第36話 みんな集まれ 宇宙人だよ
近所にあるスーパーのフードコートで話が盛り上がり、気がつけば外は暗くなり夜になっていた。
「ミステリーサークルって知ってるっスか?」
スーパーから出て帰る途中に、薫ちゃんがそう言った。
その単語に聞き覚えがあるけど、どんなものだったのか思い出せない。別に記憶にとどめるほど重要な事柄でなかったことは確かだ。
「知ってるぜ、田んぼにできる奴だろ。昔は流行ってたらしいな」
明ちゃん曰く、昔、田んぼで稲が倒れて円を描いていたことがあったそうだ。それを、ミステリーサークルと呼んでいたらしい。やはり、憶えている必要のないものだった。
「世間ではいたずらってことで片付いているらしいけど、本物は人間では再現できない奇妙な点があって、宇宙人からのメッセージって言ってる人もいたっス」
宇宙人か、興味ないかな。そんなものより悪霊の方が私には重大な問題だった。
「でも、どうしてそんな話を?」
私は聞いていた。
「この辺りの田んぼにあったらしいっスよ」
「へー、じゃあ、UFOとか来てるのかもな!」
薫ちゃんと明ちゃんが楽しそうに話している。何がそんなに楽しいかわからない。それより、ずっと黙っている真ちゃんが気になる。俯いたままで、顔を上げようとしない。横目で顔を覗き見ると、顔面が蒼白になっている。目は泳ぎ、焦点が合っていない。これはもしかして。
「真ちゃん、もしかしてこういう話は苦手?」
「い、いや、そんなことは、ありませんですわよ?」
滅茶苦茶、動揺してる。怖い話が苦手なのだろうか。そんな風に感じたことは無かったのだけど。
「大体、宇宙人はグレイ型しか知らないし、UFOの種類もハマキ型とアダムスキー型しか知らないし、キャトルミューティレーションで、牛の頭部の皮が……」
真ちゃんがぶつぶつと呟いている。どうしたのだろうか、よくわからない単語が並んでいる。実は詳しかったりするのだろうか。
歩いていると、すぐ近くにある街灯がチカチカと明滅した。そう感じてすぐ、頭上から別の光が照らしてきた。その光は少し緑色を帯びており、人工的なものだと、すぐに理解できた。
見上げると、そこには、5つの電球のようなものが、中央にある球を中心にぐるぐると回っていた。何が起きているのかわからないうちに、身体が宙に浮きはじめた。
ふわふわとした感覚で、少しずつ引き上げられる。真ちゃんたちを見ると、同じように浮き上がっていた。そのうち、中央にあった球についこまれていった。
目を開けると、強烈なライトに照らされていた。そこには、こちらを見下ろす誰かの影が2つあった。どうも、こちらを観察しているようだった。それが鬱陶しくて、身体を起こす。
「ば、馬鹿な! 何故、動ける!?」
「こいつにはイッサムが効かないのか!?」
妙に頭と目がデカくて銀色っぽい色をした人間が慌てている。私が起き上がったのが、そんなに大変なことだったのだろうか。視線を動かすと、隣にベッドで横たわっている薫ちゃんが見えた。辺りを見まわすと、真ちゃんと明ちゃんもいた。全員、眠っているのか、全く動いていない。
「あなた達はだれ?」
ぼーっとする頭でそう訊ねる。すると、銀色の人が顔を見合わせて、何かを話し合っている。そんな彼らを無視して、身体を伸ばしてから、首を2、3度、回して頭をはっきりとさせる。
辺りは何かの機械がピコピコと音を立てて、色取り取りのスイッチが光っていた。昔の映画に出てきた宇宙船の内部を彷彿とさせるデザインだ。冗談抜きで、本当に宇宙船なのかもしれない。
「動くな!」
銀色の人がおもちゃのよう銀色の光線銃をこちらに向けている。なんだか、馬鹿にされているような気がしたので、その銃を持っている手ごと握ってやった。
「私は、桜河 唯。あなたは?」
私は銀色の人の後ろにある装置に向けて、自己紹介をした。銀色の人、2人はおどおどしていたけど、そっちに興味はない。彼らから生命を感じない。その背後にある緑色に光る脳みそに生命活動を感じていた。操っているだろう本体に私は訊ねていた。
【私の正体を見破ったのか。自己紹介をするべきなのだろうが、自分の名前はとうの昔に忘れてしまった】
頭の中に直接、語りかけてくる。漫画とかによくあるパターンだ。本当にこんなことをされると、脳に響いて鬱陶しい。早めに会話を終わらせたい。
「私たちを捕まえた理由は?」
【君たちの身体が欲しい。私は肉体を失って、脳だけの存在になってしまった。健康で強い身体が欲しいのだ】
勝手な言い分に、胸がむかむかしてくる。自分勝手な言い分だ。さっさと、話をつけてしまおう。
「残念だけど、そっちの言うことは聞けない。さっさと開放して」
【そうはいかない。こちらには、人質が――】
向こうの出方は予想済みなので、そこらにいた銀色の人を破壊して、ついでに辺りにあった機械を片っ端から壊してやった。手当たり次第にやってしまったので、重要な機器も壊して待ったかもしれない。
【き、貴様、何者だ!】
訊ねられたら答えてあげるのが世の情け。ここはこちらが何者かはっきりさせてあげよう。
「鬼。妖怪よ」
【??? 何だそれは、データに無い。だが、その強靭な肉体を私は欲しい。譲ってはくれないか】
思っていた以上の反応があった。肉体を譲って欲しいとか、随分と舐めたことを言ってくれる。そんなことを言うのなら、勝負してやろうじゃないか。
「身体を譲っても、こちらにメリットがない。ここは一勝負といかない?」
【勝負……?】
「そ、簡単な力比べよッ!」
私はそう言うと、今喋っている謎の脳みそのすぐ隣にある装置を叩いて砕いた。そして、その脳みそをケースごと引き抜いてやる。
「勝負あり、かな」
【待て、そんなのズルい。私が圧倒的に不利ではないか! やり直しを要求する!】
「……砕くわよ」
【わ、わかった。私の負けだ。お願いだ助けてくれ!】
私の脳に、相手が怯えているのが伝わってくる。私の友だちに手を出したことを心の底から後悔させてやる必要がある。
「は? それが、人にものを頼む態度なのかしら?」
【命だけは助けて下さい。なんでもしますから!】
「何でもしてくれるのなら、友だちにならない?」
相手が無言になった。無言でも伝わってくる「こいつは頭が悪いのではないか」という言葉が。だけど、相手は言葉が通じるみたいだし、友だちになれたら、結構楽しいような気がする。
【……いいだろう。その、友だちというのになってやろう。何百年もひとりでいたせいか、君とこうして話をすることに少し喜びを感じている部分もある。ただ、人の命を人質に、そういうのを頼むのは、どうかと思うぞ】
意外と話せる脳みそだった。
私たちに無礼を働いたのは許せないし、どう考えても悪者なんだろうけど、命まで奪うことはないと判断した。MF-1みたいに、問答無用で殺しにかかってくるようでもないし。
「じゃあ、みんなを開放してもらいたいんだけど、いいかな?」
【心得た。まさか、この歳で友人ができるとは思わかなった】
私と真ちゃんたちのベッドが緑色の光に包まれて、視界いっぱいに光があふれた。
∵
「ということがあって、脳みその友だちが増えました」
街灯の下で、私はそう言った。
真ちゃんが冷めた目でこちらを見つめてくる。彼女たちはあの場にいた記憶がないのだ。これは、信じてもらえない流れなのではないだろうか。
「唯ちゃん、どうしたの? 頭を打ったの? 指が何本かわかる?」
真ちゃんがおどけてみせる。
私は頭を打っていないし、指は5本あると理解している。いたって正常だ。
「唯ちゃんがそんな冗談を言うなんて思わなかったっス」
「もっと真面目な奴かと思ってたが、結構、ユーモアあるじゃねぇか」
薫ちゃんと明ちゃんには受けが良かったみたい。まあ、ユーモアじゃなくて、本当にあった話なんだけど。
【桜河 唯。私は装置の修理が終わるまで、この星にいる。好きな時に声をかけて欲しい】
脳みそが、直接脳にそう言ってきた。
「!! 今、何か聞こえなかった!?」
真ちゃんが慌てた様子で、辺りを見まわしている。明ちゃんも顔を青ざめている。
「今の、本当じゃないっスよね!」
薫ちゃんは正気を保っているのか、私に耳打ちをしてきた。
そんな友だちに私は笑ってみせた。




