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覚醒

退院して会社にでるものの、仕事は干され、庶務課の手伝いに・・・しかし、そこから治を覚醒させる事件が起きる。



1週間程休んだが・・・特別やる事もなく、暇を持て余した治はとりあえず会社に行ってみる事にした。(例の救世主だとかの話は急がない事に自分で決めたので・・・)






会社に出勤する前日に病院に行き、一応外科の坂崎教授に会って体調に変わりがない事を告げる。(もちろん例の話は伏せてある。でないと違った意味で入院させられそうだからである)


ついでに身体のザイズを知っておこうと思い、身長、体重、簡単な体力測定をしてもらった。

身長は予想はしていたのだが、10センチも伸びていた。180センチ、71キロ、握力は(軽く握っただけなのに85キロ・・・・本気では測定できそうもない。)その数字を見て、背筋力その他は辞退せざる負えなかった。また騒ぎになりそうだからである。












スーツやその他の服も一通り買い直した。結構な出費である。しかし、最近女っけもなく寂しく過ごしていた為にyとっとした貯金は持っていたので何とかなった。








会社に行ってからまず部長、課長に迷惑をかけたお詫びと報告をする。


「長くお休みをいただきました。すみません」


「・・・・ああ、もう来たの?困ったなぁ、当分休むって聞いてたから、一人配属して貰ったんだよね・・・・君、仕事ないよ、まあ・・・庶務にいって手伝いでもしてなさい。」


「あ、そうですか・・・判りました。」


「・・・柴田クン・・・君、背が伸びた?なんか印象違うけど・・・」


「・・・あ、姿勢を直すのに、整体してもらったら・・・少し伸びたみたいです・・・」


あらかじめ考えていた(かない苦しいが)セリフを吐いて、その場から離れる。


すぐに庶務課にいって、課長の指示を仰いだ。


「スミマセン・・・営業から手伝いにしばらく行くように言われたんですが・・・」


「あ、そう・・・うちは窓際の配属場じゃあないんだけどね・・・とりあえず、お茶の用意を全部署まわってくれる?うちだって仕事が余ってるわけじゃないからね。」


予想通り冷たく言われ、適当に相槌をうつと、給湯室に向かう・・・・










「なんかさぁ・・・営業の駄目駄目くんがうちに来るってきいてたんだけど・・・なんかあの人感じ変わってない?さっきみたらちょっとイケテルんだけど・・・」


「えー?そう?・・・あ、でも前見た時よりいいかも。」


「でしょ?あたし・・・あれなら・・・ありかなあ。」


「やめときなさいよ!見た目がちょっとよくたって・・・将来、あれじゃあねえ・・・」


「そっか・・・そうよねぇ」




どうやら自分の事で盛り上がっているところへ、なかなか入っていけない治であった。出入口で立ち止まっていると・・・


「あら、なにか御用?」


女性に声を掛けられた。振り返ると、庶務課の華、橘次長が立っていた。まじかで見たのははじめてだが、確かに同僚たちが卑猥なネタの妄想話に使うのも頷ける。『美しい』の一言である。


橘玲子(32才)独身、役職である彼女は庶務課の他の女性と違い事務服ではなく、光沢のあるグレーのスーツ姿である。少し栗色がかった髪はウェーブして肩に落ち、シャープなラインのメガネは知的さを醸し出している。今自分が何をしに来たかも忘れて、治は見惚れていた。


「・・・・ちょっと?ちょっとあなた?」


ハッと我に帰ると、橘次長はかなり怪訝そうな顔でこちらを見ている。


「なにか御用なの?・・・あなた確か営業の・・・」


「はい、柴田です。事故に遭って入院していたんですが・・・帰ってみたら仕事がなくて、しばらく庶務で手伝えと言われました。」


「ああ、聞いてるわ・・・で?何してるの?」


「お茶を部署ごとに出すように言われたんですが・・・中が盛り上がっていて・・・」


「・・・なるほど・・・そんなにシャイなら営業で干される訳ね・・・いいわ、今日はあたしの手伝いをしてもらうから、着いて来て!」


「あ、はい。」













言われるままに後を付いて行くと、駐車場に向かっているようだ。


「あの・・・どこへ?」


「ちょっと待って」


そういうと玲子は携帯を取り出して、話し出した。


「課長?橘です。いまから例のクレームの件行って参ります。ハイ。あ、営業の柴田くん。借りて行きますね。ハイ・・・ハイじゃあ。」


課長に引き継ぎをして、治に向き直る。歩きながら


「ちょっとしたクレームなんだけど・・・顧客のその会社、表向きは株式会社なんだけど・・・」


「・・・ヤクザ?ですか?」


「ええ・・・今回は従業員の事故での怪我で、請求がきてるんだけど・・・どうやら不正らしくて、調査員から報告が来てるのよ。で、支払い拒否してるんだけど。納得しないみたいで、うちの社はこういう担当部署がなくて、大抵庶務に回ってくるから。」











営業でも、いかにもという会社には進んで入っていかない治である。こういう体験をした事ももちろんなく、かなり不安であった。













玲子の運転で連れてこられたビルはオフィスビル、というより雑居ビルのようなつくりで、階数によってはラウンジやパブの類の看板が見える。二人でエレベーターに乗りこみ、目指す事務所に向かう。『江藤興業(不動産管理、芸能プロダクション)』とある。どうみても芸能人が出入りする場所ではないと思うのだが・・・・


「こんにちは、三笠生命の橘と申します。社長様か営業部長の江藤様かおいででしょうか?」


そう玲子が涼しげに申し渡すと、パッとみヤクザいやまさにヤクザなお兄さんが


「ああ、ちょっと待ってろ。」


と、事務所の真ん中の無駄に大きいソファーに案内してくれた。玲子が名刺を手渡すと、


「へ〜・・・次長さんかよ、あんたイケてるな。」


と、イヤらしい目つきで見渡している。一方の玲子は慣れているのかどこ吹く風である。さっさとソファーに座った。


しばらく待つと


「兄貴は出張でな、代わりに俺が話聞こうか?おれが一応部長の江藤だけどな。」


そういって恰幅のよいこれまたヤクザのお約束グッズの塊のような中年男が向かいに座った。


「単刀直入に申し上げます。当社の規定により、今回のケースは保険金をお支払いできません。調査員の調査により、『支払責任なし』という結果になっています。」


スパッと刃物で切りつけるように玲子は伝える。


「おいおい、支払い責任なしって、こっちは高い保険金毎月毎月払ってるんだぜ?いざけが人がでた途端に払わねーってのは・・・どういう了見だ?なんなら今までかけた分、利息付けて返してもらってもいいんだぜ?ああ?!」


「そうおっしゃられても・・・規定ですから。なんなら訴訟にかけられたらいかがでしょうか?法定で争っても、今回は弊社の言い分が通ると思いますが・・・」


「おい、ねーちゃん!お前うちの会社舐めてんのか?」


「いえ。」


「とにかく払うもん払ってくれりゃそれでいいだけどなぁ・・・あんまり融通の利かねえ事ばっかり言いやがると、そっちの部屋連れて行って着てるもんひんむいてAV撮影してやってもいいんだぜ?あんたならそれなりの値段で売れるだろうよ・・・」


そこまで開いてが言い終わった時に玲子はさらに追い打ちをかけた。


「今のは恐喝、もしくは脅迫にあたりますね。大騒ぎになれば、御社のほうがお困りになるんじゃないですか?」


「なんだと?!コラァ!!」


その声に反応して奥から屈強な若者チンピラが5人、出てきた。


「お前ら!そこの姉ちゃんひん剥いて撮影だ!!」


「止めなさい!放して!!」


さすがにもの手際には玲子も驚いたらしく、慌てて立ち上がろうとするが、すでに二人がかりで押さえつけられていた。一方の治もゴリラのような男に肩を掴まれて動けない。


「おい、にいちゃんおとなしくしてなよ、いいもん見せてやるから・・・」


そういいながら、江藤という男と若者たちは、玲子を連れて奥の部屋に入っていく。


何とかしなければ・・・・肩を掴まれて動けない治は考えた。

・・・・動けない・・・動けない?・・・・あ、俺今結構強いんだった。











そう思った瞬間に立ちあがると、肩を持っていたゴリラは身体が傾いて転んでいた。


「お、お前おとなしく・・・」


言い終わる前にゴリラ男の腕を掴み、片手でくるっと一回転させてソファーに投げた。


「グハーっつ!」


卒倒して起き上がらない。『いける!』そう思った治はそのまま奥の部屋に入っていく。中では叫びながら抵抗している玲子にチンピラ達4人が大きなベッドに押さえつけて、すでに玲子のブラウスを引き裂いているところだった。一瞬全員こちらを見たが、問題なしと踏んだのであろう。行為を続け始めた。



治はまず一番手前で玲子の脚を抱え込んでいる男の髪の毛を掴み、無造作に壁に投げた。

”ブチブチッゴンッ”と鈍い音がしてそのまま倒れる。それを見てびっくりしているもう一人の脚係の腕を掴み、思いっきり握りしめた。

”ボキボキ・・・グシャッ”と音と手ごたえが治に伝わる。

『うわっ・・・気持ち悪!』

その場で、叫びだす男。あらぬ方向にねじれた腕をもう一方の腕で抱えるようにしゃがみこむ。



「何してるんだ!!この野郎!!」


他の二人が一斉に殴りかかってくる。ちょっとビビる治だが、よく見れば、パンチがはっきり軌道まで見える。軽くかわして一人の首に軽めにチョップ!もう一人の腹にも軽めに横蹴りを入れた。


果たして一人はその場で気絶。もう一人は派手に2メートル程飛んでバウンドした。


「ゴハァッ・・・・」


江藤と、玲子はそのわずか5秒程の出来事をあっけにとれられて見ていた。二人ともポカーンと口が開いていた。



安否を気遣い玲子の元にいくが、悩ましげな姿に声が掛けられない。見れば、薄いパープルのブラジャーに豊満な白いふくらみがあふれんばかりに自己主張している。下はというと、半分裂けてしまったスカートからやはり薄いパープルのレース仕立てのショーツがほとんどあらわになっている。パンティストッキングではなくガードルタイプだったので、余計エロティックである。


黙ってスーツの上着を脱ぎ、玲子をなるべく見ないように手渡すと、自分の現状をやっと思い出したようで、慌てて上着を羽織り、自分で自分を抱くようなカッコをした。


「お、お前・・・いったい何だ?うちの若いのにこれだけの事してくれたんだから、どうなるか判ってるんだろうな?」


落ち着きを取り戻した江藤は多少、治と距離を置きながらそう言った。


「俺・・・やりすぎましたかね・・・」


苦笑いをしながら玲子を見る。


「・・・そうね・・・でも仕方ないでしょ!あたしを助けてくれたんだし・・・まぁ、でも後跡面倒なのも嫌だから、警察呼びましょうか?柴田君・・・もしかしたら過剰防衛になっちゃうかもしれないけど・・・強姦未遂の証拠もあるし・・・」


「強姦?!笑わせるな!なんの証拠があるって言うんだ。わっはっは」


江藤がふてぶてしくそう笑った。

そう言われた玲子はベッドの脇に行って落ちている自分の上着を拾い上げる。うちポケットを探って、お目当ての物を見つけた。玲子が手にしているのはボイスレコーダーだった。


「ここにあるわよ。」


「じゃあ、橘さん、110番して下さい。俺、この人見てますから。」


「本当にいいの?」


「ええ、どうせ窓際ですから・・・首になったってしれてますし。」


しばらく治を見つめていた玲子だが、携帯で110番通報した。











結果から言うと・・・・・治は厳重注意を受けて、一晩留置場に留められたが、場合が場合の為、今回はおとがめなしだった。訴えて金を取ってやる!と息巻いていた江藤達だったが、名ばかりの芸能プロダクションの看板が仇になり、今回の強姦未遂が元で、余罪を徹底的に洗われているようだ。しばらくは心配いらない様子であった。




会社はというと・・・・・


「お勤め御苦労さま♪」


「止めて下さいよ・・・・橘さん。」


「会社の処分が決定したの。だからそれの報告も兼ねて迎えに来たって訳。」


「あ、はい。」


「柴田治、営業一課より、庶務課に転属の事!」


「・・・え?・・・首じゃあないんですか?」


「当たり前でしょ?あたしがこの前の立ち回りをきちんと報告して、腕っ節をかって庶務課に貰ったのよ!ただし・・・あたしと一緒に、めんどくさい業務が増えるって事だけどね。」


「判りました。ありがとうございます。」












その夜、「お礼」という事で、玲子に食事に誘われた。もちろん二つ返事でOK。

仕事が終わった後の玲子は・・・・ますます美しく。治は鼓動が早くなるのを抑えきれない。



イタリアンの洒落たレストランで、ワインを酌み交わす。

その時、急に世界が止まる・・・・・・いや治が加速しているのだろう。


『どうだ・・・・決心はついたか?』


また胡散臭い神様のお出ましだ。


『そんなにすぐは、結論でねえよ・・・』


『・・・・しかし、ほかの9人はすでに何かしら動き出しているようだぞ。』


『そいつらに会いたいんだけど・・・・どうすれば?』


『直に誰かがお前に接触してくるだろう。』


『敵として?』


『さあな・・・一部はすでに敵としてお前を捉えているようだがな。』


『とにかく、まだどうするかわからない。』


『・・・そうか・・・』


目の前の止まった玲子を見ていた治にその時、頭の中をお下劣な考えがよぎった。

考えた事が伝わったのであろう。


『別に一度授けた能力をどうこう言う訳ではないが・・・・あまり賢い使い方ではないな。』


『うるさいよ!いいじゃん!!ちょっとぐらい美味しい思いしたって。』


『とにかく!早めに自分の身の振り方を決めておけ!いいな。』


そこまで言うと、神の声は消えた。と同時に世界が動きだした。

そこでもう一度、玲子を見る治である。玲子も治をみてほほ笑んでくれた。

決心を固めた治は、初めて自分の意思で加速を使ってみた。さっきと同じように世界がとまり、音が消えた。






生唾を飲み込んだ治は・・・・・あろうことか、テーブルのしたにしゃがみ、玲子の下着を覗きこんだ。神があきれる訳である。下着を確認して鼻息を荒くした治は立ち上がり、玲子の唇にそおーっと自分の唇を・・・・






「最低!!・・・・変態!」






無音の筈のこの止まった世界にその叫び声が響いた。

振り返った治がみたのは、17〜18才の女子高生だった。






なんともお粗末なヒーローである。気持ちは分かるが(男のロマン!)

この痴漢行為の目撃者はいったい誰なのか?

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