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第31話 みんな集まれ 終業式だよ

 夏がやってきた。

 補習を受けるか否かが決定する重要イベント、学期末テストは無事乗り切ることができた。蓮子さんのスパルタ教育のたまもので、学力の向上に成功。真ちゃんは赤点回避、私と薫ちゃんも、平均点に迫る好成績を収めた。


 今学期最大の山を乗り越えた私たちに待っているのは、夏休みだった。夏とはこの為に存在していると言っても過言ではない。それがこれから始まるのだ。


「んー! 終わったー」


 終業式を終え、真ちゃんは身体をほぐすように伸びをした。


「校長先生の話してなんであんなに長いんスかね」

「ほら、校長先生、唯一の出番だから。張り切っちゃうんだよ」


 私たち3人は玄関を出て、校門へと向かっている。学校という狭い檻から抜け出した私たちは、その解放感でウキウキしていた。雑談を交わしながら校門から出て行こうとすると、声をかけられた。


「おう、今、帰りか?」


 声の方に視線を向けると、壁に寄りかかっている明ちゃんがいた。茶色の髪とポニーテールは相変わらずで、夏用の白いセーラー服を着ている。


「明ちゃん、こんにちは」


 挨拶すると、「オッス」と返事をしてくれた。


「私たち、さっき終業式終わったばっかなのに、もういるの? 学校行った?」

「終業式ぐらいはサボらねーよ。うちの学校は早上がりなんだよ」


 明ちゃんは手に持っていた鞄を持ち上げて、見せつけてきた。真偽は不明だが、ここは素直に言葉を信じよう。


「それよりさ、これから、プール行こうぜ!」


 明ちゃんがノリノリで提案してくる。ちょっと気が早いと思うけど、海坊主の娘だから、すぐにでも泳ぎたいのかも。

 よく見ると白いセーラー服から、黒い下着のようなものが透けて見える。もしかして、明ちゃん、プールに行く気満々で、下に着てきてるのかな。これは形と色からスクール水着に違いない。

 これは、気が早いというレベルではない。もう、確定事項だったんだ。


「そんなことを言われても、私たち、水着もってきてないよ?」


 真ちゃんの言う通り、水着を持ってくる理由がなかった。明ちゃんみたいに計画立ててないし。


「そ、そうなのか。じゃあ、家に帰って取ってくるとか、どうだ?」


 明ちゃんは泳ぐことしか頭にない。泳ぎたくてそわそわしている。そんなことを言われても困るんだよね。


「家にっていても、水着なんて持ってないっスよ」


 そう、琴対馬高校にはプールがない。近くにそういった施設もない。だから、体育で水泳の授業はなかったのだ。だから、水着は所持していない。


「え? そうなのか? でも、中学校で使ったスクール水着とか、あるんじゃねーか?」

「高校生になって、スクール水着って言うのは、ちょっと……」


 真ちゃんの言うことは理解できる。私もプールに行くなら、もっとお洒落な水着を着たい。4人揃ってスクール水着でプールに行ったら、奇異な目で見られるのではないだろうか。想像すると、学校の行事みたいになっちゃうので、ちょっとお断りしたい。


「だ、駄目なのか? スクール水着は……」


 肩を落とす明ちゃんを見て、はっと気づく。明ちゃん、下にスクール水着を着てる。これは、ちょっと可哀想な流れだ。ここはフォローをしなくては。


「そんなに悪くないと思うな。学校で指定されるくらいなんだから、機能的ではあるんじゃないかな」

「やっぱり、唯ちゃんはスクール水着がいいんっスね」

「まって、『は』ってどういうこと? 『やっぱり』とか!」

「ははは、冗談っスよ」


 本当に冗談なのか、気になるところだけど、本当かどうかを確認するのが怖いので、詳しく聞くのはやめておこう。


「そうだ。みんなで水着を見に行かない? 買うかどうか別にして、プールか海に行くなら必要でしょ。お金が足りないから見るだけになっちゃうけど、今後の参考にどうかな」


 真ちゃんが真っ当なことを言っていることに、動揺してしまう。だけど、悪くない提案だと思う。明ちゃんも、スクール水着以外に選択肢が増えるだろうし。


「私は賛成かな。見るだけならお金もいらないし」

「あたしも賛成っス」


 明ちゃんは「しょうがねーな」とか言ってるけど、まんざらでもない様子。全会一致で水着を選びに行くことに決まった。



 やってきたのは、少し離れた場所にある総合スーパーの2階。高校生にとって、お手軽な値段と、ある程度、無難なデザイン。専門店に行って、奇抜なものを買わされるよりはいいと思う。


「思ったより、種類があるんスね。ちょっと舐めてた」


 私たちは店内を歩きながら、水着を物色する。

 真ちゃんがそのうちのひとつを手に取って、身体にあわせてみる。黄色を基調としたビキニタイプだ。真ちゃんの活発なイメージから、似合っていると思う。


「どう? これなら、人前でも恥ずかしくないよね?」

「……水着はいいかもしれねーが、着る方のお腹が出っ張るんじゃねーのか?」

「は?」


 明ちゃんは冗談で言ったような風で、笑顔をしている。だけど、それはちょっと言っちゃ駄目な部類の言葉。


「明ちゃんには、こいつがお似合いだと思うなー」


 真ちゃんは選んだ水着を明ちゃんの押しつけてきた。それは、ほとんど紐だった。スリングショットと呼ばれる日本ではあまり着られないタイプだ。というか、なんでこんなのがスーパーで売ってるの?


「なんだよこれ、こんなの着てたら、痴女じゃねーか」

「終業式すぐにプール行こうなんて言い出すから、そうなんじゃないかって思っただけだけど」

「あ?」

「は?」


 この流れは不味い。このままだと、楽しい夏休みを送れなくなっちゃう。ここは、薫ちゃんに助けを求めるしかない。辺りを見まわして、薫ちゃんを探す。


「唯ちゃん、これとかいいっスよね」


 薫ちゃんが持ってきたのは、囚人服のように横縞のついたワンピースタイプのものだった。このスーパー何でもあるなと感心してしまう。


「それもいいけど、もっと挑戦してみてもいいと思うな」

「そうっスかねー」


 また、水着を探しに薫ちゃんが奥に行ってしまう。助けを求めるはずだったのに、これはピンチだ。

 視線を向けると、2人の間で火花が散っている。これは一触即発だ。私が何とかしないと。


「まあまあ。他の水着も見てみようよ。別のいい水着が見つかるよきっと」


 何とか宥めようと2人の間に割って入る。これで、機嫌が直るといいけど……。


「唯ちゃんはここの水着じゃ大きすぎない?」


 え?


「子ども用の売り場は向こうだぜ」


 は?

 あれ? これって、喧嘩を売られてるのかな。いや、確実に喧嘩売られてるよね。


「いやいや、さすがに、子ども用の水着は着ないからね?」

「似合うんじゃない?」

「絶対、似合うぜ」


 ぷつん、と、何かが切れた。


「はっ! 私も大人の水着着るし、めっちゃセクシーなの着れるし!」

「私はスタイルいいから、もっと格好いい水着選ぶから!」

「俺は痴女じゃねーってとこ、見せてやるぜ!」


 私の心は対抗心で燃え盛っている。これはもう止められない。

 別の水着を持ってきた薫ちゃんが呆然とこちらを眺めている。もう、手遅れだと悟って、止めようともしない。


「「「誰が1番似合う水着を選べるか、勝負だ!」」」


 私たちは叫んでいた。これは、女として負けられない。次のプールで雌雄を決するしかない。ありえない。


「「「本番のプールで決着だ!」」」


 戦いのゴングが鳴った。

 女をかけた、一世一代の大勝負が開幕したのだ。



 後日、売り言葉に買い言葉で応戦してしまったことを後悔して悶えてしまった。でも、魅せるしかない。私が選ぶ水着で!

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