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第26話 みんな集まれ お姉ちゃんだよ(前編)

 季節は夏に近づき、クーラーのきいていないジンガイ荘は蒸し暑い。つい、身体が冷たい水分を求めてしまう。

 私はジュースを飲むために台所までやってきた。そこには、私と同じ考えであろう、にーちゃんが冷蔵庫を漁っていた。


「今日も暑いね。いつもの冷却水?」

「うん……。今日は……オーバーヒート……気味……」


 にーちゃんはいつも通り「養老ようろうの天然水」と表示されている冷却水を取り出すと飲みだした。

 私も何かないかと探していると――

 どぉん、という激しい音とすぐ横の壁が破壊された。そこを突き抜けるひとつの影があった。

 それは、右手を伸ばしながら、圧倒的なスピードでにーちゃんに突撃した。その影はにーちゃんを喉輪をして、壁に釘づけにした。


「にーちゃん!」


 その影はにーちゃんと同じ身長をしており、外見が酷似している。しかも、にーちゃんが頭につけているヘッドフォン型のアンテナが付いている。というこは、彼女もアンドロイドかもしれない。


「見つけたぞ! MF-2!」


 彼女は怒りの形相でにーちゃんを睨みつけている。これは、尋常じゃない。早く助けないと。

 私は彼女の右手を握ると、強引ににーちゃんから引きはがした。

 自由になったにーちゃんは床にしゃがんで、苦しそうにしてる。


「おねーちゃん……」


 その言葉に、驚いて、握っていた手をゆるめてしまう。その隙に彼女はこちらから距離をとると、再び右手を前に伸ばしてきた。

 すると、手首と肘の間が突然折れて、中から黒い銃口ができてきた。私ははっとして、にーちゃんの前に飛び出して、かばうように立ちはだかった。

 黒い銃口は激しい音を立てて、火花が瞬いた。鉄の塊が私に突き刺さってくるけど、耐えられない程度じゃない。


「な、何者だ? 貴様……」


 腕の中に隠したマシンガンをすべて防がれて、相手は動揺しているみたい。私は仕返しとばかりに、右手を伸ばた。今度はこっちの番だと姉と呼ばれたアンドロイドにのど輪を食らわしてやった。


「あなたは誰? どうしてこんなことをするの?」


 姉のアンドロイドは驚愕の顔をしてこちらを睨みつけてくる。その様子にまた手が緩んだ。アンドロイドは私の手を振り払うと、背中にあるジェットを吹かし、宙に逃げた。


「MF-2! 私は貴様を許さない! 私が外国で人殺しをしている間に、貴様はのうのうと人間と暮らしやがって! ただ、生まれが早いという理由では私は……! 私は!」


 アンドロイドがしつこく銃口をにーちゃんに向けてくる。私はジャンプをしてその銃口を無理やり動かした。


「貴様は、一体、何者だ! こんな人間に自分を守らせるなんてな! よほど大事にされているようだ! 私は貴様を壊すまで絶対に許さない!」


 アンドロイドは捨て台詞を吐くと、どこかへと跳んでいった。見事なまでの捨て台詞だと少し感心してしまった。


「おねーちゃん……どうして……」


 にーちゃんはぽつりとつぶやいた。




 今回の事件をジンガイ荘で話し合うことになった。全員、居間に集まっている。


「……そう、にーちゃんのお姉ちゃんがねー……そうだったんだー」


 話を聞いた雪絵さんが唸っていた。

 台所を破壊されて、怒り心頭といった様子だったけど、事情を聞いたら、少し正気を取り戻したみたい。

 今回のあらましはにーちゃんより先に作られたアンドロイドMF-1がにーちゃんの境遇を羨んでのことだったみたい。


 MF-1は戦闘兵器として作られ、紛争地域に派遣されたらしい。そこで何があったのかはわからないけど、きっと過酷な戦場だったに違いない。

 にーちゃんを作った会社は、戦闘兵器の製造したということで、世間から大バッシングを受けて、事業を大幅に見直し、人間と同じアンドロイドを開発することになった。それで作られたのが、MF-2、にーちゃんだ。


 MF-1はにーちゃんの存在を知って、このジンガイ荘まできて、にーちゃんを破壊しに来た。


「重火器を使うとは……私たちでは敵いませんな」

「悔しいけど、銃はさすがに無理ね……」


 いつも強気な蓮子さんと陽子さんも、今回は慎重になっている。2人は妖怪としては上位に入るほど強いんだけど、さすがに戦闘用アンドロイドを相手にするのは、難しいみたい。


「アンドロイド相手じゃ……私の鎌じゃ役立たずですね」


 鎌田さんは珍しく、酔っぱらっていない。先ほどの戦闘で酔いが吹き飛んだのかもしれない。かまいたちは天狗や妖狐と比べると、ランクが下がる。蓮子さんと陽子さんが手をこまねいている現状、MF-1と戦うのは、ちょっと難しいと思う。


 雪絵さんも強い妖怪だけど、弾丸相手では分が悪い。

 やはり、ここは鬼である私の出番だ。


「私がにーちゃんを守ります。早くMF-1を退治しないと!」

「お願い……おねーちゃんを止めて……」


 にーちゃんのお願いに、力強くうなずいた。




 私とにーちゃんは場所を移動する。どこか人がいない広い場所を探している。

 MF-1を止める作戦は簡単でシンプルだ。にーちゃんと囮に使う。相手のあの怒りようから、本人がにーちゃんを襲うに違いない。

 そこで、私が割り込んで、MF-1を叩き潰す。台所であった戦闘と同じだが、これが最善のような気がする。


 ちなみに、すぐに私だと見破られないように、着替えてきた。活動しやすい灰色のシャツに、グレーの綿パン。都市迷彩の効果を狙ったけど、あまり意味がないかもしれない。

 後は、蓮子さんから借りたハンチング帽に大きいサングラス。これは傍から見たら怪しさ満点だが、私が先ほど戦った人間であることを隠すことができればいい。


 そんな組み合わせで、道を歩く。広い場所が必要なんだけど、そこに行くまでは、どうしも人気のない狭い路地を進むしかない。と――


 いきなり、空から鉛の弾が降ってきた。私は抱きかかえるようにして、にーちゃんを守る。囮作戦は成功したとはいえ、襲撃が早すぎる。これは想定外だ。


「おねーちゃん……やめて……私たちが……争う必要なんて……ないよ……」

「五月蠅い、黙れ! 貴様には分からんだろう。私が何人の人間を殺してきたか、何発の銃弾を受けてきたか! 貴様なんぞに! 貴様なんぞにわかられてたまるか!」


 MF-1の一方的な言い分が続く。確かに、私たちは彼女の気持ちはわからないと思う。だからと言って、殺人を肯定していいわけがない。


 私は投げるのに手ごろなものはないかと探して、被っていたハンチング帽を思いきりぶん投げてやった。だが、すんでのところで、回避されてしまう。だが、相手の装甲に傷をつけられたみたい。


「貴様! ただの人間じゃないな! 何者だ!」

「私は……鬼だ!」


 今度はサングラスをぶん投げる。こちらは途中で壊れて相手に届かない。蓮子さんからもっと丈夫なものを借りればよかった。


「ふざけるな!」


 彼女は銃口をこちらに向けると、ばらまくように射撃をしてくる。範囲が広く、このまま防ぐのは難しいかもしれない。

 そう思っていると、目の前が燃え上がり、鉛の弾の威力が弱まった。


「そうはいかないわ! 唯様だけに、苦労はさせないから!」


 陽子さんが耳と尻尾を生やして、狐火の壁を作り出している。


「ささ、今のうちに、妖術で唯様の身体能力を向上させるわ。だから、直接飛んで行ってぶん殴って!」


 陽子さんがそう言い終わると、身体から力があふれてくる。これなら、ジャンプであの空まで届くような気がしてくる。私は思いきり力を溜めて、上空に向かって飛び上がった。地面のアスファルトを破壊しながら、こちらも弾丸になったようにMF-1の高さにまで届く。


 一発は当てられた、手でガードしたみたいだけど、無事ではないはずだ。もう一度蹴りを繰り出すが、それは避けられてしまう。やはり、上空を飛ぶ相手には分が悪い。

 勢いをなくして落ちるだけの私に、銃口が向けられた。腕を交差させて、相手の攻撃に備える――が、攻撃はこない。


「ここは、私にお任せあれ!」


 私の視界に蹴りを繰り出す蓮子さんが入った。翼をもつ彼女なら、私より適役だったのかもしれないと、思ったのは一瞬だった。

 私は地面に着地して、下から蓮子さんが戦うのを見上げた。すぐに、銃声が聞こえたと思ったら、蓮子さんが飛ぶ力を失って、一直線に地面へと向かって落ちていく。

 私は咄嗟に地面を蹴って、蓮子さんを抱きかかえた、


「くっそ! 邪魔ばかりしやがって! 絶対に貴様は破壊してやる!」


 それだけ言い残すと、MF-1はさらに上空へと飛び上がると、逃げていった。

 それを見送ったあと、蓮子さんに視線を向ける。その胸からじわりと赤い染みが広がっていく。私の手に彼女の血がべったりと付着していた。

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