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第37話 みんな集まれ UMAだよ

 鬱蒼とした雑木林の中を歩いている。先日雨が降ったせいか、湿度が高くむしむしと暑い。青々とした木の葉が直射日光を遮っているのが、唯一の救いなのかもしれない。

 何故、こんなところを歩いているかといえば、あるものを探しているからだ。


「いいですか? もし、物音が聞こえたらすぐに虫網で捕まえてくださいね」


 麦わら帽子を被り、長めの虫取り網を担いだ作業服姿の鎌田さんが言った。準備万端といった様子で足取りも軽い。鎌田さんの隣には、いつもより厚着をしたにーちゃんがいた。厚着といってもいつもの首がよれたTシャツの上に上着を着ているだけである。

 私も鎌田さんの買ってきた安い作業着を着せられていた。そのため、いつもの1.5倍くらい暑い。今すぐ逃げ出してクーラーの効いたスーパーに逃げ込みたい。


「本当に『つちのこ』なんているんですか?」


 この雑木林はジンガイ荘から歩いて15分程度の場所にある。そんな近所で、『つちのこ』を見たという噂があった。それを知った鎌田さんが『つちのこ』捕獲に乗り出したのだ。


「間違いありません。噂では『胴が太い蛇』『5m以上ジャンプしたところを見た』『チーという鳴き声を聞いた』『大きなゴキブリのような素早く動くモノがいた』など、『つちのこ』によく似た目撃例が多くありました。ここには確実に、いる!」


 どうして、噂を鵜呑みにしているのだろうか。ただの嘘を流しただけの可能性の方が高いと思う。

 何故、鎌田さんがこんなに『つちのこ』捕獲に熱心なのか、それは賞金が出るかららしい。少ないところでも100万円も出るそうだ。そんな、全国で賞金がかけられている未確認生物を捕獲しようというのだ。正気とは思えない。


「……なんで、私もいるの?」


 にーちゃんは自分がこの場にいる意義を疑問に思っているようだ。もちろん、私もどうしてここにいるのか、わからない。


「ふふふ、にーちゃんの役目は、『つちのこ』がどこにいるかを教えて欲しいのです。前に聞きました、ネット上の情報を集めて、口裂け女の居場所を割り出したと」


 確かにそんなことがあった。そういう意味では、にーちゃんを選んだのは、あながち間違いではない。しかし、鎌田さんは重大な問題を見落としている。


「……この噂話……口伝いのものなんだけど……」


 そう、この噂話はこの辺りに住む人たちが話をしているだけで、ネット上にはそんな情報はないのである。


「ちなみに、どうして私はここにいるのかな?」


 自分がいる理由が皆目見当がつかない。『つちのこ』を探すのに必要な能力を持っているわけではない。むしろ、蓮子さん、陽子さんを連れてきたほうがいいと思う。


「それは、私とにーちゃんだけだと、心細いからです。もし、妖怪に襲われたら、どうするんですか?」

「鎌田さんも妖怪だよね。ある程度は自衛できると思うんだけど」


 こちらがやる気がないのに気付いたのか、鎌田さんがしがみついてくる。この暑いさなかに何をしてくるのか。そんな彼女の顔を引きはがしていると、脳に直接語りかける声が聞こえた。


【その辺りから、何か妙な反応があるぞ。もしかしたら、探し物かもしれん】


 本当に『つちのこ』がいるとでもいうのだろうか。ただの勘違いだと思う。こんな近所にそんな生物がいてたまるか。そんなことを思っていると、林の奥ががさりと何かが動いた音がしてきた。


「うおー! 『つちのこ』確保ー!!」


 しがみついていた鎌田さんが一瞬で姿を消して、物音に向かって虫取り網を振り下ろしていた。さすがは鎌鼬。スピードはそれなりにある。

 鎌田さんの虫取り網の隣から、何かが飛び出してきた。それは、蛇にしてはお腹が膨れており、2メートルは飛び上がっている。

 あっけにとられていると、その蛇は雑木林の奥に消えていった。


「ほら、いたじゃないですか! 今度はちゃんと手伝ってくださいね」


 鎌田さんは胸を張ってそんなことを言ってくる。鎌田さんの何がそんなに偉いのだろうか。


「にーちゃん、あれ、本物?」

「……どうかな……あんな生き物のデータはない……と思う……」


 私とにーちゃんは顔を見合うと、一緒にうなずいた。

 鎌田さんを先頭に、私たちは雑木林の奥へと進んでいく。湿度がさらに上がって、余計に暑く感じてくる。いつも冷却水を飲んでいるにーちゃんは、とてもつらそうに見える。コンピューターとかが熱でオーバーヒートするんじゃないかと心配になってくる。


「さあ、さあ、『つちのこ』に近づいてきましたよ」


 何の根拠もない事を鎌田さんはのたまう。


「こういうことなら、蓮子さんと陽子さんを連れてきた方がよかったんじゃないかな」

「あの2人はダメです。まず、がめついです。賞金を山分けにしようとか言い出すに決まっています」


 この流れ、この人、賞金を独り占めするつもりだ。私とにーちゃんへの労わりがないのだろうか。


「次に、ロマンがない。格代ちゃんは、『そんなものはいません』とか言ってこちらの夢をぶち壊してきます」


 これに関しては、蓮子さんが正しいと思う。天狗の備忘帖を使えば、大抵のことがわかるはずである。


「助本ちゃんもダメです。彼女はどんくさいですから、『つちのこ』を逃してしまいそうです」


 陽子さんはすっかり、間抜けキャラが定着していた。蓮子さんが素早いのであって、陽子さん自体は普通の人と変わらないと思うんだけどな。


「というわけで、私たちで『つちのこ』をゲットしましょう」


 意気揚々とする鎌田さんに対して、私とにーちゃんのテンションはだだ下がりだった。

 そんな中、また、草むらから何かが飛び出してきた。それが、先ほどであった胴の太い蛇だとすぐにわかった。これでも運動神経には自信がある。


「はっ! とうっ! やっ!」


 飛び跳ねる蛇を追って鎌田さんは懸命に虫取り網を振るっている。鎌鼬ほどのスピードがあれば、あれくらい簡単に捕まえられそうだけど、どうやら、彼女もどんくさい系のようだ。


「はい」


 私は蛇を手づかみした。飛び跳ねて鬱陶しかったけど、簡単に捕まえられた。他の2人は私が素手で蛇を捕まえていることに、ドン引きしていた。蛇くらい誰だって、素手で捕まえられるよね。


「これ、本物の『つちのこ』ですよ! ついに、賞金を手にすることができんです! やったー!」


 鎌田さんが両手を万歳しながら喜んでる。この程度でも鎌田さんが満足したのなら、一緒に来て悪くなかったと思えた。


「……これ……何か変……」


 にーちゃんの声を聞いて、私と鎌田さんは手に握った蛇に注目した。そうすると、蛇のお腹がどんどんとしぼんでいく。そのうち、ただの蛇になってしまった。


「……もしかして、この蛇って、妖力を吸い過ぎて、妖怪になる一歩手前だっただけなんですか?」


 手に持っている蛇を見ながら、鎌田さんは表情を暗くしていった。すっかり意気消沈して抜け殻になってしまった鎌田さんをよそに、蛇を解放してあげた。


「あれは、ただのヤマカガシ……」


 にーちゃんが冷静に判断していた。

 おそらく、あの蛇は私の妖力を過剰に吸ってしまい、あんな体になったのだろう。そのために、普段はできないような跳躍をして見せたのだろう。今回の『つちのこ』騒動も、もとを正せば私が原因だったのだ。結局、調停者が言った通り、私は周囲に悪影響を与えているだけだったのだ。


【そんなに落ち込むことはない。他に反応がある】


 脳に直接声が聞こえてきた。なんだか、慰められているような気がする。


「はぁ……、唯ちゃん。にーちゃん、帰りましょうか……」


 鎌田さんはがっくりと肩を落として、雑木林から出て行こうとする。その時


『チー』


 と遠くで何かが鳴いた声が聞こえた。

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