第22話 みんな集まれ パジャマパーティーだよ
私たちは真ちゃんの私室に集まっている。
おおよそ八畳の広さに。勉強机、丸テーブル、本棚、ベッド、クローゼットというシンプルな空間。飾りっ気もなく、女性の部屋というよりは、男の子が好みそうな部屋だ。
「ちょっと散らかってるけど、適当に座ってー」
ゆったりとしたピンク色のパジャマを着た真ちゃんが、そう言ってくれる。
真ちゃんはちょっとというが、そこら辺に脱ぎ捨てた衣類が、学校でもらったプリント、雑誌、その他もろもろがフローリングの床に転がっている。これは、ちょっとと言っていいのかな。
実はここにやってきたのは、ただ遊ぶだけではない。
その理由は、少し時間をさかのぼる。
※
目の前に木の板が折り重なっている。元はジンガイ荘だったものだ。
さきほどあった、海坊主との戦いの結果、ジンガイ荘は大破、人の住めるスペースはなくなっていた。
「お前ら、どこかで一晩すごしてねー」
言葉にも現れているが、笑顔の中にも、たしかな怒りが含まれている。無理な人型への変形で、まともな部屋がひとつもないほど、崩れて壊れている。
これは立て直した方が早いのでは? と思わせられる状況だ。
と、ジンガイ荘の心配をしている場合ではない。明日までどこで過ごせばいいのか、私は少し考えた。そこに、都合よく、スマホに着信があった。
「明日の日曜日、どこかで遊ばない?」
真ちゃんからのお誘い、そこでは私は下心があって、今の状況を説明した。
※
ということがあって、私たちはここにいる。
「えーと、あたしがここにいてもいいんスかね?」
紺色のシャツタイプの寝巻を着た薫ちゃんがおどおどしながら、訊ねてくる。
正直な話、私がお願いした立場上、真ちゃんに答えを仰ぐしかない。
「いいって、明日も一緒に遊ぶんだし。それに、こういう女子会ってやってみたかったのよ!」
思った以上に、真ちゃんはノリノリで、こちらも少し気持ちが楽になる。
だけど、少し物申したいこともあった。
「このパジャマ……どうして私が着てるのかな」
今私は真ちゃんから借りたパジャマを着ていた。
私のパジャマは他の衣類と共に、部屋ごと潰れてしまっている。必然的にだれかから借りることになるのだが。
「大丈夫! すっごく似合ってる!」
私が着ているのは、灰色のパジャマで鼠の頭部をデザインしたフードがついている。その鼠の口から顔を出しているという見た目だ。
「お母さんが買ってきてくれたけど、サイズが小さくて着れなかったのよ。唯ちゃんなら、ピッタリだし、可愛い」
そこまで言われると、少し照れてしまう。
案外可愛いし、着られないのなら、貰いたいかな。
「えーと、今日はここで、泊まるんスよね」
「そう、これは、パジャマパーティー……つまり、女子会よ!」
真ちゃんの言葉に、私ははっとする。
女の子があつまって、優雅にしゃべり合い、笑い合う、最も女子力を必要とされる集会。それが、女子会。
「じょ、女子会! そ、そんなレベルの高いこと……あたしには無理っスよ。何をしたらいいのか、わからないっス」
薫ちゃんの言葉で、真ちゃんの方に視線を向ける。真ちゃんもこちらを向いたのか、目と目が合ってしまう。
誰もが、何をしたらしいかわからないパターンだ。
「て、定番は、恋バナ……?」
真ちゃんの言葉に、私と薫ちゃんは、首がねじ切れんばかりに横にふる。
正直、それは女子会以上に女子力が必要だ。むしろ、最高峰といって過言でない。
何をしたらいいのかわからないまま、時間だけが経っていく。
思い浮かぶアイディアがないので、周囲を見ながら何かを探してみる。それは、他の2人も同じようだ。
「あ、これの漫画、最近、アニメ化したやつじゃないっスか?」
薫ちゃんが本棚から漫画を探し当てる。本棚から本を1冊手に取ると、目を通していく。
熱心にページをめくっていくその姿に、その内容が気になってくる。
「真ちゃん、私も……」
「うん、ちょっと読もうか」
私と真ちゃんも漫画を手に取って、ページをめくる。
内容は少年漫画によくあるバトル物。少し絵に癖はあるが、内容はとても面白い。
とくに、特殊能力の応酬はこちらの予想を裏切るものばかりで、飽きることはなく、先に読み進めたくなっていく。
……
…………
………………
「はっ!」
私は我に返った。
「ちょっと待って、今日は、女子会! 漫画を読んで時間を潰すのは勿体ないよ」
私の言葉に、2人もはっと我に返る。急いで漫画を閉じると、本棚へ戻した。
「危なかったわ。まさか、こんな罠があるなんてね」
真ちゃんは額の汗をぬぐうポーズを取った。その気持ちは私もわかる。
「他のことをしよう。何かいいものない?」
真ちゃんが私たちに視線を向ける。
それに耐えかねてなのか、もともとこのチャンスを待っていたのか、薫ちゃんが恐る恐る手を上げた。
「実は、ゲームを持ってきてるっス。女子会らしくないと思って、出さなかったんスけど」
「それいいよね。みんなでゲームすれば、盛り上がるよね!」
私は薫ちゃんの発言に賛同する。ゲームででわいわいと盛り上がるのは、女子会に相応しい。女子力は置いとくとして、定番といってもいい。
薫ちゃんは持ってきたリックサックを漁って、持ってきたゲーム機を取り出す。
「これっス!」
元気を取り戻した薫ちゃんは意気揚々と、ゲーム機をひとつ取り出す。
それを見て、私たちは軽く拍手する。これは、盛り上がってきた。
「じゃあ、みんなでやろうよ」
真ちゃんが手を出してきた。
みんなでプレイするには、もうひとつゲーム機か、コントローラーが必要である。
どうしたのか、薫ちゃんは手を止めた。
「いえ、これ、ひとり用……というか、複数人でできるゲーム持ってないっス。そんな、みんなで集まってゲームするなんてこと思ったこともなかったっス……」
ネット対戦しかしたことないと、薫ちゃんは悶絶して頭を抱える。
ゲーマーあるあるではないだろうか。ひとりでしかやらないから、こういうときに、そのことを忘れてしまう。
「まあまあ、落ち込まずに、次を考えよう」
肩を落とす薫ちゃんの背中を、真ちゃんがさすってあげてる。やっぱり、真ちゃんはコミュニケーション力が高い。私にはそんなことをとっさにできない。
ゲームは残念だったけど、次に何をやろうかと、辺りを見回す。
「! ちょっと、挽回させてもらいたいっス」
薫ちゃんは何かを見つけたのか、勉強机へ寄っていく。そこにあるノートパソコンに手を伸ばす。
「これ、借りていいっスか?」
「え? いいけど、何やるの?」
薫ちゃんは、ノートパソコンを慎重に丸テーブルへ運んでくる。開けてから、電源ボタンを押して起動させた。
そこから、何やら操作しているみたいだけど、私には全然わからない。
「これなら、どうっスか」
まず、猫の可愛らしい鳴き声が聞こえてくると、ノートパソコンの画面を見せてくれる。
そこには、毛がもふものの猫がこちらに訴えかけるように、見つめてくる。とても愛らしく、ついつい頬が緩んでくる。
猫を映すだけの動画なのだが、これがまた、可愛い。本物より愛嬌があって、つい見入ってしまう。
「この、エンジンのような音って、どうやってだしてるんだろ」
みんな優しい目で、猫を眺める。これは、いつまでも見ていたくなる。
いずれ、動画は終わり、薫ちゃんが次の動画を再生してくれる。
そして、食い入るように画面見続けた。
「興が乗ってきた! こんなのは、どうっスか?」
再び薫ちゃんが操作をすると、動画は終わり、別の画像に切り替わる。
その画面には『マルチ屋』と表示されていた。
「! これ、にーちゃんの!」
「そう、マルチ屋さんのブログっス」
マルチ屋とは、ジンガイ荘に住むアンドロイドのにーちゃんか使う活動名。薫ちゃん曰く、その筋では有名らしい。
さらに、薫ちゃんが操作していくと、前にもみたことのある、男の人が抱き合う画像が表示される。
「どうっスか?」
「え? これって……」
真ちゃんが食いついてきた。
さきほど見ていた猫動画より、身体を乗り出して凝視している。
あの絵が真ちゃんの琴線に触れたみたい。確かに綺麗な絵だけど、そこまで凄いものなのかな。
「本当に? こんなことしちゃっていいの?」
「やっぱり、イケるくちっスね」
2人が壁になって、画面を見ることができない。割り込むによう画面を見ようとするけど、真ちゃんが片手で私の視界を塞いでくる。
「ダメ、唯ちゃんはまだ腐ってないから、見るのはNG」
「唯ちゃんには綺麗なままでいて欲しいっス!」
2人はかぶりついてパソコンから離れようとしない。私も絵を見たいのに、塞がれる。
2人がかまってくれないので、なんとなく寂しい。
ちょっと横になってようかな……。
……
…………
………………
「はっ!」
気がつけは、眠っていたみたい。でも、部屋は明るいままだし、ちょっとうとうとしただけだよね。
近くに置いてあったスマホを確認する。
「もう、6時だよ!」
せっかくの女子会だったのに、ほとんど寝ちゃってた。
私は跳び起きて、まわりを見渡す。
そこには、いまだに、ノートパソコンにはりついたままの2人がいた。
どうやら、一晩中何かしていたみたい。
「あ、おはよう」
「もうそんな時間っスか」
振り返って私の方を見るけど、2人とも鼻から血を流してる。
「いったい、何があったのーッ!!」
私は朝だというのに、絶叫していた。




