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第15話 みんな集まれ ドッペルゲンガーだよ

 とぼとぼと1人で、帰り道を歩く。

 今日は真ちゃんも、薫ちゃんも用事があるってことで、私だけの帰宅になった。

 最近はいつも3人で行動してたから余計に寂しく感じる。

 早く家に帰ってぬいぐるみの手入れでもしようかな。


「あれ?」


 歩いていると、電柱の影に隠れる人影が前方にいることに気が付く。

 あの後ろ姿と金色の髪は、陽子さんに似ている。

 いつも隠れて私の観察してるのに、どうしたのだろうか。

 誰かを尾行してる?


 こっそりと、陽子さんの後ろに近づく。


「どうしたんですか、陽子さん」

「ヒヤッ!」


 声を掛けたら、とんでもない高音の悲鳴をあげられる。

 何か悪いことをしてしまっのだろうか。

 こちらを向いた陽子さんの顔を覗き込む。


「なんだ、唯様ですか。もう、びっくりさせないでよ」

「ごめん。そんなつもりはなかったんだけど」


 お互いに笑い合う。

 結局、何をしていたんだろう。


「――って。唯様!? ど、どうしてここに?」


 陽子さんは目を丸く見開いて、ノリ突っ込みの勢いでこちらを尋問してくる。

 どうしてと言われても、学校帰りなのだから、私がここにいて悪いことなんてないはずだ。


「落ち着いて、陽子さん。私はここにいるよ」

「いえ、違うんです。私、さっきまで唯様を尾行してたのよ」


 やっぱり尾行してたんだ……尾行?

 私はここにいるのだから、尾行されていたはずはない。


「ど、どういうことかしら。振り返れば、ほら、唯様が……」


 陽子さんが振り返ると、私が立っていた。

 私!?

 なんで、私がいるの!?

 もしかして、そっくりさん!?


「え? え? 唯様が2人……?」


 2人の私を陽子さんが交互に見る。

 私も混乱して、正常な判断ができない。

 だが、こんな話をどっかで聞いたことがあるような気が――


「もしかして、ドッペルゲンガー?」

「え? そんな事本当に信じて――」


 もう1人の私は無表情のまま、こちらに手を伸ばしてくる。

 私を触ろうとしているように見えるけど、何をするつもりだろう。

 握手?

 差し出された手を握ろうとしたが、陽子さんが相手の腕を握って、握手を防ぐ。


「唯様! 触れてはダメよ。なんだか、嫌な予感がするの」


 もう1人の私――ドッペルゲンガーは腕を握られているというのに、こちらに手を伸ばすのを止めない。

 一言も漏らすことなく、ただ手を伸ばしてくるその様子は尋常ではない。


「唯様、逃げるわよ!」


 陽子さんの蹴りがドッペルゲンガーの腹に決まり、後方へ吹き飛ばした。

 すると、陽子さんが私の手を取り、走り始めた。

 訳がわからないまま、陽子さんの後について走った。



 しばらく走って、陽子さんが肩を上下させながら、私の手を放す。

 ハァハァと、陽子さんは息が切れている。運動は苦手みたい。


「どうしたの、陽子さん」

「あいつ……ドッペルゲンガーに対して嫌な予感がしたの。妖狐の第6感っていうやつよ」


 それって、もしかして、もう1人の自分を見ると死ぬって話なのかな。

 その異常を、陽子さんが嗅ぎ取ったってこと?


「あー、こんな時に蓮子がいたら、ドッペルゲンガーについて色々と分かる筈なのに!」


 陽子さんはその綺麗な金髪をかき乱す。

 そう言えば、蓮子さんがいない。


「蓮子さんは?」

「コスプレ写真撮影会に行くって言ってたわ。こんな非常時に何やってんのよ」


 何となく、蓮子さんらしいと思ってしまった。

 でも、蓮子さんの知識を借りられないのは、辛い。

 前はゲシュペンストについても色々知っていたから助かったわけだし。

 知識は武器、ということを思い知らされる。


「これは、私の勘だから、本当かわからないけど、あのドッペルゲンガーはマイナスの存在だと思うわ」


 マイナスの存在。

 マイナス、自分とは正反対の存在。プラスとマイナスがくっつけば、ゼロになる。

 つまり――


「触れれば、消滅?」

「その可能性があるんじゃないかなって。逸話的にもそんな感じじゃ――」

「陽子さん! 後ろ後ろ!」


 陽子さんの肩越しに、もう1人の私の顔がこちらを覗いている。

 これは、思った以上にホラーだ。


「くっ! こっちよ!」


 陽子さんは再び私の手を取ると、走り出す。

 その後ろにいたドッペルゲンガーに体当たりをかまして、この状況を突破する。

 今はとにかく、奴から距離を取ることが必要だ。



 細道から、繁華街の大きな道へ逃げ込む。

 あまり開発が進んでいないとはいえ、そこそこの人が道を行き交っている。

 ここにひそめば、目立たない筈だ。


「困ったわね。このまま逃げ続けるわけにもいかないし」

「退治とかできないのかな?」


 私の提案に、陽子さんは首を捻る。

 どうも、賛同できない様子だ。


「難しいわね。やっぱりドッペルゲンガーに対する知識が不足しているわ」

「私が知ってる限りだと、世界には3人同じ顔をした人がいる。その人と出会うと、死んでしまう。これぐらいかな」


 陽子さんは目を閉じ、顎に手を当て、何かを考えるようだった。

 少しして、目を開いた陽子さんだったが、その様子は険しい。


「そう……ね。私も唯様と同じ程度しか知らないわ」

「やっぱりそうだよね」


 そもそも、ドッペルゲンガーが悪霊の類なのか、ということすら知らない。

 きっと、海外の怪異なんだろうけど、どこの国とか全然わからない。

 ドイツ語……に似てる気もするけど……どうなんだろう。


「ここは逃げ回って、蓮子と合流した方がいいわ。幸い、スマホがあるから、連絡を取れば――!」

「陽子さん! あそこ!」


 私たちが逃げてきた方向とは逆方向、つまり、正面にドッペルゲンガーが現れた。

 ただ、追いかけてきている訳ではなさそう。

 ワープとか、瞬間移動とか、そんな能力もあるみたい。


「ここで逃げ回るのは分が悪いわね」


 逃げてきた先は、繁華街。

 人が多くて、走って逃げるには適していない。

 陽子さんの後について、わき道へと入っていく。



 わき道は複雑に絡み合っている。

 網の目みたいに規則正しいのなら、逃げやすいのだけど、そんな都合がいいことはない。

 ドッペルゲンガーから逃げる為に、無作為に走るしかなかった。

 そして、都合の悪いことに、袋小路に逃げ込んでしまった。


「しまったわね……」


 引き返そうと、後ろを振り向いたら、そこには私がいた。


「! 唯様!」


 陽子さんは私をかばうように、ドッペルゲンガーとの間に立ちふさがった。

 私が何かしてあげれればよかったのだけど、奴に触れてしまったら何が起こるのか、わからない。

 ここは陽子さんに助けられるしかない。


「これは、最後の手段だったのだけど……」


 迫るドッペルゲンガーの腕を陽子さんが掴む。

 そうすると、相手の体から火が噴き始める。

 これは、狐火。陽子さんの十八番で、これに焼かれれば、大抵の怪異は燃え尽きるはず――


「やっぱり無理ね」


 体のあちこちに青白い火が灯っているにも関わらず、ドッペルゲンガーは全く意に関していない。

 それどころか、より力を強めているのか、陽子さんが押され始めた。


「唯様、これから本気を出すから、このことは誰にも言わないでね」


 言うと、陽子さんに金色の狐耳としっぽが現れる。

 この程度なら、しょっちゅう見ている気がするけど……と、思っていると、尻尾が増えた。

 2本、3本と、その数が1つずつ増えていく。

 そして、最終的には、尻尾が9本にまで増えていた。


「これって……」


 私が言おうとすることを塞ぐように、9本の尻尾がピンと立つ。

 すると、燃えても変化のなかったドッペルゲンガーが一瞬で灰になって崩れてしまった。


「ふう……こんなベタな展開は見せたくなったのに……」


 陽子さんは1つ息を吐く。


「あれよ、漫画とか、アニメで出てくる妖狐の正体って、だいたいが、白面金毛九尾はくめんこんもうきゅうびの狐じゃない? 3大妖怪の1つのアレ。あー……恥ずかしくてこんな姿、見せたくなかった!」


 陽子さんはしゃがむと、顔を手で隠して恥ずかしがっている。

 うん。本当にベタな展開。

 もう、ドッペルゲンガーとか、どうでもいいや。


「絶対に、他の人には内緒ですからね!」


 陽子さんに釘を打たれた。

 確かにこのことは、本人のプライドの為に黙っていよう。


「はぁ……じゃあ、帰りましょう」


 肩を落とし、しょんばりとしている陽子さんの尻尾が1つ1つ消えていく。

 そして、最後の1本が……1本が……消えない。

 今度は陽子さんの体がぷるぷると震え始めた。


「久しぶりに力を使ったから……元に戻らない……」


 涙目でこちらを見つめてくる。


「大丈夫だよ。日本はコスプレに関して大らかになったから……」

「それ、全然大丈夫はないから! あーもー」


 陽子さんは消えていない頭の耳を押さえながら、自分の感情を言葉にできずに悶えていた。



 結局、耳と尻尾を隠せない陽子さんと一緒に帰ることになった。

 道行く人は、陽子さんの耳や尻尾を気にしているが、直接何か言ってくることはない。

 昔なら狐憑きとか騒ぎになっていたかもしれない。


「おおっと! ブレザー狐っ娘発見! これはレアですよ! カメラに収めなくては!」


 突如現れた蓮子さんが、カメラを構えてシャッターを切ってくる。

 まだ、コスプレ撮影会のイベント中だと思っている様子だ。


「お前のせいなんだよ! この駄天狗が!」


 陽子さん渾身の蹴りが、蓮子さんの腹に決まり、はるか遠くへ吹き飛んでいった。

 これは、擁護できないなぁ。

 さよなら、蓮子さん。

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