第5話 みんな集まれ お風呂の時間だよ
木製の壁に、浴室へつながるガラス張りの扉。
あまりに狭い脱衣所は古ぼけ、壁に使われる板と板の間に隙間が空いている。
そんな脱衣所にまだ慣れなくて、服を脱ぐときは周囲が気になってしまう。
手早く服を脱いでから、きちんとたたんで脱衣篭に入れる。
辺りを見回してから最後の砦であるブラとショーツを取り外す。小さくてもブラとか必要だからね。
「はぁ……もっと大きくなりたい……」
そんな情けない呟きをしながら浴室へ入る。
お湯が沸かしたてなのか、浴室は湯気で充満していた。
ここは脱衣所みたいな隙間もないから覗かれる心配もない。
「もっと大きい胸をご所望なら、この私めが」
「揉んで大きくして差し上げましょう」
左右から胸を揉まれた。
「ちょっ! 何!? 何なの!? 格代さん!? 助本さん!?」
右からは格代さん、左からは助本さんが私を挟んで胸を揉んでいた。
これはもうセクハラの域を超えているのでは?
「どうして2人がここに!?」
「今までは忠誠心が足りませんでした」
「今まで以上に桜河様に尽くさなくてはと思いまして!」
なんか、2人とも鼻から血が垂れているんだけど、大丈夫なのかな。
それより、胸を揉む行為が尽くされているというの?
「もういいから、出ていってください! お風呂くらい1人で入れますから!」
そう言うと、2人が泣き崩れた。
涙と鼻血を流しながらこちらを見上げてくる。正直、汚い。
「桜河様1人では寂しいのではないかと心配を……」
「お背中をお流ししようと思ってきたのですけど……」
さっきからずっと胸を揉むのを止めてないし、本当にそう思っているのか疑わしいけど……。
悪気はないと思うから。
「じゃあ、3人一緒に入ろっか」
「「桜河様!」」
傍から見れば2人は美少女。
格代さんは高身長にスレンダー、健康的な美しさ。
助本さんは身長は高くないものの、流れるような綺麗な金髪に出ることろは出ているグラマラス美人。
奇行さえなければいい人なんだけど……。
2人は声を合わせて湯船に飛び込む。
「さぁ! 一緒に入りましょう!」
「どうでしょう! 飛び込んでもいいのですよ!」
「……」
湯船は広くなく、1人で入っても狭く感じるほどなのに……。
もうお湯が入る隙間がないくらいぴっちりと2人が詰まっている。
肉と肉がぶつかり合って、なんか気持ちが悪い。
とても美少女が全裸で入浴しているとは思えない地獄絵図。
どうしたらこんなことになるの?
「おい、お前の無駄な腹の肉が滅茶苦茶邪魔なんだけど?」
「はぁ? あんたの図体が無駄にデカいのが問題じゃない」
湯船にぎゅうぎゅう詰めの2人が睨み合っている。
このまま放置して浴室を出てもいいのだけど、体くらいは洗いたい。
「2人とも今から引き揚げるから、ちょっと待って」
隙間なく詰まった2人を強引に引っ張り上げる。
すると、湯船に詰まったままの恰好で打ち上げられる。その様は型にはめられたゼリーのようだ。
「ははは、流石は桜河様!」
「そのお力、感服しますわ」
「気持ち悪いから早くどいて」
一瞬、2人が目を大きく開いて動かなくなった。
あれ? 何か悪いこと言ったかな。
「今すぐどきます!」
「生まれてきて済みませんでした!」
一瞬で分離した2人は土下座していた。
もうこういうネタは要らないんだけど……。
「はいはい、格代さんここに座って下さい。背中を流してあげますね」
「桜河様……はい! よろしくお願いします!」
光の速度で私の前に座ると背中を向けてきた。
いつもお世話になっているから、これくらいいいよね。
なんか後ろでタオルを噛んで悔しがってる助本さんが怖い。
「いつもありがとうございます。私のことを心配してくれているんですよね」
格代さんはこちらを振り返って、助本さんはこちらに回り込んできて私の顔を見てくる。
もう鼻血も出ていないようで安心できる。
「2人の方が年上ですし、普通に接してくれると嬉しいです。私を呼ぶときは唯でいいですよ」
2人の動きが止まっている。何故動かないか理由が何となくわかってきた。
今の台詞、滅茶苦茶上から目線だよね! 年上に対してすごい失礼なこと言っちゃってるよ!
「桜河様! いえ、唯様! 一生ついてきます!」
「唯様! 可愛いです! 可愛すぎです!」
2人がまた鼻血を出しながら叫び始めた。
浴室が汚れるから我慢して欲しいけど、今はいいかな。
「唯様! 次は私です! 背中を流してくださいませ!」
「ちょっと! 陽子は黙ってて! 私まだ洗ってもらってない!」
助本さんが格代さんを押し出して私の前に座ってきた。
狭い浴室だからそんなに暴れてほしくない。
「まあまあ、2人とも洗ってあげますから落ち着てください」
「「はーい」」
格代さんも助本さんも仲良くこちらに背中を向けてくる。
タオルで石鹸を擦ってから2人の背中を洗っていく。
格代さんは背中が大きくて頼もしいし、助本さんは肌の木目が細かい。
「羨ましいな。私もこんなに綺麗だったらよかったのに……」
手を上下に動かしながらそんなことを呟いてしまう。
ちんちくりんな私では望むことすらできない。
「そんなことはございません! そのロリっ子ボディはむしろ誇るべきもの」
「唯様は、唯様だからいいのです! いつまでもそのままの君でいて!」
2人がこちらを振り返ってくる。
「って、さりげなくお尻を触ってこないでください!」
ちょっと気を抜くと息をするようにセクハラをしてくる。
ぺしぺしとその手をはたくと、力強く背中を擦ってあげる。
「いたたたた! 唯様、許して! 背中の皮がががが」
「昔、こんな拷問があったようななななな」
これくらいでいいかな。
ちょっと2人の背中が朱を差しているけど、たぶん大丈夫。2人は頑丈だからね。
「はい、これで終わり。綺麗になったよ」
「はい……ありがとうございます……」
「ごめんなさい、調子に乗り過ぎました……」
へたり込む2人を強引に立たせる。
「それじゃ、お風呂に入ろっか」
私がそう言うと、格代さんは翼を広げ、助本さんは狐の耳と尻尾を現した。
「さぁ、唯様! 今度こそ一緒に!」
「私の胸に飛び込んできて!」
また2人は湯船に詰まった。
今度は付属品もついて先ほどより隙間がない。
尻尾や羽が間を埋めて身動きが取れない状態になってしまっている。
「何やってるんですか?」
私はそんな2人を見下ろすしかない。
「いや、興奮しすぎたと言いますか」
「ほら、天丼は基本でしょ?」
もう飽きれて言葉もない。
私は湯船に浸かるのを諦めて、背中を向ける。
そして、扉から脱衣所へと向かった。
「あの……助けてくださいませんか?」
「本当に毛が絡まって動けないんですけど……どうしましょう?」