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第28話 みんな集まれ お見舞いだよ

 ジンガイ荘から遠く離れた場所にある、大きな病院。その一室に私たちはやってきた。

 病室につながる白い扉にノックをする。すぐに返事があったので、扉を開いて中に入った。


「唯様! まさか、お見舞いに!? これほどうれしいことはございますまい……」

「いらっしゃーい」


 感動してむせび泣く蓮子さんと、そのベッドの横にある椅子に座ってでリンゴの皮をむく陽子さんがいた。なんだかんだ言っても、陽子さんは蓮子さんが無事で喜んでいるみたい。


「傷はもう痛まないかな?」

「はっ! もう大丈夫であります!」


 蓮子さんが背筋を伸ばして敬礼みたいなことをしてくる。よく意味が分からなかったけど、微笑んでやりすごした。


「格代先輩、大丈夫だった?」

「傷の具合はどうっスか?」


 真ちゃんと薫ちゃんも一緒にお見舞いにきている。2人は蓮子さんにあまりいい感情を抱いていないと思っていたけど、心配はしていたみたい。


「もう平気。妖怪だから、傷の治りがいいらしいのですよ。退院も目前」


 蓮子さん、そんな気軽に妖怪とか、言っちゃだめ。今は真ちゃんもいるんだし……でも、よく聞いていなかったみたい。まったく動じていない。


「――お見舞いはいいのですが、そちらの白セーラーの娘は?」


 蓮子さんが差す方向には、衣替えで夏用になったセーラー服を着た明ちゃんがいた。何故か、彼女もついてきた。あまり縁がないと思っていたけど、一緒に行きたいと申し出てきてくれた。ぶっきらぼうだけど、結構優しいみたい。


「ああ、俺は潮崎 明。けが人がいるって聞いて、心配になってな」

「! お、俺っ娘! いつの間に、こんな逸材を増やしたのですか!」


 意味の分からない戦慄する蓮子さんの口に、陽子さんが剥いたリンゴを突っ込んでくる。何度も咀嚼して飲みこんで、そのすぐ次にまたリンゴをねじ込んできている。


「ふひはま、ひっはひなにほの……(唯様、いったい何者……)」


 蓮子さんがしゃべる間も陽子さんが執拗にリンゴを口に入れようとしてくる。蓮子さんはそれを押し退けながら、話しかけてくるんだけど……よくわからない。


「彼女は、海坊主の娘さんっス」


 蓮子さんの言葉を理解したのか、薫ちゃんが代わりに教えてあげていた。


「ああ、あの、民衆にパンツを披露していた彼女ですな」

「はあ? 何言ってんだこの野郎!」


 殴ろうとする明ちゃんの拳を掴んで止めてあげる。相手は怪我人なんだから、ある程度は優しくしてあげないといけないと思う。蓮子さんも調子に乗っている感じはするけど。

 それはそれでいいとして、実はずっと気になっていることがある。リンゴを剥いている陽子さんをじっと見つめる。


「陽子さん、そのリンゴとナイフ、ちょっと貸して」

「唯様? 別にいいですけど、何をするの?」


 陽子さんからリンゴと果物ナイフを受け取る。実はリンゴを切り分けて、食べさせてあげるっていうの、一度やってみたかったんだよね。

 まず、皮を剥かないといけない。果物ナイフをリンゴに突き立てる。


「え? 唯ちゃん、何してるの?」

「え? 皮を剥こうかと」

「え? なんでリンゴに対して垂直にナイフを突き刺してるんスか?」

「え?」


 真ちゃんと薫ちゃんが何を言っているのかわからない。このナイフが刺さった状態で、リンゴを回してやれば、きれいに皮が剥けるはず……あれ? リンゴがうまく回らない。少し力を入れてみよう。

 パキンという、軽い音が聞こえた。


「おい! 何やってる! ナイフの刃が飛んだぞ!」


 明ちゃんが大声をあげてきた。どうにも、このナイフは駄目みたい。できそこないだ。

 ぐしゃと、今度は何かが潰れる音が聞こえた。


「ゆ、唯様! リンゴが! リンゴが!」

「砕けてるわ! 力を入れ過ぎよ!」


 手の中には、砕けて果汁を垂れ流す哀れな姿のリンゴがあった。


「……はい、蓮子さん、あーんして」

「待って! その欠片、私の口より大きいんですけど!?」


 蓮子さんの口にリンゴをねじ込んでいると、こんこんと、誰かがノックをする音が聞こえた。喋れない蓮子さんにかわって、陽子さんが返事をした。


「皆さん、いらしてたんですね」

「……来た……」


 扉から鎌田さんとにーちゃんが入ってきた。珍しい組み合わせだ。鎌田さんがにーちゃんを連れてきてくれたのかな。


「あ! リバースの人っス!」


 薫ちゃんが鎌田さんに対して過剰な反応を見せる。初対面でゲロを吐かれたら、当然の対応ともいえる。


「今日は酔ってないんですね」

「! 酔ってることが、普通なの!?」


 初対面の真ちゃんが声をあげた。鎌田さんの印象を悪くしてしまった気がするけど、自業自得だから仕方ないよね。


「唯ちゃん。私はいつも酔ってるわけじゃないんです。最近は何かとイベントがあって、飲む暇がなかったんですよ」

「よかったね、鎌田さん」

「よくないですよ! お酒を飲む暇がないってことは、就職活動もできてないってことなんです。このままでは、無職の期間が増える一方。質問で、この間は何をしていたんですかって、聞かれたらどう反応すればいいんですか!」


 だったら、普段から真面目に就職活動したらいいのに。


「唯ちゃん……」

「どうしたの?」


 にーちゃんが服の袖を引っ張ってくる。何か言いたいことがあるみたい。


「……おねーちゃんのこと……」


 にーちゃんの前に作られたという戦闘型アンドロイド。激闘を繰り広げたばかりだ。


「雪絵さんが……各所に呼びかけて……くれた……おかげで……おねーちゃん……私が修理しても……いいって……」

「本当! よかったね、にーちゃん!」


 MF-1に関しては、さまざま利権が複雑に絡まっており、その修理は難しいはずだった。それを、雪絵さんが何とかしてくれたということなのだろう。雪絵さんの人脈ってどうなってるのか気になる。


「ん? マルチ屋さんって、アンドロイドでしたよね。姉なんかいたんスか?」

「それについては、話が長くなるんだけど……」

「「アンドロイド!?」」


 そういえば、真ちゃんと明ちゃんはにーちゃんのことを知らなかった。ここはどう説明したらいいのかな。


「ほら、よく見て欲しいっス。このヘッドフォン、実はアンテナなんっスよ」

「おおーすごい」

「何だこれ、格好いいな!」

「……」


 薫ちゃん、真ちゃん、明ちゃんがにーちゃんを囲んで楽しそうに話をしてる。中心でにーちゃんがじっとしてるけど、親睦を深められたらいいな。


 カタカカタ……


 何かが小刻みしているような音が聞こえる。いったい何の音かと思って、辺りを見まわす。すると、蓮子さんを押さえている陽子さんが視界に入った。


「唯様! ちょっと、蓮子を押さえるの手伝ってちょうだい! なんか、にーちゃんを見てから様子がおかしいの!」


 きっと、にーちゃんを見たことで、MF-1の銃で撃たれたことを思い出したみたい。随分と酷い怪我だったみたいだし、トラウマに近いものになったのかもしれない。

 ここは陽子さんと一緒に押さえてあげよう。


「ちょっと、蓮子、おちついて、あれはにーちゃんよ!」


 かなり恐がっているみたい。ここは私が励ましてあげよう。


「うん。大丈夫だよ、蓮子さん。前みたいに独断で追いかけた上に、下手を打って銃撃を食らった挙句、地面に落ちていって、いいところが全くなかったけど、今はMF-1もいないし、安全だよ」

「うわーん! 唯様のサディストー!」


 蓮子さんが手を振り払って飛んでいく。窓ガラスを突き破って病院の外に逃げ出していく。


「唯様……さすがにそれは、ひどいと思うわ」

「唯ちゃん……」

「これは擁護できないっス」


 何か、酷いことを言ってしまったらしい。そんなことを言ったつもりはなかったんだけどなぁ。


 ちなみに、飛んで逃げた蓮子さんは傷口が開いて、退院が長引いたみたい。何が悪かったのかな。

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