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第3話 みんな集まれ 怨霊だよ

 下駄箱は帰っていく新入生で活気づいている。

 もうグループを作っているようで楽しそうに笑い合ったりしてる。羨ましいなぁ。

 溜息を吐いて下駄箱を後にする。

 初めての自己紹介……結局、あの2人にかき乱されて全くできなかった。

 しかも進行を妨げちゃって、後の人の時間も短くなっちゃった。クラスメートに迷惑かけたし、これからどうしたらいいんだろう。

 重い足取りでグラウンドまでやってくる。と、校門が見えたところで、動きが止まってしまう。

 校門の影から、長い金髪が風になびいている。これって、十中八九助本さんだ。

 このまま帰ればまた酷い目に遭う気がする……。

 校門を迂回してグラウンドと道路を仕切る塀にやってくる。

 2mといったくらいの低い塀。これくらいなら……。


「自由への飛翔!」


 余裕で飛び越えられる。

 これで悠々自適な帰り道を堪能することができる。

 何をしようかな、買い食いなんて楽しそうだし、本屋で立ち読みするのも面白いかもしれない。でも、最近は立ち読みができない店が多いよね。

 他は何があるかな……怖いけど1人でゲームセンターとか行ってみるとか?

 膨らむ希望に足取りは軽く、先ほどまで落ち込んでいたなんて思えないほど。

 と……。

 ふと、我に返る。


「ここ、どこ?」


 気がつけば暗い裏道のような細道。

 こんな場所は知らないし、当然通ったこともない。どこから来たのか思い出せないし、どうすれば通学路に戻れるかもわからない。

 浮かれている場合じゃなかった……。

 どうしよう、ここはじっとして誰かが通るのを待つ? それとも、とにかく突き進んで自力で帰る?

 ここは後者を選ぼう。

 適当に歩いていれば人に出会って道を聞くこともできると思う。


 いい加減に道を進むと、電柱の下に人影があった。

 思った以上に早く人と出会えた。

 警戒することもなく、その人の元へ駆け寄る。


「あの、すみません。ちょっといいですか?」


 声をかけると、その人が顔を上げる。

 すると、その人の顔はモザイクがかかったように、判別することができない。

 男か女かじゃない、人かそれ以外かがわからない。

 不安だっとはいえ、こんな真っ黒で佇んでいる人に不用意に近づくなんて、なんて不覚。

 人影はこちらに覆い被さるかのように、両手を上げて襲い掛かってきた。

 つい、両目を閉じて、身体を固くしてしまう。

 だが、いつになっても誰も覆い被さってこない。


「危ないところでした」


 目を開けると、すぐ近くに格代さんの顔があった。

 身構えた一瞬で、私を抱きかかえ逃がしてくれたようだ。

 お姫様だっことか初めて……。

 ただのセクハラおやじにしか見えてなかったけど、やっぱり顔だけなら格好いい。


「狐火よ!」


 十分に距離を取ったところで、助本さんが両手を構えて人影を炎で拘束していた。

 そういえば、妖術を使うとか言ってたっけ。

 それはともかく、何があったのか、あの人影は何なのか、全くわからない。


「大丈夫でしたか?」

「あれは?」

「怨霊ですね。桜河様のいた地区のように、管理されているなら出ないのですけど、ここのように妖怪が自由に行き来できるところではたまに出るのよ」


 怨霊――それは、初めて出会う存在。

 助本さんが言った通り、私が住んでいた時は出会ったことはなかった。

 今の私のようにうかつに近づいた人を襲っているみたい。

 そんなことを考えていると、格代さんが私の右に、助本さんが左に陣取ってきた。

 これ、朝に見た覚えがある。


「ひかえろ! ひかえろ! この方を誰と心得る!」

「こちらこそ、史上最強の鬼である桜河 唯様よ!」


 何か始まった。

 自己紹介の時の悪夢がよみがえってきた。

 それ以前に、怨霊に対してこんなことをして、何か意味があるのだろうか。

 私には何もわからない。


「ほら、桜河様も」

「キメ台詞ですよ、キメめ台詞」


 2人が両方から肘で突いてくる。

 何を求められているか、嫌なほどわかってしまう。

 私は息を吐いて覚悟を決めた。


「格代さん! 助本さん! やってしまいましょう!」


 ああ、恥ずかしい。

 なんで私がこんなことを……。


「御意!」

「かしこま!」


 私の号令を受けて、まず格代さんが怨霊に突進する。

 その目にも留まらぬスピードで怨霊を弾き飛ばすと、連続で弾いていく。

 天狗の超スピードにまかせて四方八方から怨霊を弾いていく。それはまるで竜巻のようで上空へと巻き上げていく。


「動きを止めますわ!」


 宙に巻き上がった怨霊は突如現れた槍のような炎に貫かれ、空中に固定された。


「これで、止めです!」


 上空に舞い上がっていた格代さんが、固定された怨霊に向かって矢のように飛び降りてくる。

 そして、怨霊は蹴り貫かれると地面へ突き刺さる。


「さすが、人型になっているだけのことはある」

「私たちの合体攻撃でも平気なんてね」


 地面に突き刺さっている怨霊は、まるでダメージを受けていないかの如く動き出した。

 コンクリートに埋まったのをもろともせず這い上がり、こちらへ近づいてくる。

 あのコンビネーションを受けても平気なんて、怨霊ってかなり怖い奴なのかもしれない。


「怨霊ってこんなに強いんですか?」

「いや、ここまで強いのは稀だ」

「人の形をしているのは強い怨霊の証。これは結構てこずるかもね」


 格代さんと助本さんが珍しく真面目な顔をしてる。

 いつもこれくらい真面目だったら2人とも格好良くていいのだけど……。

 でも、2人が真面目ってことは、本当に不味いってことかな。


「格代さん、助本さん、もういいですよ」


 私の言葉に、2人はこちらに視線を向けた。

 こんな発言に動揺しているように見える。


「後は私がやります」


 私だってやるときはやるってところを見せてやらないと、いつまで経ってもセクハラの的のまま。

 手を強めに握って、軽く助走をつける。

 そして、そのまま怨霊に拳を繰り出す!

 ボンッという音が聞こえたかと思うと、目の前の怨霊が霧散していた。


「もしかして、逃げられた?」


 堅い表情で、2人の方へ向き直る。

 すると、彼女たちは颯爽と私を囲んできた。


「流石は桜河様! 怨霊なぞ、恐れるに足りません!」

「さあ、胴上げよ! この偉業に祝福を!」


 2人は私を持ち上げると、胴上げを始めた。

 最初はなすすべもなく、打ち上げられていたが、ふと、現状を思いかえす。

 私はさっと、スカート押さえた。


「ぐへへ、スカートの中なんて見えてないです」

「私たちに下心など微塵もありませんよ、げへへ」


 もう、完全にセクハラをするおっさんのそれである。


「もう止めてください。十分ですから! おろしてください!」


 私は抵抗するも、無理やり胴上げされ続けてしまう。

 やっぱり、こうなってしまうのね……。

 もう、ここで暮らす以上避けることはできないみたい。

 さようなら、私の平穏。

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