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第44話 みんな集まれ 鼬と蛇だよ

◆かまいたちのプライド


 かまいたちという妖怪をご存知だろうか。人を転ばせて切り傷を負わせるが、傷からの出血はない。血を吸うから出血しないという話もある。

 私の出身である鎌田家のかまいたちは3人がそれぞれ役割を担う。長女が人を転ばせて、次女が人を切りつける、三女は薬をつけて傷を癒す。

 次女である私は姉妹の中で一番のできそこないだった。


 姉のようなスポーツ万能の身体能力があるわけでもない。妹のように頭脳明晰というわけでもない。できることは、人を切ることだけ。今の世の中、そんな物騒な力は役立たずどころか、忌み嫌われる。

 そんな私でも生を受けたからには生きていくしかないし、学業を修めた後は自らの力で金を稼がなくてはならない。やはり、私はできそこないで就職できなかった。

 妖怪かまいたちの次女という理由ではない。ただ純粋に能力が低い。それに加えて、自らを磨こうともせず酒に逃げてきた。

 何もできない私だが、かまいたちとして鎌を持っていることだけは誇りに思っている。この鎌はかまいたちの証でもある。人を傷つけるだけのものだが役に立つこともある。


 目の前で大暴れする唯ちゃんと、本気を出している雪絵さんが戦っている。鬼と雪女という強大な妖怪のバトルを目の前に、恐怖で身動きがとれない。身体が震えてその様子を見ていることしかできない。人を傷つける程度の妖怪とはレベルが違う。

 雪絵さんは動きを止めるために唯ちゃんを凍らせようとするが、唯ちゃんはそれを全く気になしない。結果として、雪絵さんが押されている。

 私が加勢すれば雪絵さんが有利になるだろうか、でも、逆に足を引っ張ってしまうのではないだろうか。

 そうも言ってられなくなった。雪絵さんが吹雪を呼び寄せた大技を放ったのに、唯ちゃんには全く効いていない。唯ちゃんの腕が振りかぶられて――!


「雪絵さん! 逃げて!」


 私は咄嗟に飛び出すと、唯ちゃんの腕を切り落とすつもりで自慢の鎌を振るった。しかし、腕に傷をつけるどころか鎌は粉々に砕けてしまった。

 その隙をついて雪絵さんは氷の塊を唯ちゃんにぶつけて、大きく吹き飛ばすことに成功した。


「双葉ちゃん、こんなところにいたの? 早く逃げなさい!」


 鎌を失った私はもう何もできることはない。早々に退場するべきだろう。


「どういうこと……? まさか、鎌田さんの姿まで似せてくるなんて!!」


 吹き飛ばされたはずの唯ちゃんが全くの無傷で林の中から飛び出してくきた。私を睨む目は殺気だった鬼そのもの。正直、恐いけど言いたいことがあった。


「唯ちゃん! 正気に戻ってください! みんな、心配してるんですよ!」

「うるさい! 悪霊がッ! 鎌田さんのようなものの言い方して!」

「本人ですよ! 鎌田 双葉、本人です!」


 聞く耳を持たない唯ちゃんは、牙を剥き出しにしてこちらに迫ってくる。こちらには身を護るものは一切ない。突き出された腕に胸を貫いてしまうのだろう。


「早く逃げなさい!」


 唯ちゃんとの間に、雪絵さんが割って入る。

 唯ちゃんの腕を氷漬けにして、押さえ込んでいた。やっぱり、足を引っ張ってしまった。雪絵さんがくれたこのチャンス。捨てるわけにはいかない。

 私は反転すると全力でその場から撤退した。幸い、すばしっこいので逃げるのに関しては足を引っ張らずに済みそうだ。後ろを振り返ることもせず、足を動かし続けた。

 やはり私は役立たずのできそこないで、足を引っ張るだけの存在だったけど、唯ちゃんに言葉をかけるができた。自慢の鎌は砕けでしまったけど、これはこれで悪くない。ただ、雪絵さんには悪いことをした。

 そんな逃げる私の横を金の色をした影が横切っていった。それが何だったのか、今の私にはわからなかった。



◆蛇女の想い


 学校ではいつもひとりだった。あたしは常に前髪で目を隠して、誰ともかかわらないようにしてきた。なぜなら、それが一番楽だったからっス。

 自分が蛇女という妖怪だったこともあったけど、自分自身が相手を避けていた。ひとりなら傷つくのは自分だけだから。だから、あたしは常にひとりだった。でも、入学式の日、すべてが変わったっス。

 天狗と妖狐を引き連れた凶悪な鬼。クラスの中でも目立ちに目立った日の光の中心にでもいるような人物。そんな鬼が気になって、何度もちらちらと視線を送ってしまった。それが、失敗だったっス。

 何の因果か鬼に目をつけられ、なし崩し的に友達になってしまった。今でもなんで鬼とあたしが一緒にいるのか、わからないっス。


 唯ちゃんが行方をくらまして丸一日、未だに見つかっていない。

 みんな心配なのか入れ替わりでジンガイ荘に訪れていた。あたしは学校をサボってここで唯ちゃんを待っている。明ちゃんも同じ様子だけど、あっちは無遅刻無欠席だったのを止めてまでここにきているらしいっス。


 ジンガイ荘の居間には、調停者と名乗る人と、妖狐の人(名前忘れた)、にーちゃん、後は過去に妖力が暴走したところを唯ちゃんに救ってもらった人達が集まっている。人数はそこそこいるというのに、お通夜同然に静かなものっス。

 あたしと明ちゃんもそうだけど、友達の友達って関係だったりする。唯ちゃんとは友達だけど、明ちゃんは唯ちゃんの友達って感じで少し壁がある。それは、ここにいる人全員に言えるみたいっス。


 でも、ジンガイ荘のメンバー同士も静かなのが気になる……と、管理人の雪絵さんと、ゲロの人がいない。どこへ行ったのだろうか。あまり注視していなかったので、解らなかったっス。

 何をするでもなくぼーっとして、鴉の人を待っていると、突如、凄まじい妖力を感じた。背筋が寒くなり、総毛立ち、恐さで身体が震えてきた。唯ちゃんのものだとわかるけど、同じ妖力とは思えないほどに暴力的だった。


「これは……」

「唯様!?」


 当然、調停者と妖狐の人にもこの尋常ではない事態が解っているようだった。詳しい場所を得るために、天狗の人を待っているという様子っス。


「覚悟を決めなくてはなりません。ここまで事態が切迫しているとは思いませんでした」

「……それについては同意だわ」


 調停者が立ち上がると、あたしたちにこう告げてきた。妖狐の人は座ったままっス。


「ここにいる人には残念ですが、桜河 唯を止めるのは不可能です。殺すか、完全に封印するしか、方法はありません」


 居間にいる全員が息を飲んだ。こういう時、絶対に反対すると思った妖狐の人も何も言わない。明ちゃんも口を閉ざしたままだ。調停者が言わなくても、この強大な妖力を感じてしまうと、無事では済まないと思えてしまう。だから、誰も反論できない。でも……。


「あ、あたしは、そんなの嫌だ。また一緒に唯ちゃんと遊びたいっス! わがままを言っているのは、百も承知だけど……最初からあきらめたくないっス!」


 あたしは反対する。唯ちゃんと出会って、あたしは変われたと思ったから。唯ちゃんがいなければ、あたしは変わっていなったから。だから、他人が傷ついてもいいから、自分の意見を言った。


「……戦えない者が何を言うのですか? 命を賭して戦うのは私たちですよ」

「それでもッ! お願いできないでしょうか……」


 私は頭を下げた。戦う力など持たないただの蛇女であるあたしは、そうするしかなかった。

 このまま土下座をする勢いだった。身体は震えたままで、恐くて涙が少しこぼれているけど、それを我慢してでも、やらなくちゃいけない。


「顔を上げなさい蛇上。そこまで言われたら、頑張るしかないわね」


 妖狐の人があたしの頭を撫でていた。その手もあたしと同様に震えていた。

 誰でも恐い。戦える人はもっと恐い。それでも、あたしの願いを聞き入れてくれるこの人は、誰よりも強い。この人ならきっと唯ちゃんを救ってくれる。そう、思った。

 ガララと音がなって、居間の襖が開けられた。開けた主は、血だらけの天狗の人だった。立派だった黒い羽根はへし折られ、片足は骨をやられているのか、おかしな方向を向いている。ぼろぼろになり、呼吸も乱して、それでも、ここまでやってきた。


「陽子ッ! 唯様がッ! 近所の雑木林にッ! あんただけで、行ってって雪絵さんが!」


 単語単語でよくわからないけど、意味は何となく伝わる。

 あたしは、妖狐の人を見上げた。


「私のご指名ね。なら、ちょっと本気を出すわ。そこの調停者とぬかす人間はそこで待ってなさい。唯様を救ってみせるから」


 軽い調子でそんなことを言うと、陽子さんは普段と同じ足取りで居間から出ていく。伝言を伝え終えた天狗の人が倒れそうだったので、慌てて抱きかかえた。

 きっと、みんなが唯ちゃんを救ってくれる。そう、信じた。

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