第20話 みんな集まれ 相合傘だよ
時は放課後、いざ帰ろうと下駄箱にやって来た。
私たち以外にも多くの生徒がおり、いつも以上に賑わっている。
その理由は――
「雨だね……」
玄関から外の様子を覗うと、結構な勢いで雨が降っている。
6月に突入して梅雨が鬱陶しい時期になっていた。
何故私たちがこうして下駄箱に集まっており、帰宅していないかという理由は1つしかない。
「傘、持ってきた?」
「ううん。朝は晴れてたから、持ってこなかったかな」
「そうよね……」
私は真ちゃんと、外を見ながら呆然としている。
傘がない。
よくありがちだが、意外と困る。濡れると風邪をひくとかよく聞くけど、問題はそこじゃない。
ただ単純に濡れたくない。制服が濡れそぼるは嫌だし、髪が顔に張り付くのも嫌。寒いのも当然NG。
だからといって、雨が止むのを待つのも、時間の無駄。
「あの……あたし、持ってるっスよ、傘」
薫ちゃんの言葉に、私と真ちゃんが首をぐるりと回して、視線を向ける。
その様子が怖かったのか、薫ちゃんが若干怯えていた。
「それ、本当なの!?」
「今日、傘を持ってきた訳じゃないけど、置き傘があるっス」
薫ちゃんが傘立てまで歩いていくと、1本傘を引き抜いてくる。
そして、黒い傘を持ってやってきた。薫ちゃんは本当に黒色が好きだよね。
「これっス」
「……」
「いや、パクったわけじゃないっスから! 安心して欲しっス!」
こちらの疑念を嗅ぎ取った薫ちゃんが弁解してきた。
「ははは、冗談だよ。ちょっとからかっただけ」
真ちゃんが悪戯をした子供のように笑ってみせる。それにつられて、私と薫ちゃんも笑う。
そして、薫ちゃんが傘を開こうとしたその時――
「ちょっと待ったー!」
「唯様! 傘ならこっちにもあるわ」
やって来た。2人がやって来た。
もうそろそろのような予感がしてた。でも、本当に来なくてもいいのに。
「待って! 唯ちゃんは私たちと帰るの!」
「そうっス。大体、そっちも傘は1本しかないじゃないっスか」
薫ちゃんが言う通り、蓮子さんと陽子さんは1本しか傘を持っていない。
これでは意味がないのでは?
「甘い! 砂糖をマシマシにしたハニートーストより甘い!」
「私たち3人はジンガイ荘に帰るわけだから、一緒の傘に入った方が合理的よ!」
確かに一理ある。
だけど、何だろう。あの2人と帰りたくないのは。
「帰る順番なんて、関係ないわ。それぞれの家まで一緒に行けばいいじゃない」
「何を抜かすか、この小娘が!」
真ちゃんと蓮子さんがいがみ合っている。
そう言えば昔に聞いたことがある。「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない」と。
「こういうときは、当事者に聞くべきっス!」
「そうね。唯様なら当然、こちらを選ぶわ!」
こっちはこっちで、薫ちゃんと陽子さんの間に火花が散っている。
ここは一度、はっきりさせた方がよさそうだ。
私たちは帰るメンバーで集まってみせた。
真ちゃん、薫ちゃん、私。
蓮子さん、陽子さん。
「――何でですか! 唯様!」
「一緒にジンガイ荘に帰りましょうよ!」
2人が泣いてすがってくる。
どうして、2人とは一緒に帰らないか。ここは、ずばり言う必要がある。
「だって、2人とも、狭い傘の中でセクハラしてくんでしょ?」
「……」
「…………」
「いや、そんな滅相もない!」
「それは言いがかりよ! 私たちは一緒に帰りたいだけだけなんだから!」
言い訳の前にあった間は何かな。
それに、一言もセクハラをしないとは言っていない。
これは危なかった。
「大体、セクハラってなどと。私たちはそんな下品な事など、やったことがありませぬ」
「そう、ボディータッチ。コミュニケーションの基本だわ」
こちらの意にそわないボディータッチはセクハラ案件なんだよなぁ。
「負け犬は、負け犬らしく、2人で帰りなさいよ」
「そうっス! いつも一緒にいる2人ならお似合いっスよ」
蓮子さんと陽子さんがこちらに視線を向けてくる。
どうやら、私の発言を待っているらしい。
「2人は仲良しだし、いいんじゃないかと思うの」
私の発言に2人は顔を向け合う。そして、にへらと笑みを浮かべた。
「誰が、こんな脂肪の塊なんかと!」
「このまな板とは意見が合ったことがないわ」
蓮子さんと陽子さんは取っ組み合って争い始めた。
「何がまな板だ、このデブが! 何を食べたら、そんなに太るんですかね!」
蓮子さんは、陽子さんの豊かな胸を揉みしだく。
対して、陽子さんは、蓮子さんの胸を指で突いている。
「はぁ? どこがデブなのよ! そっちこそ、その大平原にシリコンでも埋め込んだ方がいいんじゃないの?」
なんだか、2人仲良しって感じだし、これ以上付き合う必要もないかな。
「じゃあ、唯ちゃん、行こうか」
「そっスね。これ以上は時間の無駄っス」
薫ちゃんが傘を広げて、その下に私と真ちゃんが入っていく。
3人で玄関を出ていこうとする瞬間、私の肩に手がかかった。
「何をしれっと帰ろうと!?」
「唯様も酷いんじゃない?」
これはしつこい。
何とか振り払う方法はないものか。
「お前ら、唯ちゃんから手を離せ!」
ついに堪忍袋の緒が切れた真ちゃんが、2人に向かってハイキックを繰り出した。スカートの中身が丸見えだった。もう、足技は使わない方がいいのでは?
「へぶらッ!」
真ちゃんのハイキックは蓮子さんに余裕で回避されるが、陽子さんの顔面に直撃していた。顔面にいい1発を受けた陽子さんは顔を押さえて、その場で蹲った。
陽子さんも、どんくさいキャラが板についてきた。
「ははは、遅い遅い。そんな蹴りではハエも殺せぬわ!」
蓮子さんはそう言うが、蹴りでハエを殺すのって難しくない?
と言うか、ハエの前に陽子さんが死にそう。
「この! うるさい!」
真ちゃんは顔面を押さえて蹲っている陽子さんを無視して、蓮子さんに向かって足技を連発する。
だけど、軽くいなされて当たることはない。
真ちゃんはパンツが見えることをまったく気にしていない。女の子なんだから、もうちょっと恥じらいを持った方が……。
「……全く、うるさいっスね」
薫ちゃんの魔眼が赤く光る。
その目は蓮子さんを捉えており、彼女の動きが急に止まった。
「し、しま――」
「せいっ! はーッ!」
動けなくなった蓮子さんの顔面にとびひざげりが決まった。
蓮子さんは後ろにのけぞると、そのまま地面に倒れていった。
「悪は滅びた」
真ちゃんはどこかのアクションスターのような構えをして、勝利のポーズを決める。
2人を見ると、顔を押さえて蹲る陽子さんに、仰向けで倒れる蓮子さん。死屍累々とまではいかないが、悲惨な状態には違いない。
薫ちゃんはそんな2人を見下ろすと、近くに落ちていた傘を拾い上げた。
その傘、蓮子さんか陽子さんのものなんだけど……。
「ちょっと借りるっス」
そう言うと、真ちゃんに傘を手渡した。
言いたいことは大体わかった。1つの傘に3人は窮屈だよね。
「じゃあ、帰ろっか」
真ちゃんが傘を開いたので、私はそこに入り込む。
そして、玄関から外に出た。
「今日はどこ寄ってこう?」
「あ、ラーメン屋がいいな。またソフトクリームが食べたいし」
「じゃあ、そっちに向かうっス」
私たちは2つの傘でゆっくりと帰宅していった。
傘は後で2人に返しました。
なんか、ずぶ濡れだったけど、風邪とか大丈夫だったのかな。




