第47話 みんな集まれ 海坊主の娘だよ
◆海坊主の意地
ジンガイゾーとかいうロボットが壊れた。これ以上戦えないのなら仕方ない、俺がやるしかねぇ!
部屋の窓から外に出て地面に降り立ち。気合を入れて妖力を全開にしてやる。俺の身体は徐々に大きくなり、あっという間に唯の野郎と同じサイズになった。
「唯、お前の相手は俺だッ!」
名乗りを上げると、こちらに気付いたのかこっちに向かってくる。唯は怒りを宿す目でこちらにメンチを切ってくる。こいつはガツンと殴って目を覚まさせる必要がある。この海坊主の娘が相手になってやろうじゃないか。
海坊主の娘。
ただそれだけの理由で、俺はからかわれた。
「女」なのに「坊主」だかららしい。そういうくだらないことに子供は食いついてくる。俺は絶好の的だったというわけだ。そんなのはもちろん気に入らない。
俺をからかう気に入らない奴は拳で言い聞かせた。それでも子供ってのは恐れを知らない。だから何度も言い聞かせてやった。気に食わない奴には喧嘩をふっかけてやった。
そのうち、俺をからかう奴はいなくなった。年齢が上がったということもあったが、純粋に俺が恐くなったのだろう。それからだ、俺は気に食わないことがある度に暴力を振るってきた。昔で言うところのヤンキーのようだった。
気がつけば、俺はひとりになっていた。だけどな、そんな状況を気にすることはなかった。ひとりの方が気楽でいい。自分勝手に生きていける。そう、思っていた。
先手必勝と、拳を振り上げてそのまま繰り出そうとするが、咄嗟にやめて両腕を前で交差させる。唯の速い拳を腕で防御すると、ミシミシと骨が軋む音がした。その威力は抜群で、その痛みに顔をしかめてしまう。
こんな攻撃を受け止めるのは現実的じゃない。受けるより避けるに切り替えたほうがいい。
俺は唯と距離をとる。
「いきなりやるじゃねぇか!」
殴りかかったのはこちら側だが、そんな細かいことはどうでもいい。
「……今度は、明ちゃんか。邪魔をするんじゃないッ!」
唯は本気になったのか、握った拳を繰り出してくる。だが、俺は喧嘩慣れしているから、このド素人の攻撃なんざ余裕で躱せる。
攻撃に転じて、拳を強く握る。全体重をかけて、殴りつける。
「唯ッ! 目ぇ、覚ましやがれ!」
唯は俺の全力パンチを手のひらで止めていた。まるで、暴れる子供をいなすように簡単に防いできやがった。
俺は距離をとってから息を吐いた。
鬼の力は強いと聞いたことはある。そんなものは、本気を出せば勝てない相手じゃない、気合で何とでもなると思っていた。それは、とんだ思い上がりだった。鬼は、妖怪としての位は、ここまで絶対的なものだとこの一撃で気づけた。
弱気になった瞬間、死角から蹴りが飛んできた。避けるのは間に合わない一撃を、左腕に力を入れてその一撃を受け止めた。メキと先程より骨が歪んだ音が聞こえた。
「やってくれたなぁッ!」
受け止めた足を掴んで振り回そうとするが、びくともしない。無理を感じて手を放し、距離を取って次の攻撃から逃れる。
俺じゃダメなのかよ。
以前に聞いた話だが、俺は無意識に巨大化し暴れ回ったらしい。その際、ロボットを駆り出し、俺を止めてくれた奴らがいた。俺のせいで自分たちの住まう建物は倒壊し、とんでもない被害が出たという。
俺は流石に悪いことをしたと思い、住人に謝罪することにした。そこで、唯に出会った。
ただの謝罪だったはずが、気付けば友達になっていた。
俺は左フックを繰り出して、相手の防御を狙った。
「俺はお前の友達だろうが! 友達になった責任取りやがれ!」
それはフェイントで身体が守ろうとした隙を狙って、右のストレートを顔面に叩きつけた。
硬い、まるで鉄骨を殴っているようだ。ビクともしない唯の顔より、こちらの拳の方が砕けるようだった。
「顔を殴ったぁ!」
「うるせぇ! お前が悪いんだろうが!」
もう、そこからは一切の駆け引きはなく、子供の喧嘩のように、殴り合った。
すぐに、俺が限界に達した。これ以上、殴り合っていたら死んでしまうと感じた俺は唯を抱きしめた。
「少し、落ち着け……」
俺はただ抱きついたわけじゃない。ボクシングのクリンチを真似しただけだ。拳を振りかざしても、振り抜けないために、受けるダメージは少ない。と、勝手に解釈してこんなことをした。
「俺たちさ……出会ってまだ2か月しか経ってないだろ……」
俺が格好いいことを言おうとしているのに、こちらの言葉に耳を傾けようともせず暴れてんじゃねぇ。少しは大人しく聞きやがれ。
「ずっとひとりでいいと思ってたけどな! 友達と一緒にいるってのが、こんなに楽しいだなんて初めてしったぜ! お前はどうだった? 俺と一緒にいて楽しかったか?」
唯が勝手に俺を友達に引き入れてから、たった2か月しか経っていない。16年の人生の中ではちっぽけな、取るに足らない時間だ。それでも、一緒に遊んだ時間は、俺の人生の中で最もかけがえのないものだった。
唯は答えない。ただ、俺を殴りつけるだけだ、
骨が限界に近づいたのか、もう骨の軋む音も聞こえない。
「俺はお前といる時間が最高に楽しかったぜ! お前らとだらだらと無意味に過ごした時間は手放さねぇ! だから、お前も楽しかっただろうが!」
無茶苦茶言っているのは分かる。それでも、胸からあふれる言葉が止まらない。
「また、一緒に遊ぼうぜッ――」
唯の振りかぶったアッパー気味のボディーブローが腹に突き刺さり、呼吸を止めてくる。もう、現界だった。鬼の力の攻撃を何度も耐えることなんて、不可能だった。
妖力が全身から抜けていくのがわかる。もう、巨大化する力が残っていない。身体が徐々にしぼんでいく中、唯の身体もしぼんでいくのが見えた。唯の方も暴れたせいで妖力を使い切ったらしい。
何だよ……俺も結構役に立つじゃねぇか……。




