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第16話 みんな集まれ テスト勉強だよ

 すべての授業が終わって凝り固まった肩をほぐすために、ぐっと大きく伸びをする。

 これからカバンに教科書を入れようと動いたとき、前の席の真ちゃんがぐるりとこちらに身体を向けてきた。


「唯ちゃん! 勉強教えて!」


 唐突な展開に少し固まってしまう。

 どうして、勉強?

 ――あ、もうすぐ中間テストだ。


「まって! 私も勉強してない!」


 2人そろって顔色が真っ青になっていく。

 このままではヤバい。


「あれ? 2人そろって固まってるけど、どうしたんスか?」


 平然とした顔をした薫ちゃんがやって来る。

 これは、チャンスだ。

 頼み込めば、勉強を教えてくれるかもしれない。


「薫ちゃん、勉強教えて!」

「勉強できるよね!」

「なんなんスか、2人共。顔が近いっス! もう少し落ち着いて!」


 薫ちゃんに宥められて、ハッとする。

 いきなりこんなにお願いしても、薫ちゃんに悪いよね。

 きちんと説明しないと。




「なるほど……中間テストっスか。申し訳ないっスけど、力にはなれそうにないっス……」


 俯いた薫ちゃんの目が白い前髪に隠れてしまう。

 そう言えば、この3人で勉強の話をしたことがなかった。

 1か月以上一緒だったのに、これは問題だ。学生のくせに。


「あー、どうしたらいいの!」


 真ちゃんが頭をかき乱しながら叫ぶ。

 私も同じ気持ちだ。

 このままでは、中間テストが危ない。


「最後の手段だけど、彼女らを呼ぶっスよ」


 彼女ら……彼女ら……。

 ハッ! そうか、あの2人なら!

 私はパンパンと2回手を叩く。


「お呼びとあらば、いつも唯様の隣に……」

「正直、いつ気付いてくれるかドキドキしてたわ」


 蓮子さんと陽子さんが天井から降りてくる。

 どうして、天井から現れるのか、疑問だけど、今はそんな場合じゃない。


「お願い、勉強を教えてくれないかな?」


 頭を下げてから、上目使いで2人を見る。

 何となく、都合のいいように利用しているみたいで、気が引ける。


「もちろんです。この格代 蓮子にお任せあれ」

「こういうことなら、蓮子が適任ね。私は出番ないから、見守ってるわ」


 蓮子さんが1歩前進、陽子さんは1歩後退。

 蓮子さんが教師役みたい。まあ、教師役として本物の教師である日野先生が来たらそれは断りたいし。


「蓮子先輩、早速お願い。どんな勉強したらいい?」


 真ちゃんが蓮子さんに巻き付いていく。

 いつもの真ちゃんを見てるとわかるけど、この態度は相当追い詰められてる。窮鼠きゅうそが虎を噛むくらい追い詰められてる。


「勉強なんて簡単です。これを丸暗記すれば、百戦危うからず」


 蓮子さんが机の上に置いたのは、教科書。

 授業で使っている教科書全てが積み上げられている。

 そうか……天狗だからこういう覚えるということは得意……どころじゃない、天才なんだ。


「ふふふ、これで試験対策は万全。もっと私を褒めたたえてもいいのですよ!」


 うわぁ……蓮子さんの鼻が高くなってる。比喩じゃなくて本当に、物理的に。天狗だけに。


「こんなこと、できるわけないだろ。できないから、困ってるのに!」


 真ちゃんはかなり深刻な様子だ。

 でも、真ちゃんだけでなく、私も薫ちゃんもそんなことは無理だ。


「こんなこともあろうかと! 前もって作っておいた小テストで、実力をはかっておきましょう」


 少し時間を置いて、教室からクラスメートたちがいなくなるのを待つ。

 頃合いを見て、蓮子さんは懐からテストを取り出すと、私たちに配っていく。

 内容を見る限り、まともな問題だ。


「では、制限時間30分。赤点は20点未満、赤点を取った者はセクハラの罰ゲーム。よーい、スタート」

「ちょっと待って! 罰ゲームとか聞いていないんだけど?」


 真ちゃんの言葉は無視されて、無慈悲にテストが始まる。

 私たちはテスト用紙と対峙する。


 全教科の問題が1枚のテスト用紙にまとめられており、テストの問題はとても分かりやすい。


 なんの公式を使えばいいか、どのような構文か、どんな化学式か……それらがはっきりとわかる。

 問題文の情報も無駄がなく、すんなりと頭に入ってくる。


 だが、難しい。


 一筋縄でいかないものばかりで、慎重に答えを導かないとすぐに間違ってしまう。

 それに対して、制限時間が短いことから、手を止めている余裕はない。

 これなら、試験対策としてもバッチリだ。



「はい、終了。テスト用紙を集めます」


 蓮子さんの終了の合図で、机に突っ伏してしまう。

 それだけ、心身共に疲れ果てていた。


 真ちゃんも薫ちゃんも同様で机に突っ伏している。


 それから数分。

 蓮子さんからテスト用紙が返ってくる。


「はい、蛇上は、63点」

「思ったより良かったっス」


「唯様は45点。もう少し頑張りましょう」

「はい……」


「そして、江藤。18点でお前は赤点だ」

「ちょっ! 嘘でしょ? ダメだから、罰ゲームとか!」


 問答無用と、蓮子さんと何故か陽子さんが、真ちゃんの胸をまさぐってる。

 前もって課せられた罰ゲームだから、こちらから止める訳にもいかないし……。

 真ちゃんには悪いけど、見守る他ない。


「うう……なんか、唯ちゃんの気持ちが分かった気がする……」


 真ちゃんが涙目で、しかして、上気させている。

 私の気持ちが分かった言ったけど、ちょっと違うと思うよ。

 私、いつもそんな感じじゃないからね。


「公然でわいせつ行為ができるって、最高ですね」

「あんたは変態だよ!」


 真ちゃんの言葉に完全同意。


「冗談はさておき、このままでは、中間テストは危ういです。そこで、私特製の中間ドリルを使って勉強してください」


 今度は陽子さんがテキストを配っていく。

 何の変哲もない問題集。だけど、蓮子さんが作ったのなら、間違いないのだろう。


「これで勉強さえすれば、得点上位も狙えます」


 私たち3人は息を飲む。

 これがあれば、テストを乗り切れる。

 お互い頷き合って、テキストを手に取った。



 翌日。


「嬉し恥ずかし、テスト結果発表の時間です」


 前日と同じく、私たちは机に突っ伏してまともに動けない。

 このテスト、本当に難しい。


「蛇上は頑張った。76点」

「マジっスか!」


「唯様も上々です。58点」

「よかった。50点超えたよ」


「そして、江藤。てめーはダメだ。赤点19点。勉強さぼったな」

「いや……その……勉強しようとは思ったのよ。でも、つい漫画を読み始めちゃって……」

「言い訳無用!」

「罰ゲームよ!」


 真ちゃんは胸をまさぐられ、お尻を撫でられた。ついでに何故か陽子さんも参加してる。

 羞恥の為か、唇をぐっと噛んで耐えている。

 傍から見たら、私も同じような感じなのかな……ちょっとエロい。


「公然わいせつされたくなければ、勉強なさい」


 蓮子さんは厳しく言うけど、それはきっとこちらのことを思っての発言。

 やましいことはない筈……ないよね?


「これから、みんなで勉強とか……どうっスか? 1人で勉強できなくても、3人なら……」

「それよ! 薫ちゃん、いい提案よ!」


 さっきまで涙目だった真ちゃんも、薫ちゃんの言葉で一気に元気になった。


「みんなで勉強して、中間テストを乗り切ろう!」

「「「おー」」」


 私たちは先日貰ったテキストを広げると、シャーペンを走らせる。

 みんなで頑張れば、どんな困難でも乗り切れるはず。


「これはいい傾向。私たちはクールに去ります」

「唯様、頑張ってね」


 2人は飛び上がると、どこかに消えてしまった。

 そんなことはどうでもいい。

 今は、目の前の問題に集中しなくては!



 さらに翌日。


「えーと、テスト結果発表の時間です」


「蛇上、58点」

「うっ」


「唯様、49点」

「うぐぅ」


「江藤、17点」

「ぐはぁ」


 蓮子さんは目を閉じ、少し呼吸を整える。


「昨日は何してたんです? 3人で勉強して、今回はもっといい点を取る感動回になるはずだったのでは? 点が下がってるとか何事!?」


 私たちはバツが悪く、視線を外した。


「いや、あの後、つい、話が盛り上がっちゃって……」

「その後、みんなでラーメン屋に行っちゃったり……」

「その……面目ないっス……」


 そんな様子に蓮子さんの怒りは爆発した。


「全員! 全員、セクハラの刑だからお覚悟を!」


 私たちは抵抗することができず、蓮子さんと、何故か加わっている陽子さんからのセクハラを甘んじて受けることになった。

 なんか、本当にごめんなさい。





 あ、中間テストはいい点とれました。

 真ちゃんも赤点は免れたようです。

 本当に良かった。

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