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第35話 みんな集まれ お盆だよ

 夕飯のそうめんを食べ終わると、雪絵さんがおはぎをテーブルの上に置いてきた。何故、このタイミングでおはぎなのか、これがわからない。


「あまり知られてないけど、お盆でもおはぎを食べるのよー」


 お彼岸で食べることは知っていたけど、お盆にも食べるのは知らなった。甘くて美味しいから、イベントとは関係なくてもたまに食べたいくらいだ。


「ゆ、唯様! おはぎですよ!」

「この時期の甘味は貴重だわ」


 自分の小遣いを使えば、いつでも食べれるんだけど、ジンガイ荘の食事で甘いものが出てくるのは珍しい。特に、冷麺ばかりになる夏には、味のアクセントにもなり、とても貴重だった。


「そういえば、お盆だけどみんなは家に帰ったりしないの?」


 少し気になった。私は帰りたくないからここに残っているけど、他のみんなはどうなのだろう。辺りを見まわして、誰かの返答を待った。


「唯様を残して帰ることなど、滅相もない」

「私たちはいつも唯様と一緒にいるからね」


 蓮子さんと陽子さんがそう言ってくれる。彼女たちは、私を見守るために、ここに残ってくれているのだろう。なんだか、とても悪いことをしているように感じる。私が自分の力について知ったのは、つい最近。蓮子さんと陽子さんがいてくれることがとても心強い。


「私は就職しないと……」


 最近、酔っぱらっている時間が減ってきているような気がする鎌田さんがそう言った。きっと、鎌田さんなりの意地があるのだろう。就職するまで帰れないと、自分を律しているのかもしれない。


「私は……ここが家……」


 にーちゃんはどこかの会社で製造されたと聞いたことがあるけど、ジンガイ荘の方が思い入れがあるみたい。そもそも、先祖という考え方が希薄なのかもしれない。


「雪絵さんはこの辺りの出身なんですか?」

「そんなことないわ。ここから遠い山奥が私の故郷なのよー」


 きっと、ジンガイ荘の管理人として、地域指定管理組合の代わりをする人として、この場を離れるわけにはいかないのだろう。

 ここに残る人の理由の大半が私が原因な気がする。凄く申し訳ない気持ちになる。


「! 何か来る!」


 蓮子さんはそう言うと、片手に羽団扇を構え、隣にいた陽子さんは狐の耳をピンと立てていた。彼女たちはすぐにジンガイ荘の外に出た。何が起こっているのかわからないけど、変な胸騒ぎがする。彼女たちの後を追うように、外へと飛び出した。

 異変にすぐに気がついた。見上げると、月夜に何か霊的なものが複数、ぐるぐると回っていた。以前、出会ったことのある怨霊に近い気がするけど、何かが違う。


「何をぼさっとしている! 早く対応しろ!」


 調停者は長い黒髪を揺らしながら、錫杖を振るう。空を飛ぶ霊的な何かがその一撃で霧散していく。一体、何が起きているのだろうか。


「唯様、お気を付けください。悪霊です」

「怨霊とは違うけど、同じようなものよ」


 蓮子さんと陽子さんが攻撃の準備をする。蓮子さんは飛び立つと、手にした羽団扇を振るって竜巻を起こし、悪霊を打倒す。陽子さんは地面に立ったまま、狐火で悪霊を焼き払っている。

 私も何かをしなくちゃと、考えるけど、何をしていいのか、わからない。


「悪霊は初めてか?」


 錫杖で悪霊を蹴散らして、調停者が隣にやってきた。悪霊というものを出会うのは、きっと初めてのはず。私はうなずいて答えた。


「怨霊と同じようなものだが、悪意をもって人に仇なす霊だ。今回のものは、人の霊魂だ」


 人の霊魂。過去に生きていた人たちの魂。それが、突如現れて、暴れているのだ。これは、やっぱり、私のせい、なのかな。


「そうだ、あなたの妖力に刺激され、祖先の魂と共に無関係な悪い霊まで呼び込んでいる」


 悪い霊だとはいえ、もとは人間なのだろう。それを、私が力づくで退治してしまっていいのだろうか。蓮子さん、陽子さんは、きっといい霊と悪い霊の区別がついているのだろう。もちろん、調停者にも。


「……今見えている霊だけを倒せばいい。簡易的な結界だが、悪霊をあぶりだしている。あなたにも手伝って欲しい」


 そこまで言うと、調停者はまた飛び立ち、悪霊を錫杖で撃退している。

 彼女の言う通りなら、片っ端からやってしまえばいい。私が原因とか、そういう理由は抜きにして、みんなを守らなくてはいけない。

 私は足を踏ん張って、空に向けて飛び上がった。悪霊に向けて腕を振るうと、簡単に霧散した。これで退治できたのか、いまいち分からないが、一時的でも数は減らせているみたい。

 何度も飛び上がり、悪霊を蹴散らしているが、数が減らない。むしろ、どんどんと増えている。これは、周囲への被害があるのではないかと心配になってくる。


「唯様。委縮せずに、全力でやってください。唯様の妖力が、悪霊を呼び寄せます。そうすれば、辺りへの被害は少なくなります故」


 蓮子さんの言葉が正しいのなら、もっとこっちにおびき出してやればいい。私は少しだけ本気を出した。地面の上に立ったまま、腕を振るう。私の妖力が空を裂き、悪霊も一緒に切り裂いた。わざわざ飛び跳ねる必要はない。


「その調子よ、唯様。悪霊がどんどん集まってくる」


 私たち4人の力で、大量の悪霊どもを退治してく。相手はこちらにかなわないと悟ったのか、一点に集中して大きくなり始めた。力は小さくても、集まれば強い力を持てるということなのだろう。


「まずい! 合体を始めた! 早く退治しなくては!」


 調停者は錫杖を構えて、巨大になった悪霊へと襲い掛かる。しかし、相手の起こす雷が行く手を阻んだ。悪霊も怨霊と同じでたいしたことはないと、思っていたけど、こんなに手強くなるのかと、感心してしまう。


「くっ! 陽子、こっちも焼いて!」

「これ以上、大きくなると、厄介ね」


 蓮子さんはまとわりつく悪霊と戦うことで精一杯のようだし、陽子さんの攻撃も小さな悪霊が邪魔をして、巨大になった悪霊に届いていない。

 徐々に悪霊は大きくなり、どんどん膨れていく。調停者、蓮子さん、陽子さん、3人ではどうにも攻撃の手数が不足しているように見える。


「みんな、どいて!」


 私の声が聞こえたのか、巨大な悪霊と戦うのを止めて、調停者はすぐに飛び退いた。蓮子さんも、陽子さんも地面に下りてきて、身構えた。周囲に人がいないことを確認して、巨大な悪霊を切り裂くように、私は腕を振るった。

 その一撃は悪霊を切り裂くと、はるか上空にある雲さえも切り裂いた。巨大な悪霊は自らを保つことができなくなり、霧となって消えていった。周囲を覆っていた悪霊も、先ほどの一撃でほとんどかき消えてしまった。


「……」


 少しの間、誰も何も言わなかった。視線が私に集中していることがわかった。


「天狗、狐! 残りを片付けるぞ!」


 調停者の言葉に、2人はハッとして、攻撃を再開した。そして、ほどなくして悪霊の姿は見えなくなった。


「やりましたね、唯様!」

「唯様の力があれば、余裕だったわね」


 蓮子さんと陽子さんが私を持ち上げてくる。だけど、私は心のどこかで、何かが引っかかっている気がした。


「桜河 唯。あなたのおかげで、今回は事なきを得ました。ですが、全ての悪霊を除霊できたわけではなさそうです。しばらくの間、あちこちで悪霊を見かけるでしょう。そうしたら、駆除をお願いします」


 調停者は事務的に言ってきた。やはり、少し棘がある。口には出してはいないけど、お前のせいだと責められているような気がする。蓮子さんが言った言葉が脳裏をよぎる「唯様の妖力が、悪霊を呼び寄せます」つまり、今回の騒動は、私のせいだと。


「私は周囲を確認しますでので、これにて失礼します」


 調停者は頭を下げると、この場から立ち去っていった。


「嫌な奴でしたが、意外とやりますね」


 蓮子さんがそう言ってくる。今回の件で、彼女はこちらを完全に敵視しているわけではないことがわかった。それは、きっといいことだと私は思った。また、何かの怪異が起こったら、力を合わせることができる。

 だけど、こちらの敵に回ったら、とても手ごわい相手になるだろう。


「ささ、唯様。ジンガイ荘に戻って、おはぎを食べるわよ」


 陽子さんが私の手を取って、ジンガイ荘へと引っ張ってくれる。


「陽子! 抜け駆けは許しません!」


 蓮子さんも私の手を取って引っ張ってくれる。それが、今はとても嬉しかった。

 だけど、本当にこのままでいいのかな。もしも、私のせいで誰かが傷ついたら、私はどうしてしまうのだろう。考えることがとても恐かった。

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