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第10話 みんな集まれ 赤字経営だよ

「今、ジンガイ荘は経営の危機にありますー」


 夕飯に集まったジンガイ荘の面々に向かって雪絵さんがとんでもないことを言いだした。


「え? ちょっと待って下さい。私はここに住み始めてまだ1か月しか経っていないんですけど……」


 いきなりこんな展開になって驚くより先に呆然としてしまう。

 まだ何も始まってないっていうのに、家賃が安いって触れ込みでここに来たのに、どうしてこうなった?


「まずはですねー……双葉ちゃんは就職できないただ飯食らいですしー」


 鎌田さんがさっと視線を逸らす。

 鎌田さんでも気まずく思うことがあるんだ。

 もしかしたら、お酒のお金も借りてるんじゃないかな。


「次にですねー……にーちゃんは電気使い過ぎー。絵師をやっていると言っても無収入ですしー」


 にーちゃんはぼーっと虚空を見つめたまま、特にリアクションがない。

 アンドロイドだから表情が乏しいにしても、ここは申し訳ないような顔をしようよ。

 まるで反省していないって思われても仕方ない。


「蓮子ちゃんと陽子ちゃんは、親御さんが野菜を送ってくれてますー。でも、現物支給なので、食事のおかずが1品増えるだけですねー」


 格代さんと助本さんは、頷くだけで悪びれる様子もない。

 2人は納めるものは納めていると思っているみたい。

 どう考えてもアウトだよ。


「そして、唯ちゃんー! 唯ちゃんだけが、家賃を払ってくれる、うちの救世主なのー。絶対に手放さないから、そのつもりでいてねー」


 ジンガイ荘に対して色々と思うことがあったけど、この感覚は後悔だったのかもしれない。

 ともかく、雪絵さんの話を聞く限り、今までどうやって経営してきたのかわからない。

 お母さんがこのジンガイ荘を紹介したのも、雪絵さんを助けるためだったのかもしれない。


「そこでー! 市役所からの要望で地域指定管理組合の真似事をやることになりましたー。ぱちぱちー」


 雪絵さんが拍手すると、パラパラとまばらな拍手が居間に響いた。

 地域指定管理組合それって――


「おや、唯様はご存じない?」

「要するに怪異による問題を解決する組織って事よ」


 それは、嫌というほどよく知っている。

 ここでも、それに関わることになるなんて……。


「これでー、市役所から援助金がもらえることになりましたー。だからー……死ぬ気で頑張ってねー」


 周りを見ても、それに不満がないのか、反対の声は上がらない。

 みんなは地域指定管理組合の本当の意味を知らないのかな。


「すでに依頼が来ていますー」


 雪絵さんがごほんと咳ばらいをして、内容をしゃべり始めた。


「記念すべき初めての依頼は――行方不明者の捜索ですねー。」


 行方不明者……いきなり重い依頼だ。

 それは警察の仕事じゃなのだろうか。どうして、こんなところに重大なことを?


「それじゃあー、唯ちゃん、蓮子ちゃん、陽子ちゃんの3人でササっと解決してきてくださいねー」

「ちょっと待って下さい! そんな軽いノリで!?」


 ちょっと犬の散歩に行ってきて、程度の気軽さ。

 人1人が行方不明になってるんだよ。しかも、市役所から依頼されるほどのものだよ。


「それでは、唯様」

「この程度なら、夕食前ですよ」


 2人が私の両脇を固めてくる。

 そのままずるずると引きずられていく。これって、もしかして、例の宇宙人が連れ去られる図になってない?

 そのまま、屋外へと持っていかれた。




 日は落ちて、辺りは薄暗い。

 こんな状況で人探しなんて無理に決まっている。2人に言うべきだろう。


「2人とも、こんな時間に捜索なんて無理ですよ」

「おや、唯様はわかっておられない様子」

「ここは軽く説明させてもらうわ」


 先行して歩く2人がこちらを向きながら話し始める。

 前を向いて歩かないと、危ないと思うのだけど……。


「まず、市役所からわざわざジンガイ荘へ依頼があった。ここまではわかりますね」

「それくらいは」

「人とは異なる者が集うジンガイ荘に依頼があるということは、怪異絡みと言うことね。だから、私たちの出番ってわけ」

「そこに繋がるロジックが分からないんだけど……」


 2人が足を止めると、腰に手を当てて胸を張る。

 意外と胸が大きいことが分かって、少しショックを受けた。


「百聞は一見に如かずと言います」

「まずはこちらをご覧くださいね」


 助本さんが指をパチンと鳴らすと、いつぞやかに見た狐火が辺りを照らした。

 すると、目の前に――


「きょ、巨大な蜘蛛!?」


 壁と電柱に張り巡らされた巣に、何かを捕獲したのか、糸でぐるぐる巻きになった何か。

 その何かは、きっと行方不明者。


「こちら、ジョロウグモの妖怪でございます」

「私たちは妖力を追ってきたという訳よ。市役所が怪異だと判別できる程度の依頼なら、これくらいはお茶の子さいさいって事」


 妖力……まるで分らなかった。

 格代さんと助本さんは、この蜘蛛の妖力を察知していたということ?

 この問題をこちらに投げかけてきた雪絵さんもそれを知っていた?


「この程度、さっさと片付けるわよ」


 蜘蛛の太くしなやかな糸は、狐火によって簡単に燃えていく。

 簀巻きにされていた行方不明者は糸から解放されて、重力に従って落ちていく。それを颯爽と格代さんが抱きとめた。


「なら、後は私が――」


 振り上げた拳を助本さんに止められる。


「ダメです、唯様! 怨霊を倒した時のことを忘れたの?」


 以前、怨霊を退治した時、私の拳で霧散させた。

 そうか、私の力が強すぎるんだ。


「この蜘蛛の正体は我々と同じ妖怪よ。おそらく、この町で人として住んでいたんでしょうね」


 蛇上さんと同じだ。

 この町には、色々な妖怪が人として普通に暮らしている。私の地元とは違う。

 問答無用で退治すればいいという訳じゃない。


「シャァァァァッ!」


 巣を焼かれた巨大蜘蛛はこちらに向かって糸を吐きかける。

 ピアノ線よりはるかに太い糸に絡まれたら、私はともかく、2人は……


「ここは蓮子に任せるわ」


 飛んでくる糸を助本さんが焼き払う。

 そこに救出した人をどこかに置いてきた格代さんが羽団扇はうちわをもってやって来ると、それを振るった。

 巨大蜘蛛を中心に竜巻が起こる。あまりの強さにスカートと髪を押さえて耐える。

 しばらく耐えていると、いずれ竜巻がおさまった。


「ふぅ、これにて問題解決です」


 格代さんがビジネススーツを着た女性を抱きかかえている。今は寝ているように見えるけど、その顔は憔悴しているようだ。

 もしかして、蜘蛛になってから、かなり時間が経っていたのかもしれない。


「この人が……」

「そうよ。蓮子の羽団扇はうちわで暴走した妖力を分散させたの。何らかの理由で、人間の姿を維持できなくなって、正体を現してしまったのでしょうね」


 こんな事が起こるなんて、知らなかった。

 もしかして、お父さんたちはこれを知っていて管理していたのかな。


「2人は私にお任せください」


 格代さんは行方不明者と一緒に元蜘蛛の人を病院へと連れていく。

 何もできなかった私は、そんな様子を傍から眺めていることしかできなかった。


「唯様、今回はどんな仕事をするのかを見せるのが目的だったのよ。次からは唯様に頑張ってもらいますからね」


 助本さんがウィンクして見せた。

 もしかしたら、今までもこんなことをして、町の問題を解決してきたのかもしれない。

 何も知らなかったのは、私の方だった。

 これからは、私もこの町を守る為にやれることをやっていこう。

 ただ、毛嫌いするのは、よくないよね。


「さささ、唯様。ジンガイ荘に帰りましょう。みんなが私たちの帰りを待っているわ」

「そうだった。みんな夕食を待っているんだよね」


 助本さんと一緒にジンガイ荘へ帰っていく。

 今度は引きずられるのではなく、自分の足で、自分の意志でジンガイ荘へ向かう。


「夕飯のメニューは何でしょう。今からお腹が空いて仕方ありません」


 もう、格代さんが帰ってきた。

 本当に2人にはお世話になりっぱなしだ。

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