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第23話 みんな集まれ お礼参りだよ

 私たちは玄関の前で、ジンガイ荘を見上げていた。

 先日、海坊主との戦いでジンガイ荘は完全に倒壊した。はずである。


「壊れたって聞いたけど……全然そんなんじゃないね」


 真ちゃんが呟く。

 元の、古ぼけた木製の建物がそにあった。

 ある程度事情を知っている薫ちゃんも、驚きを隠せない様子で、辺りを見回している。

 壊れきったはずの建物は、完全に修復されている。しかも、文字がかすれた「ジンガイ荘」の表札も完全再現されていた。

 修理……とは、ちょっと違うみたい。


「あら、唯ちゃんと……そのお友達ねー」


 玄関から出てきた雪絵さんがこちらに気がついて、声をかけてくれる。

 はじめて会う2人は軽く会釈してくれた。

 ジンガイ荘にやってきたのは、服を着替えるためだ。この後、一緒に遊びたいだけど、部屋を着たままなので、おめかししたいと思って、戻ってきた。


「どういうことなんですか? ジンガイ荘が元に戻ってるみたいだけど……」


 私がそう訊ねる。


「んー、時間を操ることができる妖怪と知り合いでねー。そのつてで時間を巻き戻してもらったのよー」


 時間を操る妖怪。

 聞いたことはないけど、このジンガイ荘を見る限り、実在してるんだと思う。

 完全に時間が巻き戻っている。これなら、着替えができそうだ。


「んー? 妖怪……?」


 話を聞いていた真ちゃんが首をひねる。

 私は何かを言って誤魔化そうとするが、薫ちゃんに制させる。


「真ちゃんなら、何も言わなければすぐ忘れるっスよ」


 なんだか酷いいわれようだけど、私もそう思う。

 さっさと着替えを済ませるために、ジンガイ荘へ入っていく。



 パパッと着替えて、みんなと合流する。

 今日は、薄いピンク色のワンピースにベレー帽。最近少し暑くなってきたので、夏用の服を引っ張り出してきた。

 真ちゃんは、青いTシャツに半そでの白い上着。それに、短めの紺のプリーツスカートという、活動的な出で立ち。

 黒い綿パンに黒い薄手のシャツの薫ちゃんは、いつも通り黒い。日差しが強いと暑くないのかな。


「じゃあ、どこに行こっか」

「私、ドーナッツが食べたいな」

「いいっスね。いつものフードコートのところっスか?」


 遊びに繰り出す私たちに向けて、雪絵さんが手を振ってくれた。

 こちらも、手を振って返した。



 無駄話しながら、ドーナツ屋を目指していたら、こちらを物凄く睨んでくる女の子がいた。

 黒いセーラー服に赤いリボン、黒いスカートを履いている。間違いく学生だと思うのだけど、そんな制服の学校はこの辺になかった気がする。

 その形相に、私たちは足を止めた。


「あんた、たしか、ジンガイ荘の関係者だったよな」


 彼女は私に因縁をつけてきた。視線が一直線にこちらに向いている。

 私は辺りを見回して、例の2人がいないか確認する。どうやら、近くにはいないみたい。また、話がこじれると厄介だし。


「何の用かな?」


 私は彼女の視線を真正面から受け止める。


「あれだよ、昨日はよくも蹴とばしてくれたな」


 はたと気づく。

 ジンガイゾーで蹴とばした海坊主の女の子だ。あの茶色い髪に、ポニーテール。間違いない。

 これは、因縁をつけられても文句は言えない。


「ははは、ごめんね。ちょっと手荒なことしちゃった……」


 なんだか申し訳なくて、謝ることしかできない。

 何を要求されるのかな。暴力沙汰にならないといいけど。


「いや、こっちこそ、悪かったよ。俺が暴れたせいで家がぶっ壊れたんだろ」


 意外といい人だった。

 こちらが蹴り飛ばしたのに、こちらを気づかって謝ってくれた。


「いえいえ、ジンガイ荘なら、もう直ったから」


 「マジか!」と彼女は驚く。その様子を見ながら思う。どうして大きくなって暴れてたんだろう。


「そうか。でも、本当に悪いと思ってる。大きくなっているころのこと、覚えていないんだ。どうして、こんなところに来ちまったのか、わかんないんだよ」


 彼女は腕組みをして首をかしげている。最近の怪異騒動に何か原因があるのかもしれない。


「ちょっと、待って。唯ちゃんに何をしようっていうの?」


 真ちゃんが彼女との間に割って入ってきた。真ちゃんは海坊主さんとのことを知らないんだった。


「んだ、てめぇ……」


 2人の間に火花が散る。

 止めようとした時には、もう遅かった。

 2人はお互いにハイキックをあびせかかる。同時に繰り出されるハイキックは空中でぶつかり合い、威力は相殺された。

 お互いにハイキックの姿勢で止まっていた。


「あなた、なかなかやるわね」

「そっちこそ、いい蹴りだぜ」


 にやりと笑うあう2人だけど、そのポーズで止まっていると、パンツが丸見えになってちゃってる。

 2人とも、スパッツか、短パンは履いた方がいいと思うよ。

 ゆっくりと、姿勢を戻す。


「それで、彼女は唯ちゃんの知り合いなの?」


 足を出す前に、聞いて欲しかった。

 でも、お互いが認め合ったというのは悪くないことだと思う。


「うん。友達。昔の友達だよ」


 私の言葉に、彼女と何故か薫ちゃんが目を見開いて驚いたような顔をする。


「どういうことっスか。ほぼ初対面じゃないっスか」


 薫ちゃんが耳打ちしてくれる。

 だけど、私は彼女と友達になりたかった。呆然とする彼女に視線を向けた。


「お、おう。こいつ……唯の、友達だ」


 彼女がこちらに合わせてくれた。自分が海坊主でお礼参りに来たことを知られたくないみたい。

 それに、一度しか呼ばれてない名前で呼んでくれたのは、嬉しかったし。


「なーんだ、そっか。何かただならぬ気配を感じたからね。それに、その制服……どっかで……」


 真ちゃんが凝視してくることに、彼女が狼狽えているのがはたからわかる。

 きっと、巨大化していたことに気づかれたくないようだ。


「たしか、昨日、そんな服をきた巨大な女の子を見たんだけど……放送で集団幻覚だって聞いたし……んー……」


 何かを思う出そうと、真ちゃんがうんうん唸っている。

 その様子を見ながら、彼女が小声で話しかけてくる。


「集団幻覚……? そんないい加減な誤魔化しかたしたのか。記憶を消すとかできなかったのかよ!」

「なんか、見た人が多すぎて無理だったって聞いたよ。放送を聞いた人はみんな幻覚だって信じてるみたい」

「じゃあ、あれか、俺のパンツも幻覚ってことで覚えてるって事かよ!」


 彼女は頭を抱えて悶絶している。巨大化は自分の意志でやってことじゃないみたいだし、この境遇には少し同情してしまう。

 だったら、普段から何か履くようにしたらいいのに。さっきも丸出しだったし。


「まあ、いいや。それで、あなたは、何て名前なの?」


 思い出すことを諦めた真ちゃんが前向きな意見を出してくれた。確かに、友達と名乗ったからには、気になるのも当然だ。

 海坊主の女の子も正気に戻ったようで、すぐに自己紹介してくれた。


「俺は、潮崎しおざきあきらだ。ちょっと遠くの高校に通ってるけどな」


 海坊主の女の子は、明ちゃんっていうんだ。

 ちょっと不良っぽくて格好いいかも。


「私は江藤 真。ちょっと武術をかじってるんだ。よろしくね」


 武術やってる情報は私も初耳なんだけど。


「あたしは蛇上 薫っス。よろしく」


 薫ちゃんはそう言うと、明ちゃんに向けて小声で喋る。


「自分は妖怪の蛇女っス。明ちゃんのことは大体わかってるっス」


 これで、友達が3人に増えた。

 明ちゃんに関してはちょっと強引だったけど、本人もまんざらじゃないから、いいかな。


「それじゃあ、明ちゃん。一緒にドーナッツ食べに行こ」


 私は明ちゃんの腕を引っ張る。

 その様子を真ちゃんと薫ちゃんが笑顔で眺めていてくれる。


「俺はかえ……いや、いいぜ、一緒に行ってやるよ。友達だからな」


 思ったより嬉しそうな様子が見えて、本当によかった。きっと、友達が少なかったんだと思う。


「私は桜河 唯。これから、よろしくね」

「ん? 2人は友達なのよね?」


 妙なところで真ちゃんが洞察力を披露してくれる。でも、きっと黙っていればすぐに気にしなくなるよね。

 4人一緒にドーナッツ屋に向かった。

 今日はいつも以上に美味しいドーナッツが食べられそう。

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