はじまりの朝
★前回のおもハレ!★
やっと平穏が訪れたおもらし荘。これでやっと静かに寝られるってやつだぜ!さて、今日から俺の平穏な一日が始まる...!!
俺には姉がいる。歳はそこそこ離れていた。
俺は姉のことが大好きだった。
でも、彼女は家を出ていった。別に深い理由なんてない。単純に海外の大学へ行ったのだ。
「......くん....き...」
毎朝起こしてくれていた気がする
「ゆ...りく...おき...」
今日も起こしに来てくれたのかな
「夕梨くん、おきて」
「んぅっ...」
目を開けると、新しい光の粒子が知覚された。
「おっ起きた、おはよう。」
そう言ってにっこり笑った女性は俺の姉...ではなかった。
「んぅ...?おはよう...ございます...」
そうだ、この人はゆかりさんだ。おもらし荘だ。
「早く着替えて降りてきてね、杏菜ちゃん待ってるんだから。」
待ってる...?なんかあったっけ...
わかんない。
とりあえず着替えて顔を洗っていた頃に記憶が戻ってきた。
俺はこのおもらし荘に昨日からいる者だ。それだけだ。
「おはようございまーす」
広いリビングへ行くと全員揃っていた。
「夕梨くんおはよう」
まるで指定席のように空けられている杏奈の隣へと座る。
「あんた遅かったわね、寝起き悪いタイプ?」
時計は7:30を指している。テーブルを見てみれば、もう既に朝食を食べ終えているようだった。
「あっ、そろそろ行かなきゃ!」
前で急に立ち上がった由貴さん、服装は昨日見た制服だ。
服は一晩で乾いたのだろうか。
「いってきまーす!」
非常に理想的な朝の学生といった具合に出かけて行った。
確かあの人は2年生だった。春休み中だろうが、きっと部活に入っているのだろうか。今度聞いてみよう。
「ほら、あんたぼーっとしてないでさっさと食べなさいよ。」
なんか急かされてしまった。
というか、どうしてこいつが急かしてくるのだろうか。
「今日なんかあるんだっけ?」
杏菜は軽くため息をついた。
「忘れたの?おつかいに行くの。ゆかりさんに昨日頼まれたじゃない。」
記憶の奥底から必死に合致する断片を探した。
おつかい...ゆかりさん...?なんだそれは。
うっ、頭が...!
「あっ、そうだった!」
なんとか記憶の断片を探し当てることに成功した。
そう、今日はおつかいなのだ!
初めてのおつかいである。
なら頼んだ張本人は一体...?
「ああ夕梨くんおはよう」
ナイスタイミングで部屋に入ってきたゆかりさん。なんか朝から忙しそうだ。
「あのゆかりさん、おつかいなんですけど。」
「あっ、そうよね!」
まるで今気づいたかのような表情だ、いや、まさか今まで忘れていたのか...!?
「ゆかりさん、忘れてたわけじゃないわよね...?」
ナイスツッコミだぞ杏菜。俺も同じこと思ったぞ。
「そっ、そんなことないわよ?」
視線が泳ぎまくってますけどー。
「えー、コホン。今日は二人に行ってもらいたい所があります。」
人間話の流れ変えたい時ってほんとに咳払いするんだなぁ。
「それで、どこなのよ?」
「そう、今日行ってもらう所は、『学校』です!」
「「なっ、なんだってー!?」」
......
「いや、そんなドヤ顔しなくたって。」
ゆかりさんは、言ってやったぜの顔をしたまま止まっている。
「別に驚くことなんてないわよ。」
「で、でも二人声を揃えて...」
「あれは、雰囲気というかなんというか。思いやり?」
「ガーン...」
めっちゃ落ち込んでるじゃん。
というか、意外とゆかりさんかわいいというか、こういうタイプの人なのか。
「というか、なんで学校なんて行くのよ、まだあたしたち入学もしてないのに。」
同感である。前もって行く必要なんて普通ないはず。
「うぅ...ひどいよぉ...」
「あのー、ゆかりさーん」
目の前で手を振って意識確認をしておく。
「はっ、ごめんなさい!なんの話、だっけ?」
「学校に行くってやつですよ。」
すごく悲しそうだ。これからは気をつけてあげよう。
「そうね、えぇっと、そうだ!夕梨くん、部屋にあった制服はもう見た?」
「は、はい。女子の制服ですよね。」
「そうそう!それについてなんだけど。」
「あ、わかった!それを学校に返しに行くってことですね?」
なるほど、どうりで。
ここに届いてしまったこの制服を学校にもって行って、本当の俺のものと交換してもらうってことだ。
これで全部納得がいく...
「いいえ、あの制服は夕梨くんのものよ?」
全てが崩れ去った音がした。
「...は?」
終わったのか...?俺の、人生の全ては。
「あんた知らなかったの?あたしたち女子校に行くのよ」
「...は??」
もう何もわからない。
「俺って、女子なんですか?」
「「違う」」
「というか、入試の時に気づかなかったわけ?」
「いや、親がこの学校すごい推してきたし、別に悪くないかなって思って入ったんだけど」
「だから、二人には今日、学校に行って校長先生に会ってきてもらいます。」
「はぁ...」
俺の学校生活は、入学する前に終わるのか。
「いや、あたし関係ないじゃない!?なんで行かなきゃいけないのよ!」
「まぁ、二人の方が楽しいじゃない?」
「なによそれ!」
またあの生活に戻るのか...
「夕梨くん?」
もうなんもしたくないし。
「夕梨くんっ!!!」
「はへぇ?」
「そんなに落ち込まないで、まだわからないんだからね。」
「はいっ...」
ゆかりさんが俺の手を握って励ましてくれる。なんか泣きそう。
「じゃあ、制服に着替えてきて。」
「...えっ?」
「学校に行くには制服着なきゃ行けないから。杏菜ちゃん手伝ってあげてね。」
「「...えっ?」」
そして、俺の部屋に二人。
「じゃ、じゃあ、あたしが着替えるから、一緒に着替えなさい?」
杏奈と向き合った形で部屋の真ん中に立っている。その距離わずか90cm。
「んっ。」
Tシャツの下端を両手でつかみ、一気にめくりあげる。
脱ぐと、白のキャミソール姿になった。やはり杏奈は着痩せするタイプではなく、まだ単純に胸が小さい。
「ほら、ジロジロ見てないでアンタも脱ぎなさいよ。」
そう言われ、慌てて上を脱いだ。上裸の状態だ。
俺の上半身を見た杏奈は、ベッドの上に置いてあった白い布を無言で手渡してきた。どういうことだろう。
広げてみると、襟元にワンポイントついたキャミソールだ。
杏奈は俺に合図を送ってくる。これは"着ろ"と言っている。
いや、いらなくない?
そんな視線を投げかけるも、杏奈の表情は変わらない。
しぶしぶ、首を通して肩紐をかける。胸元はパットが入っていてなんか固い。
不快感を顔に出しながら杏奈をみると、既にズボンのゴムに手をかけていた。
「あっ」と言う間もなく、さらに布が現れた。
俺は顔を右に向ける。
「ちょっと、あたしたちもう一緒にお風呂入ったじゃない、早く脱ぎなさいよ。」
なぜこの人はここまで平然と脱ぐことが出来るのだろうか。
クソっ!!!もうどうにでもなれ!
そう思って俺も半ズボンを一気に下ろす。
俺はトランクス派だ。小学3年生あたりでデビューした。この緩さが最高なんや。
杏奈は俺の下半身をまじまじと見て部屋を出ていった。上はキャミソールに下はパンツとかいうクソだらしない格好ですけど...
すると8秒くらいで帰ってきた。右手には黒い何かを握っていた。
「ほら...」
なんかよくわからないが恥ずかしそうだ。とりあえず受け取ってみる。なんか手触りがいい。広げてみると、ゆるめの逆三角形。これは、あれだ、パンツだ、黒の水玉だ。
「は?」
俺は口が開いた。
「だ、だって、そんなの履いてたらスカート履いた時に見えちゃうじゃない。あたしので我慢してよね。」
これを俺が履くってことなのか。まじか。
「いや、さすがに...」
「なによ!さっさと履きなさいよ!!」
もう杏奈は顔真っ赤だ。
仕方ないので履く、か。ここで?
「ちょっと、後ろ向いてて貰っていいですかね...?」
「そ、そうね」
杏奈はくるりと回った。
その隙に俺は大好きなトランクスを脱ぐ。前に女の子がいる状態でパンツ脱いだ状態とか、あわや性犯罪者よ。さっさと履こう。
黒い逆三角形に足を入れる。かなり締まって窮屈な感じだ。そのまま腰まで上げる。
しゅるるるる。
股間キツすぎ。マイサンに血が溜まったらどうする。
「ど、どうぞ。」
杏奈はこっちを向き直してまた俺の下半身をみる。なんか明らかにモッコリしてて結構恥ずかしい。
杏奈はなんかよくわかんない表情してるし、もういいや。
これからはこのキツキツの布を履いて生きていくことになるのか。
格好は完全に杏奈と鏡合わせの状態になった。ここからいよいよ制服を来ていく...!!!
「あとはもういいでしょ?ワイシャツとスカートね。」
そういって、杏奈は後ろを向いて自分のワイシャツを手に取る。
言われてみればそうだ。ワイシャツなんて袖通してボタン止めるだけだし、もうできる。
意気込んでた自分が恥ずかしい。
俺も横の椅子に掛けてあるワイシャツを手に取る。朝日に照らされた真っ白な布。襟を持って一振りして広げてみる。俺の後ろまで回して、右腕を通す。そして左腕で袖の入口を探す。うまく袖に通し終わった。
ボタンを止める。ワイシャツは思ってたよりも下が長い。なんというか、女子だ。
俺は後ろを振り返り、スカートを手に取る。
ホックを外し、チャックを下ろす。限界まで広がった入口に両足を入れる。
そのまま腰まで上げて、チャックを閉める。
チャックは正面で閉めるのか?うーむ。
俺がもたついていると、杏奈はそれに気づいて俺の背中側に回った。
「チャックは横で止めるのよ」
「ひゃっ」
後ろから俺の腰に手を回し、スカートを掴む。
びっくりして変な声が出る。
「ちょっと我慢して」
この状態のせいで、耳元でささやくような形となった。
杏奈のない胸と硬いパットの感触が背中に刻み込まれる。
しかしさすが女子、手際がとてもいい。流れるようにチャックを閉め、横のホックを止める。
「これで出来たわね」
そう言って俺から離れて前に来る。
「ほら、鏡見てみなさいよ」
俺は鏡の前に立つ。そして、その完成度に俺は動けなくなった。
「俺は、女...?」
「何言ってんの」
鏡を見つめていると、後ろから杏奈がよって来て俺の髪を触った。
「うーん、やっぱり髪型がちょっと違うわね。今度ゆかりさんにお願いしておくわ。早く下に降りるわよ。」
「そうだったな。」
鏡を離れ、俺たちを待っているゆかりさんの所へ向かった。
「着替え終わったわよ。」
下で座っていたゆかりさんに報告だ。
「あら、ありがとう。夕梨くんは?」
「ここです...」
恥ずかしくて杏奈の後ろに隠れている。
「なに隠れてんのよ、あんた、結構かわいいじゃない。ほーら!」
杏奈は俺の腕を引っ張って前へ出した。
「まあ!かわいいじゃない!」
「そ、そうですか...?」
自分でもかわいいと思うが、いざ人前に出るとなると緊張する。なんたって人生初の女装だからな。
「これなら学校も通えそうね!」
ゆかりさんは嬉しそうに言う。
「いやいや、まだ学校に許可取ってないんだからわからないわよ。」
「そうだよなぁ...」
俺はその一言でまた落ち込んだ。俺は割とピュアな男なのだ。
「じゃ、さっそく行ってきてもらおうかしら!夕梨くん、いい?」
「あ、はい...」
「アンタが行かないとダメなんだから!ほら行くわよ!」
「ふふ、すっかり杏奈ちゃんもやる気みたいね。」
ゆかりさんはやさしく微笑んだ。
「ちっ、違う!そんなんじゃないんだから!」
靴を履いてドアを開けると、そこは桜が咲き誇る始まりの場所だった。
「「いってきまーす!」」
そういって、この"おもらし荘"を出た。
俺の中学校生活が始まるのは、きっと今日なのかもしれない。