重力マスター
いきなり出てきました...そうあの人食いアメーバーです。
「・・・・おいおい・・・あれって・・・あれだよな?」
「そのようですね・・・」
「間違いないです。凛がやったんだと思います。」
三人はその巨大な緑のオブジェ(実際には人食いアメーバーなのだが)をポカーンと口を開けて観察した。
「あれは(緑の侵食者)って名前なんだそうです。凛が言ってました。」
「・・・まさに侵食者だな・・・ひたすら食い続けるし。」
「どうするか・・・」
「柴田さん、火も風もこちらにはありません。我々にはどうする事も出来ない。!」
「・・・・まあ・・・そうなんだけど・・・でもほっとく手もないだろ?このままだとショッピングセンターの中にいる人間がみんな喰われちまう!」
そうはいったものの・・・治にも自分たちにできる事があるとは思えなかった・・・
「・・・あ、の・・・」
優斗が口を開く。
「?!どうしたんだ?なにかあの化け物の弱点でも?」
治がそう聞くと、優斗は不安げに・・・しかしはっきりと言った。
「僕が、やっつけましょうか?侵食者・・・」
「え?」「え?」
優斗は『やっつける』と言った。治の知る限り優斗の能力で侵食者に効果があるものは思い当たらない・・・やはりまだ見せてないという能力なのだろうか?
「ど、どうやって・・・」
「こんなに大きな物に試してみた事はないんですけど・・・多分なんとかなると思います。」
そう言うと、優斗は両手を開いて肩より高く上げた。
二、三秒待ったが・・・・何も起こらない。
「優斗君?」
「静かに!気が散ります!!」
子供にたしなめられ、治は肩をすぼめる・・・・そのまま20秒程経過した時、大きな『ブブーン・・』という音と共に足元からかすかに地響きが伝わってきた・・・・
どうだろう!!果たして緑の化け物は静かに色がだんだん黒くなっていく・・・・
もう一度いったい何が起こっているのかを優斗に聞こうとする治だが、階堂が治の肩に手を置き首を振る。
『彼に任せましょう』階堂は眼でそう語っていた。
その間にも侵食者に少しずつ変化がある。ショピングセンター全体にかかっていた緑色のアメーバーは端から器用にめくれ始めて、だんだん大きな黒い球体に変化していった。
『ブブーン・・ブブーン・・・』
大きな効果音と共に、最終的には直径100メートル程の球体になった侵食者は優斗が力をこめて両手を近づけていくと、それに併せてだんだんサイズが小さくなっていく。よく判らないが、重力マスターである優斗の能力でその球体にアメーバーを閉じ込めているようだ。
優斗が力を入れる度に、どんどん球体は小さくなっていく・・・・
「ううっ・・・」
優斗の顔色がかなり悪い、能力を解放している事が原因だろう。
「優斗君!!大丈夫かい?」
「・・・はい・・・でも最後に仕上げがありますから・・・」
そう言うと、優斗はさらにさらに力を込める・・・顔が真っ青になっている
一度深呼吸をした後、開いていた両手を思いっきり『パチン』と合わせた。
するとどうだろう・・・もうすでに直径が10メートル程に小さくなっていた黒い球体は
『ドンッ!!!』
・・・とまるでシャボン玉のように消えてしまった。
しかしその途端に優斗が倒れこみ気を失う。全員、加速状態だったので慌てて治が抱きかかえ、人目のないショッピングセンターの裏手の非常階段に運ぶ、加速を解いて意識の回復を待った。
「・・・・うまく・・・いきましたか?」
意識が戻った優斗の第一声は侵食者の処分が無事に終わったかどうかだった。
「ああ、最後に消えてしまって、今は出て来てない。頑張ったね!」
「よかった・・・まだ小さな物体でしか試した事がなかったんです。こんなに疲れるとは思いませんでした。」
「優斗君。あれは・・・どういう原理なのか、説明できますか?」
「重力の層を作って・・・包み込む感じなんですけど・・・消した物がどこに行ったかは、確認できませんでした。本当に無くなってればいいんですけど・・・」
「まあ・・・毎回優斗君に任せるわけにもいかないし・・・俺が凛を倒すしかないんだよな・・・結局のところ。」
確かに、今回は優斗の能力で事なきを得たが、何度もやらせるわけにはいかない筈だ。
その時、階堂が気になる事を言いだした。
「・・・・もしかして、もしかしてですよ・・・今回のアメーバー、統治者が優斗君の立場、それから能力を見極める為に出したんじゃないでしょうか?凛にとっても敵が増えるのは面倒に感じている筈ですからね・・・」
「・・・そうか!そうだよな・・・・」
「あら・・・やっぱりイレギュラーよりあなたの方が頭が切れるのね・・・闇の執行者!」
目の前にはまぶしいばかりに紅に輝く凛の姿があった。
いよいよ生き残った能力者たちの戦いが始まる。
この戦いが人類にとって、地球にとってどういう意味をもつのだろうか?