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第40話 みんな集まれ 和解だよ

 真ちゃんがジンガイ荘に来て夜が明けた。その間、何もなかったはずもなく、トランプやらして盛り上がった。

 朝、スマホの着信音で目が覚めた。どうやら、真ちゃんも着信音で起きたようで、不機嫌に目をこすっている。電話の主は喧嘩の相手だった父親らしく、いがみ合いが続いている。


「だから! そっちが! ……そんなの! ダメ……。どうして……?」


 私の部屋は狭く6畳程度だ。そんな中で話されたらどうしても会話の内容が聞こえてくる。まだ喧嘩が続いているみたいだけど、話し合いができるということは、悪いことではないと思う。

 携帯電話という何時でも話すことができるツールがあるというのは、いつでも繋がりを持てるということだ。もしも、携帯電話が無ければ、真ちゃんも父親もお互いに意地を張り、和解することは難しいだろう。


「だって……スパッツなんて……。穿いていないの……パンツなんて……。どうでもよくない……見えたっていい……」


 親子の会話だと思っていても、「スパッツ」とか「パンツ」とかいう単語が出てくると、ドキドキしてしまう。いやらしい話ではないはずなのに、妙にエロい。それは、恋人同士の会話のように聞こえる。

 真ちゃんはスマホを耳から離すと、画面をタッチした。どうやら、話し合いは終わったようだ。


「どうだった?」

「うん、お父さんが折れて謝ってきてくれた。自分勝手で悪いと思うんだけど、早く家に帰りたいと思って……」

「いいことだと思う。でも、雪絵さんは朝食の準備をしてくれてるから、食べた後でいいと思うけど」

「そうだね。もう少しお世話になろうかな」


 真ちゃんが少しはにかむ。親子でも喧嘩はいけない。こんなかわいい笑顔を曇らせるのだから。

 私は真ちゃんと一緒に居間へと向かった。


 居間に到着すると、テーブルの上には朝食が並んでいた。お味噌汁に、菜っ葉のおひたし、煮豆と、冷や奴、そして、白いご飯。それに加えて味付け海苔があった。海苔の分だけ、食卓が豪華だ。

 私と真ちゃん、それに、雪絵さんと、陽子さんが居間にいて、他の住人はまだ寝ているようだ。私は真ちゃんが帰ることを手短に説明した。


「そう……寂しいけど、親御さんと一緒の方がいいわねー」

「喧嘩の理由がアレだし、よかったと思うわ」


 陽子さんの言葉が意外だった。もっと、真ちゃんを毛嫌いしているかと思った。よく蹴られていたし。


「唯様、なんて目でこっちを見てるのよ。私は蓮子ほど冷たい女じゃないわ」


 こちらの考えることは、お見通しだった。


「ご迷惑をおかけしました」


 真ちゃんがみんなに頭を下げた。私はそれが不満だった。


「こういう時は、謝るんじゃなくて、お礼をいうべきだと思うよ」

「そ、そう? 一晩泊めていただいて、ありがとうございました」


 お礼を言う真ちゃんは笑っていて、それがとても似合っていると感じた。謝られるよりも、感謝されたい。私はそう思った。雪絵さんも陽子さんも同じ考えだったのか、一緒に笑ってくれた。


 朝食を済ませ、ジンガイ荘の前までやってきた。真ちゃんは帰り支度を済ませており、来た時と同じように、大きなショルダーバックを肩にかけていた。


「唯ちゃん、ありがとね。なんだか、こっちの事情に巻き込んじゃって……」

「ううん。私は真ちゃんの力になりたかったし、また、何かあったら頼ってきてよ」


 真ちゃんが背を向けて歩きはじめたとき、何となく不吉な予感がした。確信があったわけではないけど、ひとりで帰らすには不安があった。


「真ちゃん、私も一緒に行っていい?」


 真ちゃんは少し首を傾げたが、すぐに了承してくれた。私は真ちゃんの隣に並んで、他愛もない話をしながら帰宅に同行した。


「ねえ、唯ちゃんはお父さんと喧嘩とか、したことある?」

「え?」


 真ちゃんに尋ねられて、咄嗟に返答できなかった。父親とは、喧嘩どころか、何をしゃべっていたのか記憶に残っていない。きっと、何かしら言葉を交わしたはずなのだが、思い出せない。


「喧嘩はしたことないかな。家では言われることを守ってたし」


 実家にいたころは、何もかも受け入れていたような気がした。父親に反抗することが無意味だった。私にとって父親は絶対だった。そもそも、向こうから何かを言ってきたことはなかった。と思う。


「そっか。厳しいお父さんだったんだ」


 少しずれているような気もするが、傍から見ればそうだったのかもしれない。

 真ちゃんと話をしなければ、父親のことを思い出すこともなかった。そして、意外と思い出すことがない事を知った。

 その後、何事もなく真ちゃんの家に到着した。私の不安は無用なものだった。


「わざわざ送ってくれてありがと」

「また変なことで、お父さんと喧嘩しないようにね」


 お互いに笑い合い、手を振って別れた。

 真ちゃんが家に入ったのを確認してから、空を見上げた。そこには渦を巻くように蠢く黒い雲のようなものがあった。最近よく見かける悪霊である。私の不安はヤツらが、真ちゃんを襲うことだった。いつでも、彼女を守れるように、私は一緒にいたのである。


「蓮子さん、陽子さん、手伝って」


 私がそう言うと、背後に2人の人影が現れる。いつも私を見守ってくれる、頼りになる仲間。


「お任せください、唯様」

「今日も数が多いわね」


 以前、調停者に言われたが、悪霊の数が増えている。いくら退治しても、次から次へと湧いて出てくる。あの、お盆の日から、いったい何があったのだろうか。

 私は爪を立てて、引っ掻くように腕を振るう。その一撃で悪霊は切り裂かれ、霧散する。1体1体は弱く、簡単に退治できる。しかし、飛んでいるものが多く、攻撃範囲に入ってこない。


「さあ! そこをどきなさい! 天狗が通る!」


 空を飛ぶ蓮子さんが次々に悪霊を駆除していく。羽団扇を振るうだけで悪霊は簡単に霧散していく。


「数ばかりでは、私たちの相手じゃないわ」


 陽子さんは狐火でどんどん悪霊を焼いていく。

 2人のスピードは速く、すぐに悪霊の退治は終わるはずだった。しかし、いつになっても数が減らない。どこからともなく、次々と悪霊が湧いて出てくる。まるで、何かに引き寄せられるように、集まってくる。

 私は地上に近い悪霊を退治していたが、空の悪霊は減らない。それが、もどかしくてイラつきを覚えてきた。こんな奴ら、本気を出せば楽勝なのに。と、考えていた。


「2人とも、下がって!」


 私が叫ぶと、こちらを察して、2人は私から距離をとる。これなら、少し本気を出せそうだ。

 私は右手を振りかぶると、ボールを投げるかのようにして空を引き裂いた。私の爪は悪霊もろとも空を裂いた。再び空を見上げれば、あの不快な黒い雲は消え去っていた。

 軽く息を吐く。こんなに力を使ったのは久しぶりのような気がした。


【凄まじい力だったな。私と会った時より随分と強くなった】


 脳に直接言葉が聞こえた。脳みそと出会ってからは、さほど力を使わなかった。だから、そう感じたのだろう。私の本気はこんなものじゃないけど。


「唯様……」


 隣に下りていた蓮子さんが不安げな声をかけてくる。今の戦いで何か悪いことでもしてしまったのだろうか。そういえば、今回はあまり周りを気にしていなかった気がする。


「もう少し、力を抜いたほうがいいんじゃない?」


 背後にやってきた陽子さんが両肩い手を置いて、軽く揉んできた。一瞬、セクハラかと思ったけど、そうではなかったらしい。手つきがいやらしかったら、裏拳でもかまそうかと思っていた。


「妖力が、もれてますよ」


 蓮子さんが耳打ちしてくる。言われてようやく気がついた。どうやら、先ほどの攻撃で気分が高揚していたようで、無駄な力がまだ残っていた。深呼吸をして、妖力を静める。

 忘れていた。自分の妖力が悪霊を呼び寄せていることを、今回、悪霊が集まってきたのも、知らず知らずに、妖力を使っていたのかもしれない。


「ごめんなさい。次は気をつけるね」


 頭を下げると、2人が私に飛び付いてきた。容赦なく胸を揉まれたので、グーで殴っておいた。


「いてて……いつもの唯様で良かったわ」


 陽子さんが少しおどけたように言ってくれる。いつもの自然体に戻ることができたような気がする。2人にはいつも助けられていると、あらためてそう感じた。


「それじゃあ、ジンガイ荘に帰ろう」


 私たちは3人そろってジンガイ荘へ帰っていった。

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