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第41話 みんな集まれ 夏休み最終日だよ

 今日は夏休みの最終日。

 みんなと宿題を持ち合って朝からファミレスにやってきた。本来ならスーパーのフードコートで充分なのだが、宿題を持ち込むため、ちょっと迷惑がかかると考えた。ファミレスならドリンクバーひとつで延々とスペースを確保することができる。

 私たちは4人がけのテーブルに座り、真っ先に取りに行ったドリンクを手前に置いた。


「さて、明日から学校なわけだけど……現状報告を聞きましょう」


 真ちゃんの言葉に息をのむ。ここで、真の友情が試されるのだ。


「あたしは……半分残ってるって感じっス」

「私は、4分の1ってとこかな」


 私と薫ちゃんの報告に、真ちゃんは肩を震わせ笑い始めた。


「私は当然、何も手を付けていないわッ! 正直、明日までに宿題が終わる気がしないッ!」


 自信満々の言葉、とても真ちゃんらしい。その言葉が聞きたかった。


「……お前ら、何言ってんだよ。宿題なんて、夏休みが始まって真っ先に終わらすもんだろ」


 私たちを横目に、明ちゃんが呆れ果てた顔をしている。一体何を言ってるんだと、言いたげだった。

 3人の視線が明ちゃんに集中する。「そんな馬鹿な」と、口に出しそうな程、似つかわしくない言葉だった。この中で最も不真面目だと思われていた明ちゃんが、そんなことをするわけがない。私たちに対する背信行為。


「不良だと思って馬鹿にしてるだろ。勉強なんて、適当でいいんだよ。ささっと手早く終わらせようぜ」


 私たち3人はテーブルに宿題を載せる。一か月を超える休日に与えられた宿題は、とても一日で終わらせることなど不可能だと言わんばかりに壁になって立ちはだかってきた。そんな中、明ちゃんだけが、ストローを加えてジュースを飲んでいる。


「ヤバい、ダメ。もう、全然わからない」


 テキストを開いて5分。真ちゃんがギブアップ宣言をした。それを聞いた明ちゃんが宿題を覗き込んできた。少し問題を見てから、真ちゃんに向けてしゃべりかけてきた。


「そこはな、この公式を使って……な? x=3、y=9になるって訳よ。簡単だろ?」


 真ちゃんの顔がみるみる綻んでくる。


「明ちゃん! すごい! 本当に頭良かったんだ!」

「ははは、お前ら、ずっと俺のこと馬鹿にしてただろ」


 明ちゃんは苦笑いを浮かべながらも、真ちゃんと薫ちゃんに宿題の内容を教えている。そのペースは速く、次々に宿題が片付いていく。

 一方、私はというと、4人がけテーブルの対角線上に明ちゃんがいる。つまり、とても教えてもらい難い場所にいるのだ。このままだと、2人が宿題を終えても、私だけ宿題に追われることになる。それだけは、避けたい。

 ここは、もう一人の助っ人に頼むしかない。脳みそに問題を解いてもらう。これが今できるベストアンサー。


【この程度の問題。私に解けないはずが……何だこの公式は? まるで見当違いではないか。こんな間違った数式を使っているとは、なんと愚かな。宇宙の理に到達できぬのも無理からぬこと……】


 脳に直接声が聞こえてくる。何を言っているかわからないが、難癖をつけてわからないのを誤魔化している気がする。だけど、なんだかんだ言って、問題に対して適切なアドバイスをしてくれる。やはり、脳みそと友だちになっておいてよかった。


「この調子なら、楽勝で宿題が終わりそうね」


 真ちゃんは上機嫌で口笛まで吹いている。私と薫ちゃんも経過は良好で、このままなら問題なく今日中に終わるだろう。


「おい、腹減ってこないか? 何か注文しようぜ」


 時間は12時を少し過ぎている。宿題を片付け始めて3時間、集中力も欠けてきた頃だった。反対の言葉も出なかったので、そのまま昼食へとなだれ込んだ。


「私、パスタにしようかなー」

「私はハンバーグかな」

「ピザなんかも美味しそうっすよ」

「あ? ここはマグロたたき丼だろ」


 各々が好きなものを注文する。宿題が順調なこともあり、私たちの会話は弾んでいく。


「この前の動画、見たっスか?」

「あれ、よかったよー。ああいう作品って、もっとないの?」

「おい、動画って、何のことだよ。教えろよ」

「この前話してた奴で――」


 会話は注文が届いた後も止まることはなく、花が咲いてきた。騒いでいるうちに、宿題のことなど、忘れてしまい。気付けば、4時間も無駄に過ごしていた。


「……ちょっと、はしゃぎ過ぎたかな?」


 真ちゃんが首を傾げる。それと同じくして、私と薫ちゃんも首を傾げた。そんな3人を明ちゃんつまらなさそうに眺めていた。


「なんだよ、もっと喋ろうぜ。宿題なんてどうでもいいだろ」

「いいわけないっスよ!」


 ファミレスの窓から外を見るが、まだ太陽は高く、辺りはまだ明るい。夏なので、昼の時間が長いことが幸いした。暗くなる前に帰ることができるかもしれない。


「「「うぉぉぉぉぉぉッ!!」」」


 私たち3人は声を揃えて気合を入れ直した。



 努力の甲斐あって、宿題は空が夕焼けで赤に染まるくらいの時間で決着がついた。シャーペンを持ったまま、私は机に倒れ込んでいた。もう、しばらくは勉強をしたくない。そう心に思うが、学校がはじまったらすぐに宿題は出てくるだろう。

 ファミレスで夕飯も済ませてよかったけど、雪絵さんが夕飯を用意しているだろうし、金銭的余裕もない。宿題が終わったのでそれを良しとして、ファミレスを後にした。


「じゃあ、私はここで」

「うん。バイバイ」


 帰り道、真ちゃんと別れる。

 薫ちゃんと明ちゃんはファミレスで別れたので、私ひとりになった。今までファミレスで騒いでいたことが嘘のように静かだった。夕飯時のせいもあり、どこからか、カレーのいい香りが鼻に届く。

 今日の夕食もまたそうめんかと考えていた。ぼんやりとしていた視界の隅で、何か動くモノがあった。視線を向けると黒い雲のような悪霊が漂っていた。数は3つ。まるでこちらを挑発するかのような少なさ。この程度なら、撫でてやればすぐに掻き消せると腕を振るう。

 爪を立てたまま、1つ、2つ、と切り裂き、最後の3つ目――


「あ、唯ちゃん。間違えてノートを……」


 悪霊と同じ場所に、真ちゃんが現れて、2つが重なった。私の手が真ちゃんに向けて振り下ろされる。それがスローモーションのようにゆっくりと見えた。この腕を今止めれば何も起こらない。この腕が止まってくれれば――

 私の爪を立てた手がゆっくりと、真ちゃん身体を切り裂いた。

 後ろに吹き飛んでいく真ちゃんに、宙を舞う鮮血。ゆっくりと、地面に落ちた。

 視線の先には倒れ、赤い血を流す人間がひとり。自分の手を見ると、指先が赤く染まっていた。ぽたぽたと、指先から赤い液体が滴り落ちる。

 呼吸が浅い。もっと空気を吸わないといけないのに、呼吸が乱れていく。目の前の光景が信じられない。信じたくない。

 眼球が揺れて、視界が赤く染まっていた。


「あ……」


 ポロリと、言葉が漏れた。もう、止められなかった。


「ああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 声が聞こえた。

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