第24話 みんな集まれ 害虫対策だよ
ジンガイ荘の居間に、住民が勢ぞろいしている。
蓮子さんと陽子さんは体育で使うジャージを着てる。にーちゃんはいつもと同じに見えて、若干首元が緩くない。鎌田さんはTシャツにエプロン付けてる。
雪絵さんの呼び出しだったんだけど、何が起こるんだろう。他のみんなは何かを察しているみたいだし。
襖が開いて、台所から雪絵さんが登場する。割烹着に三角巾を装備していて、いつもとは様子が違う。何かすご味がある。
「この時期に全員集合ということは、わかってるわよねー?」
「「「ハッ!」」」
み、みんなが一斉に敬礼した!
わたしも遅れながら同様に敬礼する。
「よし、これより、AMOを開始するわよー」
あも……?
これから何がはじまるんです?
「唯様は初めてでしたね」
「AMOよ。つまり、ムカデ対策ね」
蓮子さんと陽子さんの説明に、うなずく。ここは、センティピードじゃないのかな。
「同名のゲームがあるんですよ」
今度は鎌田さんが耳打ちしてくれる。今日は珍しく酔っぱらってない。こうだと、とってもいい人なんだけどな。
なんにせよ、やるべきことは大体わかった気がする。
「先ず、蓮子ちゃんと陽子ちゃんはこの噴霧式害虫駆除薬をつかってね」
「「イエス、マム!」」
「次に鎌田さんは、庭の草刈りをお願いねー」
「はい、わかりました」
「にーちゃんは、いつもの防虫剤をお願いー」
「ん……わかった……」
「それで、初参加の唯ちゃんにはこれねー」
雪絵さんから何かのスプレーを受け取る。
なんかラベルに危険色がふんだんに使われてるんだけど。
「これはね、窓のサッシや扉の隙間に使うのよー。そうするとね、奴らは入ってこないの」
最後、真顔になるの止めてください。とても怖いです。
「それではみんな、お願いねー」
笑顔だけど、目が笑っていない雪絵さんの合図で、各々が仕事に向かって行動をはじめた。
自分の部屋である「鬼の間」はスプレーが終わったので、別の部屋へ移動する。
すぐ近くの「天狗の間」にお邪魔する。
「おや、唯様。この部屋にスプレーしてくださるのですな」
蓮子さんは背中の羽をはばたかせて、天井にある火災報知器に何かしている。
「なにしてるの?」
「これは、ブザーが誤作動しないように、カバーをかぶせております。噴霧とはいえ、細かい粉なのです。ですから、電化製品にも同様にカバーが必要なのですよ」
なるほどと、感心するが、部屋の中に対しては感心しない。
ところかまわず女児の写真が貼りつけられている。しかも、その中に私の写真もちらほら入っている。これは、趣味の域を超えてる気がする。通報案件じゃないのかな。
「ここは壊れたままでよかったのに」
「何てことさらっと言ってるんです!?」
私はにっこりと微笑んで、そこら中にスプレーをばらまいた。
AMOメモ1
・噴霧式は便利ですが、物が多い部屋には効果が薄いです。
片づけをしたからやると、効果的ですよ。
次は「妖狐の間」へ出向く。
部屋の中はいたるところにサランラップやら、ビニールのシートがかかっている。
「唯様、お疲れ様。どうしました? 部屋を見回して……」
私は部屋に入るなり周囲を見回す。
風邪薬、目薬、栄養ドリンク、よくわからない茶色の瓶。何かの薬品がそこかしこに置かれている。
「……これ、何に使うのかな?」
「ははは、ただの趣味よ。特に深い意味はないわ」
だが、それだけではない。洗濯に使う漂白剤に、食器の洗剤、殺虫剤、カビ殺しに、ラッカーのスプレー缶まである。
その中に、明らかに市販品ではないものがあることに気付いた。
「……これは?」
「ああ、それね。それは、市販品で作れるしび……し、シビリアン?」
言い訳も思いつかないらしいので、その薬の中にスプレーしてやる。
完全天然成分、殺虫剤不使用のスプレーなら、化学反応は起こらないだろう。
「唯様ーご慈悲をー……」
ここも壊されたままの方が世界平和になっただろうに。
修復されて、とても残念だ。
AMOメモ2
・ムカデは越冬します。油断しないようにしましょう。
廊下に出て、扉や襖の隙間にスプレーをかけていく。
すると、防虫剤を規則正しく置いているにーちゃんを見つける。
「ねえ、にーちゃん。なんで防虫剤?」
「わからない……でも……効果……ある……」
何か根拠があってやっているわけじゃないんだ。
素人感覚だと、確かに効果はありそうだけど……本当のか疑わしい。
「……各防虫剤の……効果範囲を……計算……最も効率的に……」
防虫剤を置く間隔を計っているみたい。
うーん、このアンドロイドの無駄遣い感。なんだか、ジンガイ荘では真価を発揮できてないよね。手に余ってる。
「唯ちゃんも……頑張って……」
にーちゃんの言葉にうなずいた。
でも、ひとつだけ確認したいことがあった。
「やっぱりムカデは嫌い?」
「……絶滅しろ」
はっきりと言い切ったのは初めてかもしれない。そこまで嫌いなんんだ。
私は手を振り、次の場所へ向かう。
AMOメモ3
・餌タイプの殺虫剤もあります。それも合わせて使うとより効果的です。
縁側に面する窓のサッシへスプレーをしに来ると、庭で草取りをしている鎌田さんを見つける。
「お疲れ様です」
「ああ、唯ちゃん。お疲れ様」
鎌田さんは自慢の鎌で草を刈っていた。
ずっと前傾姿勢でいたせいなのか、腰をあげると「いてて」と少し唸っていた。
「どうして、草取りなんてしてるんですか?」
「おや、唯ちゃんは知らないんですね。奴らはこういった草むらにも生息してるんです。だから、庭を綺麗にしてやれば、住みつかないんですよ」
確かに、ムカデは森にいるって聞いたことある。庭の雑草を引っこ抜いて、整えてやるのは意外と効果ありそう。蚊とかもわかないだろうし。
「唯ちゃんも、スプレーがんばってね。少しでも入らないようにしないといけないですし」
何か、強迫観念めいたものを感じた。
念入りのスプレーをかけて、最後の場所である台所へ向かう。
AMOメモ4
・植木鉢にも住み着くことがあります。植物を育てている人は注意しましょう。
台所にいくと、箒、モップ、高枝切りばさみを背負った雪絵さんの姿が見えた。
どうやら、シンクの下の掃除をしているようだった。
なんで、そんなものを背負っているんだろう。邪魔なだけだと思う。
「雪絵さん、お疲れ様です」
雪絵さんは顔をあげると、こちらを向いた。一瞬、ものすごい真剣な顔が見えて、背中が冷えた。何か、見てはいけないものを見てしまった。
「唯ちゃんですか、少し驚きましたー」
正直、こちらの方が驚いた。寿命が縮んた気がする。
「この辺りは湿気もあるので、念入りにお願いしますねー」
私はそこら中にスプレーをふりかけると、雪絵さんが覗いてきた。
「実は、2週間程度しか効果はないんですよー」
そうだったんだ。
結構、がんばってきたのに、またやらないといけないんだ。
「大丈夫、次は私がやりますからねー」
もう心を読まれても恐れないだけの度胸がついてきた気がする。
「これで終わりなんですけど、どうしましょうか?」
「そう、なら、居間で待ってねー」
雪絵さんはもう少し手入れをするらしい。
私は言葉に甘えて、居間へと移動する。
AMOメモ5
・ムカデは湿気を好みます。水回りには注意しましょう。
しばらくして、みんな作業が終わったようで、居間に集まっていた。
なれないことで、みんな疲れているみたい。スプレーをするだけの私は申し訳ない気持ちになる。
「みんなー、お疲れ様ー」
台所から出てきた雪絵さんは割烹着を脱いでおり、いつもの服に戻っていた。その手のお盆には、人数分の麦茶が置いてあった。
ちょうど喉が渇いていたので、とてもありがたい。
そう思って、雪絵さんが麦茶をテーブルに置くのを待っていると――
ポト
と、天井から何か落ちてきた。
それは、足が無数にある例のアレで。
――あ
そう思う暇もなくジンガイ荘は一瞬で氷漬けになってしまった。
凍結落ちなんて、もう嫌。
ちなみに、また例の時間を操る妖怪に修復をお願いしたので、害虫対策をもう一度やるはめになりました。




