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第27話 みんな集まれ お姉ちゃんだよ(後編)

 私たち、ジンガイ荘のみんなは、病室の前に集まっていた。

 ICU、集中治療室。

 手術を終えた蓮子さんは、ここで治療を受けている。医師の話では「今のところ命に別状はない」らしい。


 MF-1の銃撃に倒れた蓮子さんは、遠くの大きな病院に搬送されて、手術を受けた。この日本で、銃を受けてできた傷を治療できるのは、それなりの施設が必要だった。


 目の前で陽子さんは顔を伏せて壁に寄りかかっている。相棒である蓮子さんがこのようなことになって、かなりショックを受けているようだ。

 雪絵さんは諸々の説明のために、この場にいない。鎌田さんは陽子さんを気にしているみたいで、声をかけようとしては、何を言えばいいのかわからない様子で、やめてしまう。

 にーちゃんはICUの扉をじっと見つめている。


 私は、拳を握り締めて、じっとしていた。自分のせいで、蓮子さんは傷ついた。自分には力があると、過信していた。その結果がこれだ。でも、このままでいいなんて、思っていない。


「行こう」


 私はにーちゃんの手を取った。にーちゃんも察しているようで、うなずいてくれた。

 まだ、終わっていない。

 ここに留まっていれば、またFM-1が襲ってくる。徹底抗戦以外、ありえない。


「ここは私に任せてください」


 鎌田さんはこちらの行動をわかってくれている。無言のままの様子の陽子さんを見ていてくれる。

 私はそのまま、病室の前から離れた。



 病院から最も近い駅から電車に乗る。ここを襲われたら大惨事だが、空を飛ぶMF-1に対抗するには、どうしても「例の場所」に行く必要があった。


「目的の……場所……そんなに……遠くない……」


 にーちゃんの言葉にうなずく。ここでMF-1と出会わないことを祈りながら、にーちゃんの手を強く握った。


 無事に、目的の駅に到着した。ここからはタクシーを使おうと駅を出た。タクシー乗り場へ行くその短い距離で、眼前を銃弾が雨のように降り注いできた。

 空を見上げれば、MF-1がそこにいた。


「見つけたぞ! MF-2!」


 辺りは何が起こったのかわからずに、人々が騒然していた。まだパニックにはなっていない。ここから逃げれば、ここへ攻撃する必要がなくなるはずだ。


 私は咄嗟ににーちゃんを背負った。思った以上に重量があったけど、今は気にしている暇はない。私はそのまま道路を駆けだした。


 私が本気で走れば、車よりずっと早く走れる。だけど、道に人がいると、どうしても避けながら走ることを要求される。だから、車道へ飛び出した。

 私が急に飛び出したことで、走行していた自動車が急ブレーキをかけてきた。心の中で謝りながら、私は走り始めた。


 車道を走る車は時速60キロ程度。この程度では遅すぎる。空を飛ぶMF-1の銃撃の的になってしまう。最低でも時速80キロ以上が必要だった。

 道行く自動車の合間を縫いながら、速度を高めていく。その最中も銃弾が襲ってくる。たまに、無関係の自動車に銃撃が当たったりしていたようで、バンパーに使われている薄い鉄を弾丸が突き抜ける音が聞こえてくる。


「しっかりつかまってて」


 このままでは被害が増える一方だ。私は走るのをやめてジャンプをした。MF-1の狙いを地上から外すためだ。

 着地したら、すぐにジャンプを繰り返して、目的地を目指す。


「ここから……南西……20キロ先……そこに……行って……」


 にーちゃんからの案内で、方向を変更しながら、飛び跳ねる。

 ビルが立ち並ぶ景色から、背の低い住宅が並ぶ景色に変わり、最終的には岩が剥き出しになった山の中腹に着地した。ここが、目的の場所だった。


 採石場。どうしても、ここに来る必要があった。

 人気が少なく、辺りも広くて見晴らしがいい。どれだけ暴れても被害は少ない。ここなら全力でやれそうだ。


 ここで働いている人たちが、空から降ってきたた私たちを見て、驚いていた。だけど、MF-1からの攻撃で、一変する。どこから攻撃されているのか、わからずに右往左往する人たち。心の底から申し訳ないという気持ちになる。


「おねーちゃん……私は……ここにいる……」


 周囲を攻撃するMF-1がこちらを捉えたのがわかる。私は咄嗟ににーちゃんを背中からおろすと、2機の間に割り込んだ。


「また、人間か! 貴様に用はない!」


 短気なMF-1がこちらに銃口を向けてくる。だけど、今度はやられっぱないしじゃない。足下の石を拾って、思いっきり投擲してやる。高速で射出された石はMF-1の横をすり抜けて、飛んで行ってしまった。


「外れた!?」


 投石で宙に浮くものを的にしたことがなかった。意外と当てるのが難しい。だけど、ここには無数の石がある。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるをやってやればいい。


「き……貴様! 何者だ!」

「前にも言ったよね、鬼だって!」


 こちらを向いていたMF-1の機銃に、投げた石が命中し、粉砕した。その衝撃で、バランスを崩したのか、地面に向かって落下を始めた。着地することもできずに、砂埃を起こしながら墜落した。


 MF-1は電池が切れそうなおもちゃのように、かくかくと動きながら、立ち上がった。このまま突っ込んで粉砕することはできたけど、そうはしなかった。にーちゃんが私の肩に手を置いてきたからだ。


「おねーちゃん……どうして……私を……狙うの……?」

「決まっている! 貴様が憎い! 人間と共に腑抜けた暮らしをしている貴様が憎い! 私が、どうして! 何で、人殺しなんて、しなくちゃいけない!」

「どうして、私がそんなに憎いの?」


 にーちゃんが叫んでいるところを初めて見た。


「そうだ! 貴様が人間といっしょにいるから! 貴様だけが!」

「おねーちゃんも、私たちと一緒に暮らしたいんじゃないの?」


 MF-1が少し動きを止めた。そして、片膝をついた。地

 私はにーちゃんの話を聞くことに徹しようと思ったけど、状況が変わった。私はすぐににーちゃんの前に立ちはだかった。


 MF-1の地面につけていないもう一つの膝が、蓋のように開いた。そこから、激しい煙を吹き出しながらミサイルが放たれる。発射されたミサイルは空を切るようなスピードで突っ込んできた。私は咄嗟に両手で押さえつける。だが、時限式の信管は私の手の中で大爆発を起こした。


「ははは! 馬鹿なやつだ! MF-2! 貴様は直接殺してやる!」


 爆風を突き抜けてMF-1がにーちゃんを襲う。

 そこを、私の拳がお腹から背中へ貫いた。


「ガ……ガ……M……Fー2……ガが……きさ……ま……を……」


 MF-1は私がお腹をぶち破ったことで、その機能を停止した。

 殴った箇所がよかったのか、もともと、爆発するような造りではなかったのかわからないが、その姿は残したままだった。


「ごめん、にーちゃん。お姉ちゃんを……」

「ううん……ありがとう……唯ちゃん……」


 私はMF-1のお腹から手を抜いて、抱きかかえた。完全に停止しているようで、瞳から一切の光が消えていた。


「おねーちゃんは……いっぱい……悪いことをしてきた……許されないと思う……」


 にーちゃんは近づいてきて、MF-1の顔に触れる。


「もで……きっと……人間と一緒にいたかった……それだけだった……」


 私はにーちゃんの顔を見た。涙が、流れているように見えた。そんな機能があるかどうかはわからない。


「私……おねーちゃんを治したい……きっと……そうしてあげるのが一番だと……思う」


 きっとそれは、言うほど簡単なことではないだろう。彼女は軍事兵器だ。日本でもかなり暴れた。蓮子さんも傷ついたし、他にも多くの怪我人が出ただろう。


 今はそういう事を考えるのをやめよう。にーちゃんにはお姉ちゃんと一緒に暮らしたいと思っていることが、重要なことだと思う。もし、それが叶えば、素敵なことだ。


 私たちの耳にパトカーのものだと思われるサイレンが聞こえてきた。

 MF-1が起こしたこの騒動は、一応、幕が下りた。

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