる俺は至極当然の疑問を投げかけた。
「行こうとは思ってたんだけど...忘れちゃっ...て、学校までなら、大丈夫だと...思ったから...」
恥ずかしかったのかだんだん声が小さくなっていった。
「とりあえず家まで戻る?」
時計をみればまだ10時。時間には余裕があった。
「大丈夫、パンツ脱ぐから...」
杏奈は立ち上がり、スカートの中に手を入れる。
「ちょ、ちょっと!?」
俺は慌てる。
「何よ」
「何よって、俺男だぞ!?そんな堂々とパンツ脱がれても!?」
「さっきも一緒に着替えたし、なんの問題もないじゃない」
「うっ...」
俺がおかしいのか?杏奈がおかしいのか?この世界はよくわからない。
苦悶している間に杏奈のスカートの中からパンツが現れて来た。ふくらはぎ辺りまで下ろすと、杏奈は右の靴を脱ぎ、片方の足を抜く。靴を履くと今度は左足の靴を脱ぎ、そのまま足を後ろに曲げ、左手でパンツを掴んで見事に脱いで見せた。
そのしなやかな動きに不覚にも見とれてしまった。
「というか、お前ノーパンで学校行くの?」
「ふふん、安心しなさい。こういう時のためにあたしは換えのパンツ持ち歩いてるんだから!」
得意げな顔をしてなんてことを言っているんだ。やっぱり普段から漏らしてる人は対策も万全なのか。
「あれ、おかしいな」
カバンをゴソゴソする杏奈を関心して見つめていたが、どこか様子がおかしい。
「どうしたの? 」
俺が聞くと、杏奈は引きつった顔で振り返る。
「換えのパンツ、忘れた...」
「なんだってぇぇ!!!!??!!」
俺は大声を上げた。とびきりの、今年度一でかいやつ。今年度は始まったばかりではあるが。
「本当にどうするの、やっぱり一旦帰った方が...」
「だ、大丈夫に決まってるでしょ!パンツなんて履かなくたってバレないわよ!」
去勢としか言えないが、それでも杏奈は頑なに帰らない。
「スカートだって靴下だって濡れてないし大丈夫なの!」
濡れたパンツをカバンにぶち込みながら必死になっている。
「そこまで言うなら、わかった。じゃあ学校行こう。」
俺は杏奈の熱意に押された。立ち上がって伸びをして歩きはじめたその瞬間。
「ちょっとアンタ、もしかしてそのまま行くつもり?」
背中の方から杏奈が言ってくる。
「そのまま行くって、まだなにかあるの?」
後ろを向くと、赤くなった杏奈の顔が見えた。
「あ、アンタもパンツ脱ぎなさいよ。」
「...は?」
全く意味がわからない。日本語なのも分かるし辞書的な意味だってわかるのに、なぜか言っている意味がわからない。これはさっき倒れた後遺症なのだろうか。
「だから、パンツ脱いで」
「...え?」
俺はそのままの首の角度で固まった。
「あ、アタシだけパンツ履いてないなんてズルいじゃない!だからアンタも脱ぐの!!!」
そう叫ぶと、後ろから俺のスカートを上げてパンツに手をかけ、一瞬にして地の底まで引き下げた。
「なっ!?」
「ほら、足上げて。」
なにも思考できなくなった俺は言われるがままに動いた。
そしてみるみるうちに俺の最終防衛ラインは内側から切り崩された。
「アンタのパンツはアタシが没収したから。というかもともとアタシのなんだから!」
そう言って俺のも杏奈のカバンにぶち込まれた。
慣れないスカートでスースーしていた俺の股間にあった布が消滅し、もはや大気とひとつになっているのかもしれない。
未知の感覚に襲われている俺は一歩も動くことができず、ただ杏奈を目で追うことしか出来なかった。
杏奈がカバンを持って俺の横まで来る。
「これで、アタシたちおそろいなんだから!」
そう言って俺に笑いかけたその笑顔は、川沿いに咲いているどんな桜よりも輝いてみえた。
「さ、行くわよ!」
俺の左手をグイグイ引っ張って歩いていく。
「わかったわかったって」
女子校に行くとか言われて絶望しかなかった新生活だけど、ちょっと楽しみかも。