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第19話 みんな集まれ 口裂け女だよ

 午後の昼下がり、お弁当を食べた後で、私たち3人はいつものようにぐだぐだとお喋りに花を咲かせていた。


「ねぇ、唯ちゃん。今日の放課後はどこに行こうか?」

「うーん……ラーメンは昨日行ったしね……」


 私と真ちゃんが腕を組んで考えている時、妙に薫ちゃんがそわそわしてる。

 何かあったのだろうか。


「今日は止めておいた方が……いいんじゃないっスかね」


 薫ちゃんはあまり乗り気じゃないみたい。

 もしかして、新しいゲームで買ったのかな。


「いや、今回はゲームじゃないっス。……口裂け女って、都市伝説は知ってるっスか?」

「あー、なんか昔流行ったって聞いたことある」


 真ちゃんは知っているみたいだけど、どんな話だっけ。


「あれっスよ、『私綺麗?』って聞いてきて『綺麗』って答えると裂けた口を見せてくるんスよ」

「そうだっけ? なんか凶器で襲って来るんじゃなかったけ?」


 どうも2人もあまり知らないらしい。

 昔の話だから、あまり知らないのかもしれない。


「それが、どうしたの?」

「あ、そうだ。最近、ネットの掲示板やSNSで結構話題になってるっス。この辺りもヤバいらしいっスよ」


 そんな都市伝説が蘇っているのか。

 でも、ちょっと警戒しすぎじゃないかなぁ。


「おらぁ! 授業の時間だこらぁ!」


 教室の扉を勢いよく開けて、日野先生が飛び込んでくる。

 相変わらずぼさぼさの頭に小豆色のジャージを着ている。もう、日常として慣れてしまった。


「まだ準備できていないのか。60秒だけ待ってやる。さっさと準備しろ」


 60秒という微妙な時間に薫ちゃんは席に戻り、私たちは慌てて準備をする。

 日野先生は律義にもスマホを弄っているようで、どうやら時間をはかっているみたい。

 なんでそんなところを律義にするのだろう。ちょっと律義の方向性が間違っている気がする。


「残り、30秒だ、光の速度で準備しな!」


 日野先生に構っていられない。私も早く準備しなくちゃ。




 放課後、結局、寄り道をせずにジンガイ荘へと帰ってきた。

 ため息交じりに部屋に行こうとすると、にーちゃんが「鬼の間」と書かれた扉の前で待っていた。

 にーちゃんはいつも通りボーっとしていて、相変わらず首元が緩くなったTシャツを着ている。だけど、こんなところで出会うのは珍しい。何か起こったのかな。


「どうしたんですか、にーちゃん?」

「ん……唯ちゃんを待ってた」


 扉の前にいたことから、私に用事があるとは思っていたけど、何の用だろう。


「一緒に来て……」

「何がどうしたの?」

「……怪異解決」


 にーちゃんの言葉に身体を固くした。

 また、何か起こったのだ。でも、何故、にーちゃんが?


「ま、先ずは着替えるね」


 ブレザーのままではまずいだろうと、着替えをしようと部屋に入ろうとするが、にーちゃんは動こうとしない。


「そのままでいい……」



 そんなやり取りがあって、私はにーちゃんと一緒に道路を歩いている。

 にーちゃんがこんなに歩いているとことろは初めて見る。


「都市伝説……口裂け女って知ってる……?」

「あ、今日、それについて話してたよ」


 まさにタイムリー。

 いや、タイムリーだからこそ、私たちの出番なんだと思う。


「口が裂けた女が、凶器持って襲ってくる奴でしょ? ん? よく考えたら、凄い怖い。っていうか、かなりヤバい奴なんじゃ……」


 ちょっと震えてきた私とは違って、にーちゃんはボーっとしたまま足を進めている。

 いつものことだけど、何を考えてるかわからないな。


「昔に流行った都市伝説……なんで、また流行ったか……わかる?」


 そう考えると、確かに変だ。

 急に湧いて出てきたような話。この話題は今日知ったばかりで、今まで噂にもならなかった。

 なんでだろう。


「この口裂け女にの噂……広まっているのは……ここの辺りだけ」

「そうなの? 薫ちゃんは、ネットでも見たって言ってたけど……」

「口裂け女に関する話題……IPを調べた……全てここの辺りのもの」


 と言うことは、口裂け女の話題は、この辺りだけで発祥もここ、って事かな。

 それがまた、何だと言うんだろう。


「それがどうしたの?」

「簡単な事……実物が出た……ってこと」


 ここらに出る、だから、私たちが動いているんだ。


「って、本物!? 都市伝説なのに?」

「今回は昔流行った……都市伝説とは別物」


 そうなのかな?

 私には判断できないや。


「でも、いるなら、退治しないと! どこにいるかわかる……?」


 おかしい。

 妖怪が犯人だと言うのなら、どうして妖気を感じられる蓮子さんや陽子さんじゃなくて、にーちゃん何だろう。


「今回の件は……都市伝説っていう……噂も手伝ってる……この町全体の妖気がおかしいから……位置を特定できない……って聞いた」

「だから、私なんだね」


 と、そこで気づく。

 どうして、私が?

 それこそ、2人に手伝ってもらった方が確実なのでは?


「掲示板やSNSの噂……その統計から……位置を特定できた」


 す、すごい。

 虚実入り交じるネットの情報から、特定できるなんて……。

 情報処理能力が凄いって聞いてたけど、思っていたよりずっと凄い。


「で、その場所は?」

「……ここ」

「は?」


 にーちゃんの言葉に、足が止まる。

 前を見れば、電柱の影、そこに人影がある。

 長い髪に、白い洋服を着た……女の人。


「ちょっと! どうしよう、にーちゃん!」

「後は……任せる……」


 ええ!?

 そんなこと言われても……ちょっと困る。


「鬼の……力なら」


 こういう事に、そんなこと言うの、ちょっとずるくない?


「私は……荒事が苦手」

「あー、しょうがないなぁ!」


 私はじっと動かない女の人に近づいていく。

 だが、反応はない。

 俯いているけど、口が裂けているようには見えない。

 もしかして、無関係の人なのだろうか。

 注意喚起も含めて、声をかけてみよう。


「あの――」


 声をかけたら、女の人の頭がぐるんと回った。

 その顔の後ろ、長い髪が逆立ち、その隙間から大きな口が開いて、こちらに襲ってきた。


「嘘っ!」


 私はとっさに襲ってくる口を両手で押さえた。

 思ったより力強く、こちらにのしかかってくる。


「妖怪、二口女ふたくちおんな……」


 名前通り、顔と頭に口がある。いま、襲ってきているのは、頭の口。

 握り潰そうとすれば、それは容易だろうけど、この人も妖怪なら、そういう訳にはいかないよね。


「にーちゃん、どうしたらいいの?」


 アンドロイド故、にーちゃんの表情は変わらない。

 手立てがあるのか、窮地にいるのか、判断ができない。


「そのまま……押さえていて」


 にーちゃんが二口女に近づいていく。

 そして、手をかざしたと思うと、彼女の耳に手を当てた。


「ラン……アクセス……デバッグ……成功」


 にーちゃんが呪文を唱えると、開いていた頭の口が閉じていく。

 そして、普通の頭に戻ると、長い髪が下りてきた。


「終わった?」

「うん……もう……大丈夫」


 支えていた頭の重さが急に無くなる。

 目の前にあった頭が無くなり、女の人の顔がこちらを見ていた。


「あの、ありがとうございます。私の口がご迷惑をおかけして。助けてくれたんですよね」

「あー、えーと……」


 私は言葉に詰まる。

 ここはどう答えたらいいのだろうか。何を言っても恩着せがましくなってしまいそう。


「うん……助けた」


 にーちゃん!?

 何言って……って、間違ったことを言ってないし、一番無難な返答だったのかも。


「もう1つの口は……大丈夫……暴れたりしない」


 にーちゃんの言葉に、女の人は頭を下げて去っていった。

 とても優しそうな人だったのに、どうなったんだろう。


「都市伝説」


 にーちゃんが口を開く。


「それが原因で……抑えが利かなくなった……後は噂を消すだけ」


 何かしらの原因で二つ目の口が目撃されて都市伝説が流行り出した。その都市伝説が広まることで、きっと妖力を押さえられなくなった。

 だから、妖力を押さえた今、都市伝説さえなくなれば、もう暴走することもないんだと思う。


「でも、都市伝説なんて……」

「大丈夫……情報操作なんて……ちょちょいのちょい」


 にーちゃんが言うと、凄い説得力。


「でも、今回の騒動、私必要なかった気がするんだけど?」

「そんなことない……二口女を押さえてくれて助かった……私だけじゃ……できなかった」


 二口女は結構力強かったから、蓮子さんではきつかったかもしれない。

 でも、本気の陽子さんなら、楽勝だった気も……。


「うー……働いたから喉乾いた……冷却水飲みたい……」

「そうだね。私もお腹すいちゃった。一緒にジンガイ荘に帰ろう」


 私たちは連れ立って、ジンガイ荘へと向かう。

 今日のことで、にーちゃんが私を頼ってくれたことが分かった。

 これからも、力を合わせてやっていきたいな。

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