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第22話 みんな集まれ パジャマパーティーだよ

 私たちは真ちゃんの私室に集まっている。


 おおよそ八畳の広さに。勉強机、丸テーブル、本棚、ベッド、クローゼットというシンプルな空間。飾りっ気もなく、女性の部屋というよりは、男の子が好みそうな部屋だ。


「ちょっと散らかってるけど、適当に座ってー」


 ゆったりとしたピンク色のパジャマを着た真ちゃんが、そう言ってくれる。


 真ちゃんはちょっとというが、そこら辺に脱ぎ捨てた衣類が、学校でもらったプリント、雑誌、その他もろもろがフローリングの床に転がっている。これは、ちょっとと言っていいのかな。


 実はここにやってきたのは、ただ遊ぶだけではない。

 その理由は、少し時間をさかのぼる。




 目の前に木の板が折り重なっている。元はジンガイ荘だったものだ。

 さきほどあった、海坊主との戦いの結果、ジンガイ荘は大破、人の住めるスペースはなくなっていた。


「お前ら、どこかで一晩すごしてねー」


 言葉にも現れているが、笑顔の中にも、たしかな怒りが含まれている。無理な人型への変形で、まともな部屋がひとつもないほど、崩れて壊れている。


 これは立て直した方が早いのでは? と思わせられる状況だ。


 と、ジンガイ荘の心配をしている場合ではない。明日までどこで過ごせばいいのか、私は少し考えた。そこに、都合よく、スマホに着信があった。


「明日の日曜日、どこかで遊ばない?」


 真ちゃんからのお誘い、そこでは私は下心があって、今の状況を説明した。




 ということがあって、私たちはここにいる。


「えーと、あたしがここにいてもいいんスかね?」


 紺色のシャツタイプの寝巻を着た薫ちゃんがおどおどしながら、訊ねてくる。

 正直な話、私がお願いした立場上、真ちゃんに答えを仰ぐしかない。


「いいって、明日も一緒に遊ぶんだし。それに、こういう女子会ってやってみたかったのよ!」


 思った以上に、真ちゃんはノリノリで、こちらも少し気持ちが楽になる。

 だけど、少し物申したいこともあった。


「このパジャマ……どうして私が着てるのかな」


 今私は真ちゃんから借りたパジャマを着ていた。

 私のパジャマは他の衣類と共に、部屋ごと潰れてしまっている。必然的にだれかから借りることになるのだが。


「大丈夫! すっごく似合ってる!」


 私が着ているのは、灰色のパジャマで鼠の頭部をデザインしたフードがついている。その鼠の口から顔を出しているという見た目だ。


「お母さんが買ってきてくれたけど、サイズが小さくて着れなかったのよ。唯ちゃんなら、ピッタリだし、可愛い」


 そこまで言われると、少し照れてしまう。

 案外可愛いし、着られないのなら、貰いたいかな。


「えーと、今日はここで、泊まるんスよね」

「そう、これは、パジャマパーティー……つまり、女子会よ!」


 真ちゃんの言葉に、私ははっとする。

 女の子があつまって、優雅にしゃべり合い、笑い合う、最も女子力を必要とされる集会。それが、女子会。


「じょ、女子会! そ、そんなレベルの高いこと……あたしには無理っスよ。何をしたらいいのか、わからないっス」


 薫ちゃんの言葉で、真ちゃんの方に視線を向ける。真ちゃんもこちらを向いたのか、目と目が合ってしまう。

 誰もが、何をしたらしいかわからないパターンだ。


「て、定番は、恋バナ……?」


 真ちゃんの言葉に、私と薫ちゃんは、首がねじ切れんばかりに横にふる。

 正直、それは女子会以上に女子力が必要だ。むしろ、最高峰といって過言でない。


 何をしたらいいのかわからないまま、時間だけが経っていく。

 思い浮かぶアイディアがないので、周囲を見ながら何かを探してみる。それは、他の2人も同じようだ。


「あ、これの漫画、最近、アニメ化したやつじゃないっスか?」


 薫ちゃんが本棚から漫画を探し当てる。本棚から本を1冊手に取ると、目を通していく。

 熱心にページをめくっていくその姿に、その内容が気になってくる。


「真ちゃん、私も……」

「うん、ちょっと読もうか」


 私と真ちゃんも漫画を手に取って、ページをめくる。

 内容は少年漫画によくあるバトル物。少し絵に癖はあるが、内容はとても面白い。

 とくに、特殊能力の応酬はこちらの予想を裏切るものばかりで、飽きることはなく、先に読み進めたくなっていく。


……


…………


………………



「はっ!」


 私は我に返った。


「ちょっと待って、今日は、女子会! 漫画を読んで時間を潰すのは勿体ないよ」


 私の言葉に、2人もはっと我に返る。急いで漫画を閉じると、本棚へ戻した。


「危なかったわ。まさか、こんな罠があるなんてね」


 真ちゃんは額の汗をぬぐうポーズを取った。その気持ちは私もわかる。


「他のことをしよう。何かいいものない?」


 真ちゃんが私たちに視線を向ける。

 それに耐えかねてなのか、もともとこのチャンスを待っていたのか、薫ちゃんが恐る恐る手を上げた。


「実は、ゲームを持ってきてるっス。女子会らしくないと思って、出さなかったんスけど」

「それいいよね。みんなでゲームすれば、盛り上がるよね!」


 私は薫ちゃんの発言に賛同する。ゲームででわいわいと盛り上がるのは、女子会に相応しい。女子力は置いとくとして、定番といってもいい。

 薫ちゃんは持ってきたリックサックを漁って、持ってきたゲーム機を取り出す。


「これっス!」


 元気を取り戻した薫ちゃんは意気揚々と、ゲーム機をひとつ取り出す。

 それを見て、私たちは軽く拍手する。これは、盛り上がってきた。


「じゃあ、みんなでやろうよ」


 真ちゃんが手を出してきた。

 みんなでプレイするには、もうひとつゲーム機か、コントローラーが必要である。

 どうしたのか、薫ちゃんは手を止めた。


「いえ、これ、ひとり用……というか、複数人でできるゲーム持ってないっス。そんな、みんなで集まってゲームするなんてこと思ったこともなかったっス……」


 ネット対戦しかしたことないと、薫ちゃんは悶絶して頭を抱える。

 ゲーマーあるあるではないだろうか。ひとりでしかやらないから、こういうときに、そのことを忘れてしまう。


「まあまあ、落ち込まずに、次を考えよう」


 肩を落とす薫ちゃんの背中を、真ちゃんがさすってあげてる。やっぱり、真ちゃんはコミュニケーション力が高い。私にはそんなことをとっさにできない。

 ゲームは残念だったけど、次に何をやろうかと、辺りを見回す。


「! ちょっと、挽回させてもらいたいっス」


 薫ちゃんは何かを見つけたのか、勉強机へ寄っていく。そこにあるノートパソコンに手を伸ばす。


「これ、借りていいっスか?」

「え? いいけど、何やるの?」


 薫ちゃんは、ノートパソコンを慎重に丸テーブルへ運んでくる。開けてから、電源ボタンを押して起動させた。

 そこから、何やら操作しているみたいだけど、私には全然わからない。


「これなら、どうっスか」


 まず、猫の可愛らしい鳴き声が聞こえてくると、ノートパソコンの画面を見せてくれる。

 そこには、毛がもふものの猫がこちらに訴えかけるように、見つめてくる。とても愛らしく、ついつい頬が緩んでくる。

 猫を映すだけの動画なのだが、これがまた、可愛い。本物より愛嬌があって、つい見入ってしまう。


「この、エンジンのような音って、どうやってだしてるんだろ」


 みんな優しい目で、猫を眺める。これは、いつまでも見ていたくなる。

 いずれ、動画は終わり、薫ちゃんが次の動画を再生してくれる。

 そして、食い入るように画面見続けた。


「興が乗ってきた! こんなのは、どうっスか?」


 再び薫ちゃんが操作をすると、動画は終わり、別の画像に切り替わる。

 その画面には『マルチ屋』と表示されていた。


「! これ、にーちゃんの!」

「そう、マルチ屋さんのブログっス」


 マルチ屋とは、ジンガイ荘に住むアンドロイドのにーちゃんか使う活動名。薫ちゃん曰く、その筋では有名らしい。

 さらに、薫ちゃんが操作していくと、前にもみたことのある、男の人が抱き合う画像が表示される。


「どうっスか?」

「え? これって……」


 真ちゃんが食いついてきた。

 さきほど見ていた猫動画より、身体を乗り出して凝視している。

 あの絵が真ちゃんの琴線に触れたみたい。確かに綺麗な絵だけど、そこまで凄いものなのかな。


「本当に? こんなことしちゃっていいの?」

「やっぱり、イケるくちっスね」


 2人が壁になって、画面を見ることができない。割り込むによう画面を見ようとするけど、真ちゃんが片手で私の視界を塞いでくる。


「ダメ、唯ちゃんはまだ腐ってないから、見るのはNG」

「唯ちゃんには綺麗なままでいて欲しいっス!」


 2人はかぶりついてパソコンから離れようとしない。私も絵を見たいのに、塞がれる。

 2人がかまってくれないので、なんとなく寂しい。

 ちょっと横になってようかな……。


……


…………


………………



「はっ!」


 気がつけは、眠っていたみたい。でも、部屋は明るいままだし、ちょっとうとうとしただけだよね。

 近くに置いてあったスマホを確認する。


「もう、6時だよ!」


 せっかくの女子会だったのに、ほとんど寝ちゃってた。

 私は跳び起きて、まわりを見渡す。

 そこには、いまだに、ノートパソコンにはりついたままの2人がいた。

 どうやら、一晩中何かしていたみたい。


「あ、おはよう」

「もうそんな時間っスか」


 振り返って私の方を見るけど、2人とも鼻から血を流してる。


「いったい、何があったのーッ!!」


 私は朝だというのに、絶叫していた。

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