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第21話 みんな集まれ 海坊主だよ

「唯様! いきなりですが」

「海坊主よ!」

「ぎゃぁぁぁっ!」


 何? 何が起きてるの?

 ぬいぐるみで遊んでるのに、急に入ってこないで!

 まずは、ぬいぐるみを後ろに隠して……。


「入ってくるときはノックしてよ」

「それどころではありません」


 蓮子さんが部屋の窓をおもむろに開いた。

 そこから見えたのは――


「え? おっきな女の子?」


 セーラー服に、茶髪をポニーテールに纏めた女の子。

 だけど、サイズがおかしい。周囲の家々よりもはるかに大きい。

 目の錯覚とか、そういうモノではない。身長が30mくらいありそう。

 でも、スカートってゆうのは不味くないかな。下からパンツ丸見えなんじゃ……。


「唯様、さっきも言いましたが、海坊主です」

「ちょっと待って、海坊主って、ごつくてマッチョなハゲ上がった男性じゃないの!?」


 陽子さんの発言につい突っ込んでしまった。

 あの子が海坊主だとして、どうして、私の部屋にやって来たのかな。


「他の住人にも声をかけてあります」


 そう蓮子さんが言うと、ジンガイ荘の面々がやって来る。


「何なのよ……休日くらい昼まで寝てたかったのに」


 寝間着姿の鎌田さん。


「まだ仕上げが残ってる……」


 いつものだらけたTシャツを着たにーちゃん。


「あらあら、一体何の用かしらねー?」


 管理人の雪絵さんまで。


「他県からやって来た海坊主を撃退します」


 とち狂ったようなことを宣う蓮子さんに、全員の視線が集まる。

 それで、なんでここなのかな?


「さあ、私が極秘裏に作り上げた傑作をとくとご覧あれ!」


 陽子さんがそう言うと、私の勉強机へ近づいていく。そして、ゲームで使うようなジョイスティックをおもむろに突き刺した。


「わ、私の机が!」

「さぁ、行くわよ! ジンガイゾー起動!」


 陽子さんは机に突き刺さったジョイスティックを前方に倒した。すると、部屋が揺れだす。違う、部屋だけじゃない。

 ジンガイ荘自体が揺れ始めたのだ。

 みんな、揺れで倒れないように踏ん張っているのに、揺れはどんどん大きくなって、いつしか、私の部屋が宙に浮いていく。

 本当に何が起こっているのか、理解できない。


 私は窓に張り付くと、外の様子をみると、ジンガイ荘が立ち上がろうとしている。

 私の部屋が中心となり、他の部屋が手となり、足となり、気づけば人のように二足歩行型できそうな体型に代わっていった。


「ロボだこれー!」


 私が騒いでいると、唐突に謎のBGMが流れ始めた。


デレレデデッデデーデデデン


出撃! ジンガイゾー


歌詞:助本 陽子

作曲:格代 蓮子

歌 :助本 陽子


今日も狙われる 平和が毎日狙われてるぞ

家賃はお手頃 案外古い 家賃滞納も何のその

怪異が迫る 補助金のチャンス!

5つの部屋が1つになって

いざ出撃のでかい奴


スーパージェットロケットキック!

履歴書丸焼き消し炭ファイヤー!


今日は そこらで

明日は ここらで ジンガイゾー


ダラダララッダーデデン


「どうですか、唯様!」

「ちなみに、これを作るのに、三日三晩を要したわ!」


 何これ。


「正直、酷い。体調を崩すほど酷い。もう2度と聞きたくない」

「唯様、辛辣ぅ」


 もっと真面目にやって欲しい。

 海坊主さんは律義にこちらを待ってくれているし。襲ってきたわりに空気を読んでる。


「それで、どうしたらいいの?」

「海坊主とバトルです」


 あれ? バトルって、妖怪相手なら力技はダメだったのでは?


「……海坊主は戦ってパワーを使い切らす必要があるわ」


 陽子さんがこちらの心の中を覗いてきた。

 なら、私が直接戦ってもいいのでは?


「行くわよ! 海坊主!」


 あ、今度は心の声を無視してきた。

 陽子さんはジョイスティックをガチャガチャと操作する。どういう理屈かわからないけど、ロボットが右腕を振り上げた。

 あの部屋、位置的に「天狗の間」だった気がする。


「ちょっと、待ちなさい、陽子! こんなボロ部屋で殴ったら、こっちが壊れるんじゃ――」

「先手必勝! ジンガイゾーパーンチッ!」


 海坊主は腕を交差させて、振り下ろされる拳(天狗の間)をガードしてきた。

 あ、これって……。

 海坊主にめり込むように、「天狗の間」が潰れていく。


「あーーッ! 私の写真! 私のロリっ娘コレクションがー!」


 蓮子さんはその場に崩れ落ちると、のたうち回った。

 まぁ、そんなコレクションなら消えてしまった方が世の中の為になると思う。


「むむむ、やるわね」


 海坊主の攻撃をガードしてやり過ごすけど、どうも劣勢みたい。

 殴ると壊れる程度の耐久力しかないのだから当然だけど。


「こうなったら、必殺技を使うしかないわ!」

「ちょっと待って、『あの』名前の技って嫌な予感しかしないんですけど!」


 寝間着のままの鎌田さんがすがるように陽子さんにへばりついた。

 これはもう、手遅れだと思う。


「履歴書丸焼き消し炭ファイヤー!」


 案の定、ロボットの左腕「鎌鼬の間」から炎が噴き出し、海坊主さんを襲う。ネーミングからして悪意しか感じない。

 セーラー服が焼け落ちないかと、正直不安だったけど、特にダメージはなかったみたい。

 だけど、心なしかサイズが縮んできた?


「ぐふぅ……。私が描き溜めた履歴書が……リクルートスーツが……」


 鎌田さんは泡を吹いて失神した。

 言わずもがな、「鎌鼬の間」は全焼。もう手遅れ。


「これがダメなら次はこれね!」


 次にロボットは左足「傀儡の間」を引き付けて、蹴る体勢に移った。


「待って……今書きかけの奴……バックアップが……」


 にーちゃんがゆっくりと陽子さんに近づくが、当然届かない。


「食らうといいわ! ラモス仕込みのサッカーボールキィィックッ!」


 古い! 古すぎて若い子にはわからないよね。元ネタが分かる人は、総じて30代以上だと思う。

 つま先蹴りが、海坊主さんの弁慶の泣き所に直撃していく。部屋を粉砕しながらの強烈な一撃が凄く痛そう。


「わ、私……私の……データ……が……」


 にーちゃんは電源が切れたように、その場で卒倒した。

 もしかして、バックアップしていた機械まで壊れちゃったのかな?


「よし! 効いてる! サイズが小さくなって来たわ。これなら、ジンガイゾーから降りて戦え――」


 陽子さんが席を立ち、部屋から逃げ出そうとするが、その腕を3人ががっちり掴む。

 みな、目が死んでおり、とりつかれたように、陽子さんに殺到する。


「陽子……1人で助かる気……?」

「就活……舐めるな……」

「知的……財産の……損失……」


 あ、これは大惨事の予感。


「ちょっと待って、もう、これ以上は必要ないっていうか……」


 3人は目覚めたように目を光らせた。比喩ではなく、目から光が漏れ出している。

 ロボットは飛び蹴りのように、右足「妖狐の間」をあげると背後に付けられたロケットエンジンが点火、ものすごい炎を出して唸り始めた。


「「「スーパージェットロケットォォォォキィィィック!」」」


 ロボットはロケットのように海坊主さんに向かっていくと、その右足で蹴りぬいた。


「私の発明品ーー! 資材、工具、唯様の観察日誌13冊がぁーー!」


 当然、右足は全壊。海坊主さんは、遥か彼方へと吹き飛ばされていく。

 なんだか、色々なとばっちりを受けたみたいで、ごめんね、海坊主さん。


 4人は折り重なるように、倒れると動かなくなった。

 陽子さんは言い訳のしようがない程の事をしたからね。しょうがないね。


「まぁまぁ、気を落とさないで、私も手伝うから、1から始めよう」


「唯様……」

「唯ちゃん……」

「……唯……ちゃん……」


 もう、壊れてしまったものはしょうがないよね。

 陽子さんは取り返しのつかない事をしたけど、他の3人は犠牲者だもの。

 力を合わせて、取り戻せばいいよね。

 その時、ガコっと、変な音がしたと思って、後ろを振り向いた。


 そこには、タンスにぎゅうぎゅう詰めしてあったぬいぐるみ達がなだれ落ちてきていた。

 こ、これ!


「見ないで! これは、ほら、あれよ、あれなのよ、親戚、親戚の子にあげるプレゼントだから! 全部、プレゼントなんだから!」


 ぬいぐるみを背後に隠して、必死に言い訳するしかない。

 それを見たのか、4人はぐったりと意識を失った。


「もう、何だったのー!?」


 誰も幸せにならなかった。

 全員、色々なものを失う結果だけが残ってしまった。


「それでー、ジンガイ荘は誰が直すのかしらー?」


 すっかり忘れていた雪絵さんからものすごいプレッシャーを感じたが、もう、意識を保っていられない。

 さよなら、ジンガイゾー。そして、もう2度と起動するな。

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