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第32話 みんな集まれ 調停者だよ

 スマホの画面を見つめる。画面に写るのは、水着のカタログ。

 先日、水着勝負をすることが決まった。プールの日取りも決まり、それまでに最高な水着を用意しなくてはならない。こんなことになったのは、主に私の責任のような気がするけど、勃発してしまった戦は止められない。ここは、私が一番を取って、責任を果たさなくてはいけない。


「唯様、お客さんがお越しです」

「ヒェッ!」


 変なところから声が出てしまった。こんなことが以前もあったような気がするけど、あまり覚えていない。そんなことより、誰が来たのかが気になる。真ちゃんたちは水着選びで忙しいだろうし。


「なんだか、おかしな恰好した奴だったわ」


 蓮子さんも陽子さんも、知らない相手らしい。スマホの画面を消して、お客さんのもとへ向かう。



 居間にやって来ると、座布団に座って湯飲みのお茶を飲んでいる人がいた。その人は長い黒髪をまとめており、直線的な眉毛、凛々しい目つき。和装で巫女服のような服を着ている。その服の色は茶色のような地味な色をしていた。

 あまりに堂々とした佇まいにこちらが気後れしてしまう。今まで会ってきた人たちとは何かが違う。そう思わされた。


「お待たせしました」


 お客さんの正面に座る。お客さんから放たれる謎の圧力に真正面から見られない。視線を外して、先ほど入ってきた襖を見ると、蓮子さんと陽子さんがこちらを覗いている。彼女たちでも堂々と入ってくることはできないらしい。

 視線が定まらない私に警告するかのように、こちらを睨んできた。私は背筋を伸ばして、話を聞く姿勢をとった。


「あなたが、鬼の桜河 唯か?」

「え? あ、そうです」


 お客さんから妖力を感じない。ここまで近くにいれば、私でも相手が妖怪かどうかを判断できる。私を鬼と知っているからには、相手も妖怪だと思っていたけど、違うのかな。


「私が鬼だと知っていたことに、困惑しているようですね」


 心の中を読まれているのかな。私は思っていることが顔に出るらしいから、それでわかったんだろう。お客さんはもう一口お茶を飲んだ。

 妖怪に関する話なら、雪絵さんがいつも近くにいるんだけど、今日は姿が見えない。何か理由があるのだろうか。


「この寮の管理人か。彼女は用事があると言っていたな」


 バレバレだ。でも、何が目的なんだろうか。何をしに来たのか、全然わからない。こちらに何も覚らせない底知れぬ感じがする。


「さて、からかうのも終わりにしよう」


 お客さんは湯飲みをテーブルの上に乗せる。そして、眼光鋭くこちらを射抜く。


「ここ最近、この辺りに異変が多発していることは知っているな」


 心当たりがある。怨霊が増えたとか、妖怪の暴走、海外の妖怪、海坊主。私が引っ越してきてからまだ3か月しか経っていないのに、随分と多くのイベントがあった。

 以前はどうなのか知らないけど、蓮子さんと陽子さんが、怨霊を見て珍しいと言っていた。ということは、やはり最近のことなのだろう。


「はい。私も多く関わってきました」


 確かに私が来てから変わったらしいけど、それがどうしたというのだろう。


「はっきりと言わないと伝わらないようだ――」

「黙れ! この下郎!」

「それ以上は言わせないわ!」


 お客さんが喋り終わらないうちに、蓮子さんと陽子さんが飛び込んできた。お客さんにつかみかかろうとしているようだけど、華麗に躱されている。しかも、腕を取られて畳へ投げつけられていた。

 この人、滅茶苦茶強い。見ただけでその技量の高さがわかった。どれほど強いのか計り知ることができない。


「下郎、とはな。こう見えて、私は女だ。口には気を付けてもらおう」


 あっさりと蓮子さんたちがやられてしまった。今は畳に伏せており、身動き一つしていない。死んではいないと思うけど、これは少し腹が立つ。襲ったのはこちらだが、やりすぎではないだろうか。


「あなた、何をしてくれたんですか。謝ってくださいよッ!」


 私は右手を握りこむと、拳を繰り出す。全力の拳で風を飛ばしてやる。直撃すれば死ぬかもしれないけど、相手の技量なら死なない程度に防御ができるだろう。


「甘い」


 彼女は身体を少し傾けると、彼女の背後の襖が弾かれ、吹き飛んでいった。完全に回避された。最小限の動きでこちらの攻撃を見切っていた。


「地上最強の生物である鬼と、正面からやり合うつもりはない。ただ、あなたに伝えるべきことがある。ここ最近の異変は、桜河 唯、あなたがここに来たせいで起きたのだ」

「わ、私ですか?」

「そうだ。あなたの強すぎる妖力が、ここ一帯のバランスを崩した。濃い妖力は弱いものを暴走させ、強い妖怪を引き寄せる。ここらで起こった怪異はすべてあなたの存在が起こしたのだ」


 彼女の言葉は私の頭を金づちで叩くような衝撃を与えてきた。私が、今まで起こったことの原因だったのだという。もし、そうなら、ジョロウグモさん、人面瘡ができた少女、二口女さん、みんなを苦しめたのは、私だったのだろうか。


「この……いい加減なことをぬかす!」

「唯様、こいつの言うことは聞いてはいけないわ!」


 蓮子さんと陽子さんはそういうが、女性の一撃で再び黙らされてしまう。


「お前たちも原因の一つだ。彼女を甘やかすから、手遅れになるかもしれない事態になったのだ」


 私を甘やかす。蓮子さんと陽子さんの2人が。今にして思えば、彼女たちは常に私のそばにいた。それは、私を守るため、私の力が周囲に及ぶことを防ぐためだった。そう考えられる。


「私はあなたの早急な帰郷を薦める。親の元、地域指定管理組合の庇護下であるべきだ。そうしなければ、あなた自身が傷つくことになる」


 私の地元は、父の管理下にあった。それは、私という存在が周囲に影響を与えないように、管理していた、という考え方もできる。実際、地元は安全であり、妖怪に関する異変は全く起きていなかった。


「分かってきたようだな。ここは人間と妖怪が対等に暮らす土地だ。あなたのような強い存在はその均衡を崩す」

「だけど……」


 彼女の言う通りなら、何故、母はこの土地に来ることを許したのだろうか。私が父の庇護を受けていたことを知っていたはずだ。それでも、ここに来ることを許してくれたのは……。

 母は言った「昔はいつもひとりで、笑うことすらしなかったわね」と。


「私がいることで、異変が起こるかもしれない。それでも、ここにいたい。私は友だちと一緒にいたい! ジンガイ荘のみんなと一緒にいたい! わがままだとわかっているけど、ここで笑っていたい!」


 無責任なことを言っていた。そんな言葉で周囲を危険に巻き込んでしまうことを正当化できないとわかっている。それでも、ここにいたかった。


「よくぞ言われました、唯様!」

「そう言ってくれると信じてたわ!」


 畳に倒れていたはずの2人がいつのまにか、私の隣に立っていた。彼女たちは私がここにいることを肯定してくれる。いっぱい迷惑をかけたのに。


「こうなることはわかっていた。そうでなければ、ここの管理人が地域指定管理組合の真似事はしないだろう」


 そう言った彼女から威圧感が消えた。まるで、この展開がわかっていたかのようだった。


「私はその為にやってきた。人間と妖怪が共に暮らすために調停する、調停者としてな」


 私は試されていたというわけだ。ここで故郷に帰るなら、それでよし。帰らないのなら、監視下に置く。これは、警告だったのだ。でも、私はいつまでも試されるのだろう。


「私はしばらく、この地域に滞在する。もし、今以上に異変を起こすようになれば、強制送還させてもらう」

「……わかりました。私はみんなと一緒にいられるように、がんばります」

「力を入れ過ぎるのがいけないのだが……まあ、いい。今日は挨拶だ。もう、出会わないのが一番いいのだがな」


 調停者と名乗った女性は居間から立ち去ろうとしている。蓮子さんと陽子さんは舌を出したり、顔を歪ませたりして、相手を馬鹿にしているた。だけど、調停者さんの一睨みで真面目な顔に戻っていた。

 調停者はそのまま、ジンガイ荘から去っていった。


「蓮子さんと陽子さん、ありがとう。私、がんばるよ」

「お任せください」

「私たちが何とかするわ。安心して」


 彼女たちが今日はとても頼もしい。こんな素敵な友人がいてくれて、本当にうれしい。

 だけど、セクハラをするのは止めて欲しい。

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